第176話 男になるための三つの試練
伯爵邸の居間、集まっているのは僕とソフィーさんとベルルちゃん、
あとメイドのミランダさんキリィさんモリィさん、
そしてなぜかメイドと同じ格好をしている財務担当兼領主代行のサリーさん。
「えっとサリーさん、なんで」
「ミストくん、真面目な話ですから、突っ込むのは終わってからで」
「あっ、はい」
外はすっかり寒くなったので火属性の魔石が部屋の四隅で回転しながら温めてくれている、
これ高級品らしくプレオープン中のエコー(ミストシティの四階建て商店)で人気らしい。
「エスリンさんは落ち着いています、いまリアさんが看てくれています」
「良かった、って良いのかな」
「正直、エスリンさんがあそこまで回復できたのはリアさんのおかげです」
うんわかる、戻ってから見たあの精神依存度は尋常じゃなかったから。
「ミスト様、今は徐々に徐々にリアさんを離して自立を促している所ですわ」
「うん、その最中に僕がゴネてこっちへ連れてくる事になっちゃったんだよね、ごめん」
「仕方ありませんわ、ミスト様が我慢できなかったのですわ」
こうなってしまったから、現実を見たからこそわかったんだけれど、
時期尚早だった、だからといってまたモラベスクの病院に閉じ込める訳にはもういかない。
「ミストくん、もうすぐ年が変わります」
「うん、知ってる」
「辺境伯内定、そして春の結婚式に向けて、していただく事がふたつ、いえ、みっつあります」
「ですわ、これは男の試練と思っていただいてかまいませんわ」
「男の試練って! そんな」
でもまあわかる、僕って頼りないから。
「まずひとつ、来週には闘技場がプレオープンします」
「出し物は何だっけ」
「闘技大会です」
うん、闘技場だからね。
「学院で拾った小説で読んだ事ある、三十二人とか六十四人とか集まって、
トーナメントで闘ってキンキンキンキンするやつでしょう?」
展開が伸びて、読者が飽きて本を投げ出しそうな感じの。
「そのあたりは一日で終わりますから、そこまでの大人数ではありません」
「そうなんだ」
「メインはリアさんの争奪戦です」
なんだそれ?!
「ええっとリアさんって、リア先生って正式な僕の婚約者だよね?」
「はい、モラベスクでの伯爵就任式ではじめて公に正式発表されました」
国王陛下が宣言しちゃったからね。
「そこで初めて気が付いたリアさん周辺が手を打ってきました」
「逆に今まで気が付かなかったんだ」
「ミスト様、そのあたり、煩い両親には隠していたようですわよ?」
ベルルちゃんも色々知ってるのか、
逆に知らないのは僕だけだったり。
「それでねミストくん、勝手にとはいえリアさんに決められた婚約者が今現在、四人いるの」
「学院時代からの人達かな、リア先生が親からその婚約者以外との、男性との接触を禁じられていたっていう」
「リアさんの知らない所で増えたり減ったり戻ったりとか色々あったみたいだけど、その四人が押し掛けてくるの」
そういえばアメリア先生が実家に戻った事あったけど、
そのあたりの話もしたのかな? 何せリア先生のお父さんの姉だもんな。
「それでミスト様、舞台を用意したのですわ」
「あー、その四人に闘わせようっていう、誰と?」
「ミストくんよ」「ミスト様ですわ」
なんでーーー?!
「りょ、領主なんですけれど」
「領主だからよ」「領主だからですわ」
そういや国王陛下だって剣を構えたら強そうだった。
「という訳でミストくん、まずリア先生の、親が勝手に決めた婚約者四名がトーナメントで闘います」
「その後、勝ち残ったひとりとミスト様で一騎打ちですわ」
「そんな、相手が三戦目だから余裕で勝てるだろうみたいなこと言わなくても」
リア先生の婚約者ってだけでも絶対強いのに!
「ミストくんは決勝に残ったひとりに勝ってください」
「どうやって?」
「闘って」
「どうやって闘うの?」
「剣と剣の勝負です、一撃で決めて構いません、キンキンキンキンいわなくても」
無理だあ!
「えっと、本気で言っている?」
「ミストくんが本気で戦えば勝機はあるかと」
「負けたらどうなるの」
「どうなるのでしょうね」「わかりませんわ」
「えっなにそれ」
あー僕が負けた所でリア先生が私が結婚するのはこの、
とか言ってズタボロになった僕を指すとか?!
