第109話 ベルルちゃんがやったみたかったこと

「いいのかなぁ、本当に、いいのかなぁ」

「あら、もう何の問題もありませんわよ?」


 今は夜、どこに居るかというと聖教会での吊るし上げ大会もとい

 僕を迎え入れての大集会が終わり心身ともに疲れ切って帰ってきた所だ、

 よりにもよって聖教会生徒用の、ベルルちゃんのために建てられた学院寮に。


「それにしてもびっくりしたよ、役員で母上が出てきた時には」

「聖教会なりの、ちょっとしたサプライズのようでしたわね」

「妙にしゃべり方がぎこちなくって、からくり人形かと思っちゃった」


 あんまり、いやほとんど話せなかったけど、元気そうで良かった、

 身体もふっくらしてきてとても寝たきりだったとは思えない元気さだ。


「ちょっと外堀から埋められてる気がして、怖い」

「ミスト様、外堀どころか内側にはわたくしめが入り込んでいますわ?」

「そりゃそうか」


 僕はソファーに座り、

 アイテムバッグから新しい卒業証書を眺める。


「う~ん、Cクラス相当かぁ」


 そうそう、胴上げの後の事をざっと話すと、

 お茶会代わりという訳ではないが親睦のために、

 学院の食堂で集まってくれた九人とそこそこ話し込んだ、

 なんでも悪い意味でクラスを仕切っていた奴が魔薬草事件で処刑され、

 本当の意味でのCクラス結束を卒業後も固めて行きたいのだとか。


(と言いながら僕に近づきたいのだろうか)


 そうは言っても明日やっと子爵になる身だ、

 貴族的にも教会的にも僕個人より格上の子ばかりだった、

 なので接触目的があるとしたら聖女様だろう。


(……と決めつけるのは、僕の悪い癖だ)


 話し込んでみると案外、居心地が良かった、

 Gクラスの子でも、もっと話したかったと言ってくれた子もいて、

 僕の方からも、もっと積極的にDクラスCクラスくらいなら話し掛ければ良かったと今更思う。


(現にアレグもメイソンも、FクラスEクラスとよく話してたみたいだし)


 そうそう、後でふたりにお茶会に呼ばれてた事を聞いたら

 『あれ? そんなことあったっけ?』『覚えてないから大して良い事なかったよ』

 というコメントが貰えたので許す事にした、Gクラスの生徒なんて、そんなもんだ。

 ちなみにふたりとも王都の宿泊は自前で凄く安い宿だったらしいので、

 特別来賓として僕の、ポークレット家の王都別邸に泊まってもらっている。


(あと、懐かしい再会もあったなあ)


 たまに小銭稼ぎで仕事をさせてもらっていた、

 清掃職員のゼベットじいさんにフォレチトンで試作中の、

 特別にやわらか~く加工したオーク肉と子供ミミック肉を持って行った。


(あんなに喜んでもらえるとはなぁ、うん、良かった)


 あとは明日、アレグとメイソンと最後に訪れる場所がある、そこは……


「お待たせいたしましたわ」

「え? どうしたの学院の生徒服なんか着て」

「わたくし夢だったのですわ、制服で愛する恋人と、この寮で愛し合うのが」


 そう言って僕の着ていた学院時代の制服をアイテム袋から出してくる。


「いつのまにそんなの?!」

「お屋敷で引っ越しの時に拝借させていただきましたわ」

「そんなの大切に持っていたんだ」


 なんか匂い嗅いでるし!


「この寮、余計なお世話な事に男子寮と繋がっていますの」

「それはメイドが共用だからでは」

「いえ、婚約者をいつでもここへ呼べるようにとの配慮でしたわ」


 男子寮の二階が主な生徒の個人寝室で、

 そこから空中廊下を通じて女子寮の二階まで鍵さえあれば入ってこられる、

 そして今居る三階のベルル様専用の寝室でゴニャゴニャできる仕組みらしい。


「もちろん通じる鍵はあの一応の婚約者には渡しませんでしたわ」

「うん、きっと鍵を貰えるのを夢見て入寮したんだろうね」

「そしてこれはわたくしの、けじめというか夢の実現のひとつなのですが」


 と、持ち手の端がハートになっている鍵が僕に渡された。


「これがその?」

「はいですわ、受け取ってくださいませ」

「僕に? もう生徒じゃないのに!」

「ですからあくまで、夢の実現ですの」

「そっかそっか、じゃあ受け取るよ、ありがとう」


 これはこれで御守りにしよう。


「嬉しいですわ、やっと、やっと夢見た学院生活を体験できますわ」

「な、涙をこぼさなくても」

「ずっとギャリソンに見張られて、囚人のような生活でしたもの」


 ああ、あの強そうな執事さんか、融通の利かない感じの。


「甘い物も持ち運べませんでしたわ」

「アイテム袋へ入れても?」

「全て調べられますの、違反すると最悪、自主退学させられますわ」


 色々と大変だったんだろうなあ、

 って僕の服に手をかけて脱がしはじめるベルルちゃん。


「さあさあ、制服にお着替えになって」

「えっ、お風呂まだなのに」

「終わった後で一緒に入りますわ」


 いいのかな寮のお風呂、女子寮って事は女湯なのに!

 メイドさんとか女性従者が入っていたらさすがに……


「安心なさいませ、わたくし専用の湯船ですわ」

「あっ、そうなんだ」

「という事で……」

「ちょっと待って!ベルルちゃん」

「なんですの?」


 うう、可愛い、そして相変わらず危険な身体だ。


「ちゃんと自分で着替えて、あらためてノックして入ってくるよ」

「それは良い考えですわ!学院時代を思い起こさせていただけますわ」

「飛び級じゃなかったら今頃、ベルルちゃんまだ二年生だからね……ちょっと待ってね」


 着替えを貰って隅で制服姿になり、

 部屋を出て一呼吸置き、ノックする。


 コンッ、コンッ


「はいですわ」

「ミスト=ポークレットです」

「お待ちしておりましたわあ!!」


 うっわ、すっごい喜んでいる!


「失礼いたします」


 入るとベッドの上に座っていて、

 ぽんぽん、と隣の場所を叩いている、

 目が輝いて満面の笑みだ、相手は僕なのに!


「ミスト様、貴方のベルル=ヴェルカークですわ」

「う、うん、その、夜這いに来ました」

「鍵をお渡ししたのですから、当然ですわあ」


 早速目を細め口を尖らせてくる。


「ベルル様、このまま連れ去ってしまいたい……ではその、早速」

「~~♪」


 学院時代に一晩だけ戻って恋を楽しむ

  だめ貴族なのにごめんね。 ミスト

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