第125話 とりあえず答えてみた(二回目)

「本当に、申し訳ありませんでした」


 領主の大きなベッド、

 その中央で全裸土下座をする僕。

 明日どころかお風呂から上がったらソフィーさんベルルちゃんが部屋に来てくれていて、

 僕が頭の中でもやもやしていた事柄を全て吐き出した結果がこれである。


「わかってもらえれば良いのです」

「まったく、誕生日二日前に、とんだ災難ですわ」


 うん、こうなるのは当然だ、

 そもそも本来、学院Gクラス最下位だった僕が、

 Sクラス同率トップだった聖女ふたりに口で敵うはずがない。


「本当に理解していただけましたか?」

「わたくしたちが、どれだけ本気で真剣に、ミスト様を愛しているという事を」

「うん、た、多分、い、いえ、ちゃんと、わかりましたです、はい」


 いや正直、言い包められた感は満載なんだろうけど、

 基本的な頭の良さが違いすぎるとでも言うのだろうか、

 そもそも僕の感じている違和感や不信感をきちんと伝えられる知能が僕には無かった、

 にもかかわらず『愛が信じられなくなってきた』とか『父上母上を脅している』とか

 大した確信やその証拠を提示できないで言ったものだから『ではなぜ? どこが?』といった問にうまく答えられない。


「ミストくん、まずミストくんは疲れています、だから余計な妄想に囚われるのです」

「い、いやでも父上母上は僕に警告を、そして助け出そうとしてくれたような」

「ミスト様、ですからわたくしめとソフィーお姉様が何か悪い事をしているのであれば、おっしゃってくださいませ」

「そ、それがその、母上との接触を妨げようとしているんじゃないかと」

「もう、ミストくん、また最初から説明しないといけないの? 意地悪で引き離している訳ではないのですよ」


 いやカジーラの領主としての仕事が両親にあり、

 フォレチトンでの領主としての仕事が僕にあり、

 それぞれの役割のために引き離されているのはさすが僕でも最初からわかっている、

 そうではなく、父上かもしくは、特に母上が『何か』に気が付いていて、

 本気で『逃げなさい』と言ったり憐れんで『かわいそう』と言った事が気になるのだ。


(でも、それだけでは疑う証拠としては弱すぎたんだ)


 結果、無駄にソフィーさんベルルちゃんを怒らせただけだった、

 さすがに『そもそも告白したのは僕』という前提は持ち出さなかったものの、

 確かに全て、何もかも僕のために尽くしてくれた一連の流れは、とても愛なしには考えられない、

 という内容のことを説得された。


(それでも引っかかる、聖女の力技でねじ伏せられただけで、真実が何か隠されているはず!)


 そう心の奥では思っていても、

 今の弱い立場の僕ではこうやって全裸土下座でこの場をしのぐので精いっぱいである。


「わかりました、ミストくん、まずは権利を行使してみてください」

「へ? な、なんの」

「私とベルルちゃんがミストくんを愛する一番の理由を当てる権利です」

「あー爵位が上がる毎に一度だけ聞ける」

「正解したら許してあげます、もし間違えたら……」


 うわーこれはプレッシャーがかかる!


「お仕置は勘弁してください」

「……そうですね、私達にも原因はゼロではないので、噴水前ベッドでのお仕置は今回はしません」

「わたくしは特に来客の多い今回は公開お仕置にもってこいの日だと思いますわ、でもソフィーお姉様の意見を尊重いたしますわ」

「とにかくお仕置の詳細は後にして、ミストくん、いますぐ答えてください」

「い、いまここで、ですか、えっと」


 とりあえず次に聞くことは決まってたから、それでいこう。


「わかりました、ソフィーさん、ベルルちゃんがここまでして僕を愛してくれている理由、それは」

「それは?」

「そこまでして徹底的に愛し尽くして、好き好き言ってくれる、その真実は……!」

「さあ、お答えになってくださいまし」

「それは、それは、それは!!!」


 今はこれしか考えられない!


「それは神様から、女神さまから授かった『天啓』だからです!!」


 ……ぽかーんとした表情のふたり。


「あのミストくん、答えが抽象的すぎてよくわからないわ」

「宗教的な、偶像的な言い方ですの? それとも思想、哲学的な表現ですの?」

「いやそうじゃなくって!」


 あーこれ何か捕らえ方に相違がある。


「つまり、運命ってミストくんは言いたいのよね?」

「ええっとソフィーさんの大教会って女神ええっと誰だっけ女神オポチュニティ?」

「女神ディオネス様がなにか?」


 微妙に『オ』しか合ってなかった!