それは、あまりにも格好悪すぎるなあ。
「とにかくミストくんは頑張って勝てるように稽古して下さい」
「アメリアさんが短期特訓するとはりきっていらっしゃいますわ」
「へ、へい」
変な返事しちゃった。
「翌日またまったく違う催しが闘技場であるのですがそれはまあ当日」
「当日でいいんだ!」
「闘技場についてはとりあえず以上です」
不安しかない。
「続いてふたつめ、砂漠の国からの南下についてです」
「あ、もう転移テント揃ったんだ」
「長距離用のを五セット用意しました、当日までに予備をもうひとつ追加します」
「当日っていつ」
「闘技場での戦いが終わって数日後ですね、年末です」
忙しくないのかな。
「今年中でないといけないの?」
「はい、予算計上の都合で」
「えっなにそれ、予算が余っているとか?」
ここで出てきたのが財務担当のサリーさんだ、
相変わらず前髪で目が隠れている、そして今日はおとなしい。
「その、闘技場もですが、今年中に動けば、余りを来年度予算と一緒に使えるんですう」
「そういう仕組みなんだ。じゃあ今年中に動かなかったら」
「わかりやすくとばして言うと、予算が倍、違ってきます……」
なるほどわかった。
「とにかく今年中に旅立てば良いんだよね?」
「そうですね、ミストくんがアッサムポッサムから南へ踏み出せば、今年はそれだけで構わないくらいです」
実際それだけで終わったら問題になりそうだけれども。
「それで目指す先ってナスタって国だっけ」
「学校や学院ではそう習いましたが現状は違うようです」
大きな世界地図をモリィさんが広げてくれる、
それを見つつ解説してくれるソフィーさん。
「こちらからはナスタと呼んでいますが、
現地ではナッスタともナナスータともナスタンとも呼ばれています」
「え、それ、綴りの問題? 現地語の読み方とか」
「似たような話ですね、みっつの地域が内戦していて、それぞれで呼び方が違うのです」
なるほど、これは仲が悪そうだ。
「アッサムポッサムからオーム王がよく行っていたヤスタという都市と、
そこと対立していて三地域で一番弱いヨンスタという都市、行くならどちらかですね」
「本当だ、地図から見ると両方がアッサムポッサムから均等に近い場所にある」
「ヤスタはオーム王と繋がりが深いようですので、そこへあえて行くか、避けるかです」
うーん、オーム王の味方というだけで悪そうだけれど、
かといってそこの敵対地域が仲良くなってくれるとも限らないしなあ。
「遠い向こう側の地域は砂漠と面してないんですね」
「ムスタですね、ここは女帝の治める地域だそうです、詳細は調査中だそうです」
「調べてくれてるんだ」
砂漠を避けるすっごい大回りで誰か調査に行ってくれているのかな?
「という事でこれも当日までに調べて考えましょう」
「うん、なんとか平和的に行くと良いね」
「内戦の状況はどうあれ、どちらかの都市と結びついて経済的に交流が持てれば辺境伯確定です」
それでやっと一安心、結婚できるって感じかあ。
「以上がふたつめです、あと最後にみっつめなのですが」
「はいはい」
「結婚式までに、エスリンさんをちゃんと落として下さい」
「え」
「そうですわ、リアさんからエスリンさんを取り戻していただきますわ」
そうきたか。
「う、うん、がんばってはみるよ、でも結婚はできるんだよね?」
「辺境伯内定すればそうですが、まだ身も心もリアさんのもののようですよ」
「ですわ、それを結婚式までに少しずつ、少しずつミスト様の方へ引き寄せてくださいまし」
「でっきるかなぁ、でっきないかもしれないなぁ」
「それだとリア先生も不幸になります、リア先生が愛するのはもうミストくんだけなのですから」
ええっと、どういうことだ、
エスリンちゃんがリア先生だけを好きだとリア先生が不幸になるのは、
つまりエスリンちゃんが僕を好きにならないと僕が不幸になるからてこと?
リア先生が僕を愛しているから、エスリンちゃんがリア先生を愛していると困る?
エスリンちゃんは困らないのかな? 僕はエスリンちゃんを愛してる、で、ええっと
「あーうん、わかった、がんばってみる」
あんまりわかってないけど。
「以上、みっつの課題を全てクリアしてください」
「ですわ。ミスト様には男を見せていただきたいですわ」
「男を、ねえ」
「ミストくんは私達にとって魅力的な男性です、ですからもっと、男を魅せてください」
「は、はい、がんばりまっす」
急に男と言われても
だめ貴族だもの。 ミスト
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