第104話 忘れた頃のハニートラップ 再試験前夜なのに?!

「晩餐会、疲れたーーー!!」


 ざぶーんと湯船に浸かる、

 ここはポークレット家の王都別宅、

 大教会で僕の歓迎会かと思ったらソフィーさんの誕生日祝いだった、

 危うく勘違いする所だった……ただ添え物とはいえ一応婚約者の僕は、

 ずっと隣りにいないといけなくて、あえて自分から置物になっていた。


(国王陛下が変に僕をフォローしてたのも気まずかったなぁ)


 忘れよう、現にソフィーさんの両親の名前ももう忘れた、

 家から出てる事になっているんだし最低限の挨拶は済ませた、

 余所余所しかったけれど、うん、あれはあれで良い、僕は大教会の信徒じゃないし。


「ていうかソフィーさん帰ってこなかったな」


 結局、実家には帰れないとはいえ聖女として大教会に泊まるって言って、

 ベルルちゃんも聖教会で宿泊、リア先生は騎士団長就任を控えてお城に泊まり、

 アメリア先生は実家に用があるとか、リア先生の両親をしばきに行ったらしい。


(リア先生の実のお父さんがアメリア先生の弟なんだっけ)


 馬車を運転してきた皆さんもおのおの王都の家へ、

 モーリィさんは妻と子と久々の再会を楽しんでいる頃だろう、

 そしてこの屋敷にはキリィさんとモリィさんが僕の世話を、のはずだったのだが……


「あのふたりも宰相に報告とか言って、お城に行ったっきりなんだよなぁ」


 つまり、ここには僕と元からいたメイドしかいない、

 その気になれば抜け出して王都の娼館にだって行けちゃう!

 いや行ったら後が怖いから行かないけれど、明日は再テストだし。


(筆記は結局、同じ問題しかやっていなかったけど、まさか、ねえ)


 一応、他の問題も解いてみるか、とお風呂そこそこに出ると、

 この館のメイド長、三十代前半のエスタさんがバスタオルを持って待っていてくれていた。


「お体をお拭きいたしますね」

「う、うん、ありがとう」


 チュニビの辺境伯邸でもそうだったけど、

 この手の熟女メイドはなぜこうも魅力的な身体をしているのか、

 メイド服とはいえ元が生意気ボディすぎて色香を隠し切れていない。


「はい、お着替えです」


 下着を履いて寝間着を装着する、

 銀髪が良い匂いのメイドさんだなぁ、

 熟れた魅力というか、包容力があるというか。


「お水をどうぞ」

「あ、わざわざ、ありがとう」


 すっぱい果実がほんのり混ぜてあるっぽい、

 お風呂上がりには美味しい、と寝室へ、ベッドが大きい。


(あれ?なぜかぞろぞろと)


 メイドがふたり増えて三人でついてくる、

 ええっとひとりはテレサ、もうひとりはリタだっけ、二十代だろう、

 珍しい陶器の茶入れを持ってきてくれている、コップも陶器、茶碗というらしい。


「ええっと、これから勉強を」

「その前にマッサージをさせていただきたいのですが」

「えっ」

「お風呂上がりのやわらかい身体のうちに」

「じゃ、じゃあ、お願いしようかな」


 僕は以前にリア先生やソフィーさんベルルちゃんにされた極上マッサージを思い出す、

 あれはやみつきになる、でも毎日させるのは申し訳ないのでこちらから頼む事はしなかった、

 それをメイドさんたちがやってくれるのであれば断る理由もない、と大きなベッドでうつ伏せになり身を任せる。


「体重をかけますから痛かったら言ってくださいね」


 ……とまあメイド長エスタさんと他のテレサさんリタさんによる、

 三人がかりのスペシャルマッサージはとろけて意識が朦朧となる、

 そして脱力しきっているのにどこがとは言わないが一か所だけ、とんでもなく元気に!


(いやいやこれはメイドによる健全なマッサージなのに!)


 しかし際どい所を際どくマッサージされると健全な男としては仕方ない訳で……


「はい、では仰向けに」

「い、いや今、仰向けになると」

「構いませんよ、ほら」


 三人がかりで上半身を起こされると、

 陶器から注いだ濃い緑のお茶を飲まされる、

 こ、濃い、とんでもなく濃い!そして何か小さな固形物が入っていた?!


「な、なにを、これはっ」

「ふふ、楽にしていてくださいね、直に効いてきますから」


 飲ませてきたメイド長エスタさんのその表情は、

 とにかく恐ろしかった、そしてやがて僕は仰向けののち、

 身体を蹂躙され、精根尽き果てて小一時間後には意識を失った……。



 チュンチュン、チュンチュン



「ミストくん、おはよう」

「おはようですわミスト様」

「……ん、おは……よよよよよ?!」


 朝の挨拶にベッドまで来てくれたソフィーさんベルルちゃん、

 しかし僕の隣ではすやすやと裸のメイド長エスタさんが……!!


