第208話 聖女に許して貰う条件
「ミスト、下が片付いたぞ」
どのくらい経った後かわからないが、
言っていた通りリア先生が呼びに来てくれた、
しかもアメリア先生も一緒だ、そしてなぜか頭を下げた。
「私がフリータイムだなんて言ったせいね、ごめんなさいね」
今回ばかりはキツさや厳しさをまったく感じさせない、
本当にすまないと思っている感じの、やわらかさすら伝わる謝罪だ。
「いえ、僕が無知というか、変な勘違いをしたからです、すみません」
ハンカチで顔を拭いて立ち上がる僕、
切り替えて、とりあえず迷惑かけた二人に謝らないと。
一階に降りると光が眩しい、パーティー会場は綺麗なもので、
本当にメイドさんたちが片付け終えたようだ、今は仕上げの掃除中。
「随分と時間が経ったみたいですね」
「あれから誰もミストの所へは行かなかったのか」
「いえ、ジゼルさんだけお腹すいてませんかって聞きにきました」
久しぶりの再会がこんなので申し訳なかった、
食欲なんてなかったから断ったけど、胸くらい貸して欲しかった気も。
「こっちだ」
「ええっと、キッチンですよね確か」
「奥を見ろ」
背が低い少女がおそらく余り物であろう甘いお菓子を
一心不乱にモキュモキュ食べている、感じからしてヤケ食いだ。
「ベルルちゃん!」
「……んむっ、んぐっ……」
「あ、ごめん、とにかく、本当に、ごめんなさい!」
床に手を突こうとするとリア先生に止められた、
なので目いっぱい頭を下げる、
すると口の中が落ち着いたのかようやく僕に声をかけてくれた。
「あれは、どういった理由での行動ですの?」
ついエルフが綺麗で踊りたくて、
などと何も考えてなかったら変な言い訳して怒られていただろう、
でもリア先生にアドバイスされた通り、正直にあの時の、
僕の考えを伝えるべく頭を上げて目を見て話す。
「ベルルちゃんが、あのハイドロンのぼっちゃんと踊って欲しくなくて」
「それでセレサさんとのダンスを避けたのですの?」
「うん、僕がセレサさんと踊っちゃうと、そのかわりにって感じで
ベルルちゃんがエドワードぼっちゃんと」
ふうっ、とため息をつくベルルちゃん。
「そんなにわたくしが信用できなかったですの?」
「い、いやその、わ、わからなくって」
「よろしいですわ、今回はわたくしの、ミスト様への愛が足りなかったということですわ」
あ、ひょっとして許された?!
「反省してます、僕は貴族の、公爵レベルのお約束とか全然、何も知らなくて」
「間違っていたとしても、わたくしを思っての行動でしたら許しますわ」
「本当?! あ、ありがとう」
「わたくしも、すねてミスト様と話をしないなどという時間を、半日であっても作りたくはありませんわ」
「せっかくのパーティーを台無しにして、ごめんなさい」
何もかも、全てを奥様方に任せすぎて、
ちゃんと情報を仕入れるって言う行動自体思いつかなかったのは僕の罪だ、
ほんっとうに、僕ってだめダメ貴族だなあ。
「さあ、これからですわ」
「え、後始末ですか?」
「その前に、一番許していただかないといけないお姉様がおりまして?」
うん、正妻のソフィーさんだ。
「許してくれるかな」
「お仕置は覚悟なさいまし」
「えええ」
「初回ですから、できるだけ人の少ない時間を選んでいただけると思いますわ」
「つまり、亀甲縛りで吊るす程度では済まない、と」
お仕置ベッドでついにとうとう……?!
(嫌だあああ! ぜっっったいに、精神的に、死ぬ!!)
「さ、お姉様は三階のテラスですわ」
「えっ、上?!」
「はいですの、夜空を見たいと申してましたわ」
ベルルちゃんが厨房を出るのでついていく、
もちろんリア先生アメリア先生も一緒に……
ソフィーさんへの言い訳もベルルちゃんと同じのにして大丈夫かな。
(他に思いつかないっていうか、迷惑かけた事をとにかく謝らないと)
閉じこもっていた間に何度も頭の中で想定してみたけれど、
毎回『謝るのは私にではなくセレサさんにです』と言われる気がしてならない、
でも、もうそれでもいいかもしれない、その時は『わかってます、でも……』と話を続けよう。
「ミスト」
「はいリア先生」
「これだけは言っておく、土下座はよせ」
理由は決定的にはわからないけど、
なんとなくは伝わった、うん、そういう問題じゃないって事だろう。
「こちらですわ」
あいかわらず二階以上は何もないのだが、
三階の部屋から出たテラスに暖房魔石がふたつ設置されており、
その間でソフィーさんが椅子に座って夜空を見上げている、手前にはメイド長のミランダさん。
「えっと、ここは僕ひとりで行った方が良いのかな」
「お任せ致しますわ」
「じゃ、行ってきます」
きっとベルルちゃん共々、後始末が大変だっただろうな、
僕はまずミランダさんに会釈するとすぐにソフィーさんの耳元でひそひそ、
そしてソフィーさんはそれを聞いてもこちらを見向きもせず夜空を見上げている。
「ご、ごめんなさい、勝手な事して、ぼ、僕は」
「ミストくん、私、嬉しいんですよ」
「えっ、ど、どうして」
「だって、私やベルルちゃんとミストくんとの仲を疑っている方々に、
やっと愛し合っている所を実際に見てもらえるのですから」
いーーーやーーーーー!!!