「その女神様が教会でとか夢の中でとか教会の偉い方の間接的な言葉とかで、

 神の言葉、女神様の命令として『ミスト=ポークレットを愛せ』と」

「んーミストくん、大教会も聖教会も大概が『汝、全ての者を愛せ』の精神よ、

 だから例え女神様が降臨なさったとしても『誰々を愛せ』って個人指定は、具体的には無いの」

「そうですわ、もちろん『隣人を愛せ』『憎き者を愛せ』など抽象的に断定するものはありますわ」

「でもミストくん個人を名指しやそれに近い形で指名する事はないっていうか、そもそもそんな天啓は無いかと」

「ですわ、あったとしたら自称・天啓を受けた者の戯言ですわ」


 ええっと、つまり『天啓』自体が無いってこと?!


「いやいや経典とかあるよね?」

「そこに『ミスト=ポークレットを愛せ』とでも?」

「あ、ごめん、そういう事じゃないや、ええっと、神様が、女神様が、ソフィーさんやベルルちゃんに」

「それはありません」「ありえませんわ」


 なんだかよくわからないけど教会的にありえないらしい。


「つまり、神からの命令で愛しているのでは、ないと」

「そもそも、そのようなものがありましたら逆に反発するかと」

「そうですわ、わたくしだってミスト様以外の方との

 婚約を命じたのは上の方ですわ、それをこうやって断りましたもの」


 あーそもそもそんな天啓の言う事を聞くんであれば僕なんかと結婚してないと、

 なんとなく腑に落ちたというか、そうだよな、そんな苦行を科す意味がないのか。


「てっきり修行として僕を一生愛せと言われたのかと」

「苦行ではないですね、そういう意味では、広い意味では運命、天命、天啓と言えなくもないです」

「ですわ、愛しい、愛するミスト様とこうやって巡り合えたのが天啓、と言われればそれはそれで正しいですわ」


 どんだけ僕の事を好きなんだよこの聖女様は。


「という事で私がミストくんを好きな理由は、ミストくんの言う所の天啓ではありませんでした」

「わたくし、もし女神セレネ様が誰々と結婚しなさいってミスト様以外の名前を出したら、きっぱり断りますわ」

「信じる神様より僕を取るんだ……」


 宗教的理由で僕を好きになった、

 僕を愛さなくちゃいけなくなった、

 という事でないとなると、ますます理由がわからなくなってきたなこれ。

 

「さてミストくん、次は私の番です」

「は、はいソフィーさん、何でしょう」

「ミストくんは私の事、好きではなくなったのですか?」

「そんな訳は無いです! ただ、ただ、何か隠されているのが恐くなって」

「お義父様、お義母様にですか? ですからそれは勘違いだと思います」


 あーまた話が最初に戻りそう、

 それを繰り返したら本当にきつーいお仕置に持っていかれそうだ。


「ミスト様、具体的に説明できないなら、もうあきらめた方が良いですわ」

「……はい」

「そうですわね、わたくしの誕生日に、もう一度チャンスを与えますわ」

「え? ベルルちゃん……」

「わたくしに、わたくしがミスト様を一番に好きな理由を当ててくださいませ」


 思わぬワンチャンが来た!


「いいんですか?」

「よろしいですわねソフィーお姉様?」

「ベルルちゃんが独自でするのなら何も言わないわね」


 よし、明後日までに考えよう。


「ではミストくん、今回の件についでですが」

「はい、もうお仕置は勘弁してください」

「いえ、これは私とベルルちゃんの愛が足りなかったのだと思います」

「そうですわね、ですからたっぷり愛し合いましょう」

「い、いまからですか、でも明日はパーティーの参加者を迎えないといけないんですよね」


 基本的には身内感満載だけど、ちょこちょこ名義上でも偉い人も来るっぽいし。


「いえ、今から明日、一日中、愛し合いましょう」

「えええ、ここで?!」

「それが良いですわ、そうすれば、わたくしどもの愛も少しは証明できますわ」

「来客はどうするの?!」

「それよりもミストくんが大事です」「当日まで待たせれば良いのですわ」


 そう言ってにじり寄ってくるふたり!


「いやいや一晩中どころか明日一日中もって!」

「せっかく精力回復ポーションをいただいたのですから使いましょう」

「重要な来客には事情を説明しますわ、なんでしたらこの部屋に入っていただいて」

「やめてー!」

「ミストくんが悪いんですよ、信じていただけないから」「ですわ、信じていただける事をするまでですわ」


(ああああぁぁぁーーー……なんでこんなに愛されているのおおおお???)


 愛されている事実のみ身体に刻み込まれる

  だめ貴族だもの。 ミスト

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