「昨夜はお楽しみだったようね」

「これくらいの余裕がなければ再試験は合格しませんわ?」

「あ、あの、その」

「エスタさん、ミストくんをちゃんとお世話できるかお試し雇用だったのですが」

「こうなると正式に雇うしかありませんわ」


 いつのまにか普通に淡々と僕の朝の準備をしてくれている他のメイドふたり、

 起きようとした僕に目を瞑ったまま放さないエスタさん、ああ、こ、これは!!


(油断したら、まーたハニートラップだったー!!)


「ミストさん、エスタさんは前の主人から引き続き、正式にこの館で働いてもらうという事で」

「は、はいぃぃ」

「では朝食をいただきますわ、その後は久しぶりの学院ですわ?」


 あー何もかも全てを許容してくれる正妻側室が恐い、

 そしてエスタさんも怖い、他のメイドふたりも怖い、

 怖い怖い怖い、女性って、怖いよーーーーーーーーー!!


 しかしなぜか身体はスッキリしていた

  だめ貴族だもの。 ミスト


 ========================================


 時間は巻き戻って夜、お風呂で主人であるミスト=ポークレット男爵を待つメイド長……


(計画通りね)


 私、チュニビの元チュニチュレチュル伯爵家に仕えていたエストは、

 新しい主人たるポークレット男爵家の若き当主、

 ミスト=ポークレットを暗殺するために控えていた。


(あとはマッサージで油断させ、薬を飲ませて腹上死に見せかければ……)


 すでに部下であるメイドのテレサとリタとも打ち合わせ済み、

 上手く行っても行かなくてもこれを実行する事で娘が助かるなら……

 そもそも魔薬草事件に、私が仕えていた伯爵家が加担していたのはわかっていた、

 しかし大切な娘をチュニビで人質に取られ、すでに夫の居ない身としては、

 素直に従うしかなかった、事件は解決してもそれはまだ続いていた。


(ああ、アンナ、いったいどこへ行ったの……)


 娘の事しか考えていない可哀想なメイド、それはわかっている、

 すでに悪事の首謀者も、この館を本来任されていた執事も、

 全員処刑されたというのに娘だけは帰ってこない、消息不明のまま、

 そんな状況でリタから聞いた伯爵家からの最後の指令、それがこの暗殺……


(せめて一矢報いようという事なのね、誰かは知らないけれども)


 用意された他国のお茶は心臓を止める薬を完全に誤魔化してくれると聞いたわ、

 男は気持ちよくさえなれば何でも言う通りにしてくれる、

 意識朦朧とするまでマッサージで快感を与え、とろけたまま飲ませてしまえば、

 あとは軽い運動でいとも簡単に心臓が止まる、幸い応急処置できるような者は居ない。


(悪く思わないでね、いざとなったら私も死ぬわ、でも娘のアンナだけは……)


 指令を出した、私を脅している者の正体を探って突き出す暇はない、

 あれほど大きな規模の組織、捕まっていない大物がいてもおかしくない、

 その者の言う通りにすれば娘の命は助けてもらえるはず、もうそれに賭けるしか、ない。


「お体をお拭きいたしますね」

「う、うん、ありがとう」


 まだ若い、もうすぐ殺さなくてはいけない当主に、

 お詫びの意味も込めて念入りに拭かせてもらう、

 せめて綺麗な身体で……とはいえこの後、私の汚い身体で汚すのだけれども。


(テレサもリタも準備できたようね)


 彼女たちもおそらく伯爵家の手先、そして生き残りの伝言係、

 私の仕事をきちんと伝えてもらわなくてはいけないから、

 いざとなったら罪は私ひとりが被らなくてはならない。


「はい、お着替えです」


 死に装束と思うと手が震えそうになる、

 次は死に水とでもいいましょうか……


「お水をどうぞ」

「あ、わざわざ、ありがとう」


 これはまだ普通の、果実を薄く混ぜた水、

 ただこの果実は薬と混ざると自然と効果が増すらしい、

 だからといって証拠になる訳ではない、これはテレサが用意してくれた。


(私達がついてくるのを見て、期待しているわね)

 

 いくら婚約者がいても若い男の子、それは仕方がない、

 そしてそれにつけこんで、しようとしている事は……


「ええっと、これから勉強を」

「その前にマッサージをさせていただきたいのですが」

「えっ」

「お風呂上がりのやわらかい身体のうちに」

「じゃ、じゃあ、お願いしようかな」


 あきらかに私の身体を見ていた、

 あとは三人で流れのままお茶を飲ませれば良いだけ、

 そう、あの少しの間の激しい運動で心臓が止まる薬を混ぜて……


「体重をかけますから痛かったら言ってくださいね」


 三人で汗をかかせ喉を乾かせる、

 勢いよく飲んでもらわないと吐き出される恐れがある、

 お茶に完全に溶けてしまうと効果が薄れる、混ぜるのは、ぎりぎり。


(んふ、気持ち良さそうね)