「お、お仕置は、キツい方のお仕置は、許して下さい」
「今回の件はミストくんが悪い、そうですよね?」
「で、でも見せつけたって、ほ、ほらハイドロンの坊ちゃんに見せつけた事あったのに、
それでもベルルちゃんをルルーシャって名前で欲しがってたから、あまり効果は」
「そうですね、対外的な効果が薄い方もいらっしゃるでしょうが、ミストくんへの効果はありますよね?」
うわ、めっちゃ怖い笑みになってるううう!!!
「その、精神的に死んじゃうので、公開お仕置プレイは、な、なにとぞ」
「ではミストくんが悪くない理由を教えて下さい、それが条件です」
「えっ、じょ、条件?!」
「はい、ミストくんが許されるための条件です」
「ええっと、えええーーーっと……」
やはりここは事実に沿って……
「ベルルちゃんをハイドロンのエドワード坊ちゃんと踊らせたくなくて」
「では、それなら踊るのを『疲れたから』でも良いので理由を付けて打ち切れば良かったかと」
「その、とっさに逃げるようにして、視界に入ったのがエルフで」
「そういえば、あのエルフの奴隷に見とれていたようですが」
ぎくり
「そ、それはその、物珍しくて」
「所属差別ですね、ではお仕置ですね」
いやいやいや、考えろ僕!
「ハイドロン家がベルルちゃんを奪おうとしたのがいけなかったんです!」
「でも断り方はいくらでもありますし、何よりベルルちゃんを信用してない事になりますね」
「ええっと、えっと」
「それって凄く失礼ですね、ベルルちゃんは自分の愛が足りなかったとか言いそうですが」
「その、あ、あれです、エルフが、エルフが悪いんですううう!!」
あの奴隷エルフが誘ったから、ってそれは無理か、誘ってないもの、
むしろ素でびっくりしていた。
「そんなにエルフが気に入ったのですか?」
「いえ実は、その前振りというか、原因となる事件がありまして」
「ではそれを説明して下さい」
僕は前日に覗きに行った、
旧領主邸に泊まったヴァルスルッツ公爵家の奥様方とダンスの練習した時の事を話した。
「……という事でエルフの奥様と踊れなくて、その、エルフと踊りたくなっちゃって」
「つまり、パーティー参加を直前で取りやめたヴァルスルッツ公爵家のせいという訳ですね?」
「は、はい、ええっと、その、エルフと踊れなくて寸止めにされた欲求不満が爆発しちゃって」
おいおいおい変な事言い始めたぞ僕は!!
「わかりました、正直、ハイドロン公爵家や今後お付き合いするサンネイズ商団は敵にしたくはありません」
「あ、じゃあ、そっちのせいにはしちゃいけなかったんだ」
「ですね、ですから前日にヴァルスルッツ公爵家が過度なダンスで虐めて精神的に余裕をなくさせたせい、という事にしましょう」
あ、これは、許される流れ?!
「でもヴァルスルッツ公爵家って公爵順位は」
「安心して下さい、十二公爵ではありませんから」
「そ、そうなんだ、良かった」
「ただ、魔薬草事件で処分された公爵家が複数ありますから、
十三位に近い所まで繰り上がりで来ているかもしれませんね」
それでも上位十二位より下なら大丈夫って事か。
「それで、どうするんでしょう、そして僕はどうなるんでしょう」
「まずは明日です、幸いにもご迷惑をおかけした方々、全員ではありませんが明日も残って下さいますから」
「パーティーのやり直しですか!」
「それは無理です、ミストくんが引っ込んだあと、ダンス後に提案して回りましたが無理でした」
「そんな事まで……ごめんなさい」
根回し手回しは今までだって僕の知らない所でいっぱいしてくれていたんだろうな、
それこそフォレチトンに来てからずっと、いやその前からかも。
(いや、そもそも僕の事いつから好きになったんだろう)
「明日のコロシアムでのイベントについては明日、席についたら教えます」
「はい」
「そこで、迷惑をかけた方々の代表の方に、していただきたい事があります」
な、なんだろ?
「僕でできるなら、何でもします」
「いいわ、ではミストくんを許す方向で」
「よ、良かった」
のかな?
「ミストくん」
「はいっ」
「これから私はミストくんがして欲しいであろう事をします」
「は、はい」
「では歯をしっかり噛んでください」
(あっ、これは)
と直立して歯を食いしばって目を瞑る!
パッシーーーン!!
い、いたひ。
(晴れてきて『痛い』が『いたひ』になっちゃう)
「もう良いですよ」
椅子を片し始めるソフィーさん、
ミランダさんが受け取った、僕は熱い頬を撫でる。
「ソフィーふぁん、あ、あひがとうごふぁいます」
ビンタされ頬を晴らしてお礼を言う
だめ貴族だもの。 ミスト
その後、現伯爵邸に戻って食べそこねた夕食をひとりで済ませる、
わざわざ僕の分を多めに残してくれていて、温めてもらい美味しくいただいた、
料理的には完璧なもてなしだったのに、僕のとんでもないミスで……
「お部屋に戻られる前に、お風呂へどうぞ」
「あっ、はい」
とモリィさんに促されて浴室へ行くと、
そこに待ち構えていたのは隷属の首輪『だけ』の姿をした、
首輪を除けば一糸纏わぬ全裸のエルフだった!!
「ご主人様っ、お待ちしておりましたっ!」
(な、な、なんでーーー?!)
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