 している事は単なるマッサージでも、

 メイド女性三人に同時にされているというだけでたまらないでしょう、

 この先の事は頭によぎっているはず、そして……


「はい、では仰向けに」

「い、いや今、仰向けになると」

「構いませんよ、ほら」


 そう言って混乱させているうちに濃い緑茶に薬をポトリと混ぜて飲ませる、

 一気に飲み干したがやはり喉を通った時に勘付いたようね。


「な、なにを、これはっ」

「ふふ、楽にしていてくださいね、直に効いてきますから」


 あとは激しい運動ですぐに心臓は止まるでしょう、

 せめて最後くらいは極楽の中で……そう思って男爵の意識をとばすまでいくと、

 手伝っていたメイドふたりのうちリタが話し掛けてきた。


「もういいでしょう」

「あら、死んじゃった?」

「いえ、元々殺すつもりはありません」


 そう思って予備の薬を緑茶で飲むリタ。


「あ、あなたそれ」

「単なる栄養剤ですよ、娘さんはつい先日ですが無事、騎士団が救出済みです」

「ええ、今はチュニビで、お母さんと会えるのを楽しみにしています」


 テレサまで!


「ほんと?!じゃ、じゃあ、これは、どういうこと?!」


 幸せそうに眠るミスト男爵から離れる。


「最初からひと芝居、打たせていただきました」

「詳細はこちらの方から」


 そう言って入ってきたメイド服の女性ふたり、何度か見た覚えがある。


「貴女にはアリー、メリーと名乗った方が思い出しますね?」

「チュニビの辺境伯邸でお会いしたと思います」

「ああ、カジーラの!」


 チュニビッフィ伯爵についていたメイドだわ!


「私達は実は城からの、宰相の命令で動いて事件を探っていました」

「そしてそれは、こちらのテレサとリタも同じです」

「まさかスパイ、アリーもメリーも、そしてテレサもリタも!」


 じゃ、じゃあ殺せと言う指令は!!

 テレサとリサも口を開く。


「エストさん、貴女の娘を想う覚悟を見せていただきました」

「貴女こそこの王都のポークレット邸を任せるに相応しいでしょう」

「試して……いたの?!」


 そんな、初めから娘は無事と言ってくれれば!

 疑問に答えるためにアリーとメリーが教えてくれる。


「まず、今は私はアリーではなくキリィです、ミスト様の副メイド長兼愛人です」

「私もメリーではなくモリィです、ミスト様につけていただきました、同じく副メイド長兼愛人です」

「なぜ、どうして殺そうとさせたの?本当に殺そうとするか確かめて、処分するため?!」


 私は後ずさったが二人はやわらかい表情を見せた。


「違います、理由はミスト様が、気持ち良いからです」

「……え?!」

「本当に殺そうとしてするハニートラップは、さぞかし恐怖と同時に通常ではありえない快感を感じた事でしょう」


 満足そうな寝顔のミスト男爵。


「まさか、それだけのために……?!」

「正妻であるソフィー様、側室の第二夫人予定であらせれらるベルル様は、

 とにかくミスト様の事を一番に考え、ミスト様が喜ぶ事をしようとします」

「私達も以前、その策略に乗せられミスト様をハニートラップにかけました」


 つまりハニートラップに陥るのが快感と……?!


「それは少々歪んではいませんか」

「しかし、正妻側室がいながらこういう行為をされる背徳感は極上のようです」

「あとは朝、起きた時に隣でエストさんが寝ていれば完璧でしょう」


 私を騙して素の迫力を出させ、男爵を喜ばせる……

 そこまで計画してこのような事を、色々とタチが悪いわね、

 でも、でも本当に娘が無事ならば!!


「いかがなさいますか、男爵が帰られたら貴女が娘さんの所へ?」

「それとも娘さんを王都へ呼びますか?」

「私が行くわ!行って抱きしめて、もう二度と離さない!!」

「わかりました、そのかわりという訳ではありませんが最後の仕上げを」

「ミスト様の隣で朝になっても起きるまですやすや眠っていて下さいね」


 私は娘を無事に取り戻せる喜びと同時に、

 ここまで夫の性癖を満足させるために計画し実行する、

 ポークレット家の正妻と側室に恐怖すら感じた……。


「では、私の罪は、今回の、そしてこれまでの罪は」

「脅されていた訳ですから最初から不問です」

「軽く事情聴取は受けていただきますが、もう調べはついていますから」


 テレサもリタも頷いている、

 良かった、良かったあぁぁ……ああ、アンナ、早く会いたい!!


「ソフィー様ベルル様を恨まないでくださいね、こういう事ができる数少ないチャンスでしたので」

「少なくとも前の主人のような、貴女の身体を乱暴に扱う事はありませんから」

「ええ、ええ、わかったわ」


(奥様方にあらためて会う時、失礼のないようにしましょう)


 そして後日、母娘感動の再会は果たされるのであった。

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