第90話 それから一か月間のダイジェスト(後編)
「ザッキーと」
「タッシバの」
「「ダンジョン温泉ぶらり旅~」」
「でやんす!」
なんだかよくわからないが、
チュニビでお世話になった武神ガブリエルさんの弟子ザッキーと、
その弟分であるタッシバさんがふたりして何かやってる、
その様子をメモしているのは記者という腕章をつけた男性だ。
「という事でですね、本日はフォレチトンから馬車で三時間ほどの、
とあるダンジョンに来ています!」
「えええ、どんなダンジョンでやんすかぁ?」
「なななんと!噂によると、混浴だとか!」
「ええっ、ま、まさか、いいんでやんすかぁ?!」
この寸劇は何だろう、
記者がいちいち丁寧に見て台詞も書いている。
「ちょっとタッシバさん、いけない事を考えてるんじゃないでしょうねえ?」
「そ、そんなことあるわけないでやんすよ、いやだなもうザッキーの親分は」
「親分はよせやい俺はお前の事、弟分だと思ってるんだから」
「いやいやいや兄貴だなんておこがましい、親分は親分でやんすよ、みんなの親分でやんすから」
「そうか?嬉しい事を言ってくれるぜ、ならば教えてやろう、この温泉、なんと!魔物と混浴できるのです!」
おおー、とわざとらしくリアクションを入れる記者、
多分それまでメモしてるなこれ。
「でも親分、魔物と混浴といってもここフォレチトンはオークが名産、
まさかブクブク太ったメスのオークと混浴だなんて言わないやんすよね?」
「当たり前だぁ、この俺様を誰だと思っていやがる!
俺の師匠はあの十二英雄がひとり、武神のふたつ名で呼ばれる……」
わざわざ馬車まで借り切ってついてきて何かと最初は思ったが、
会話を聞いていてだいたい見えてきた、これ観光案内の記事だ、
武神の弟子が教える素敵で安全な魔物との混浴スポットとかいう感じの。
「ではさっそくダンジョンに入ってみましょうか、おおっとこれはー?」
「早速、魔物の登場でやんすね、こ、これは、凶暴なサキュバスでやんす!
まずい親分、金玉喰い千切られてしまいやんすよ!」
「まあまあ落ち着け、ほら、サキュバス、お手!」
「すげえでやんす素直に従ったでやんす、さすが親分でやんす~」
「実はこれ、誰がやっても同じなんです!ほらタッシバ、お前も」
うん、これっていつまでつきあえば良いのかな?
「ええっ、いいんでやんすかぁー?じゃあ……チンチン!」
「ついてねえだろ!」
あ、だめだこれ、ていうかついているのもいるんじゃなかったっけ?
「では早速、温泉にお邪魔してみましょう!」
「うわあ、光魔石でちゃんと中は明るいでやんす~」
「おお、すでにたくさんのサキュバスさんたちが入ってらっしゃる!
タッシバさん、湯加減を見てあげて」
「はいでやんす、う~ん、三十六点五度!」
「ってなにサキュバスの脇に指入れてるんですかタッシバさんやだー!」
これ、ちゃんと宣伝になるのかなあ……??
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「えー今日この晴れの日に、ついにフォレチトン孤児院が出来た事を誇りに思います、
これもひとえに資金を提供してくださった皆様と、大教会と聖教会の皆さまが……」
僕の演説を嫌な顔せず聞いてくれる大教会と聖教会から来てくれた職員の皆さんと、
各地の教会や孤児院から連れてこられた難病や大怪我の子供たち、
みんな最後の望みを賭けて噂の聖女様の治療を受けにやってきた。
「僕も様々な孤児院を見てきましたが、どこも愛情に溢れていました、
なので僕も領主として愛情を持ってこの孤児院を……」
正直言ってこの孤児院が子爵になるための大きな実績のひとつ、
という事はさすがの僕でも理解している、
まずソフィーさんベルルちゃんがやってきたような、
大病人を治して貸しを作るその子供版だ、
現に公爵伯爵といった所の難病の子も来てる。
「……僕だけじゃなく、みんなで、本当のみんなで力を合わせて……」
さらにそういった治療をする引き換えに、
この孤児院を大教会と聖教会両方に協力してもらう、
これは本当に画期的な事らしくソフィーさんベルルちゃんも喜んでいた。
「……全ての責任は僕が取ります、ですから皆さんは本当にやりたい事を……」
そう、全部僕が背負う事で大教会聖教会を納得させた、
変な競い合いにならず、勢力争いをさせないためだ、
孤児院の職員の数や孤児院自体の数で宗教同士争わせても意味はない。
「と、いう事でこの後、僕も一緒に食事の手伝いをします、
皆様も一緒に、孤児院の子供たちを育てていきましょう!」
うん、打算的な事を言ったらきりがないし否定はしない、
でもそれで偽善と言われようがソフィーさんベルルちゃんの目指す、
大教会と聖教会が仲良くするっていう事はこれでかなり進んだはずだ。
(……あれ?どこかで見た女性が居るけど誰だったっけ?)
拍手で話が終わるとソフィーさんベルルちゃんに褒められる。
「なかなかでしたね、八十九点です」
「そうですわ、ミスト様が男前に見えてしまいましたわ」
「それはいいけど、あそこの職員さん、どこかで見た顔かも」
その視線に気づいてにっこりしている。
「お忘れですか?数少ない親戚の生き残り」
「え?……あ!婚約者とか言ってた中にいた」
「そうです、ペネロペ=チュイラクスさん、今は単なる大教会のペネロペさんよ」
丸々太っていたのが嘘みたいに普通の身体になっている、確か二十二歳だったっけ。
「よく働く気になりましたね」
「そのあたりのからくりは、おいおい、ね」
「からくりって!!」
いったい何をどうしたんだろう、根性叩きなおしたとか?!
「さあミスト様、まずはスープを作りますわね」
「うん、孤児院で最初に出した料理を領主が作ったって事にしたいんだよね」
(よーし、お料理がんばるなりー!)
ソフィーさんの味の評価は六十一点だった、僕のせいで。
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「お初にお目にかかります、カジーラ商業ギルドのギルド長、チロンと申します」
「ミスト=ポークレットです、今日はいかなる用事で」
「はっ、カジーラもカジーラで発展のため施設を強化しておりまして」
なかなか頭のよさそうな眼鏡男性だ、若い、二十代後半かな?
「カジーラは武器、特に弓矢に特化した商店『ハンター』が有名なんですよね」
「はい、そしてその隣に魔法関係のお店を作りまして、名前を『アイリス』と申します」
「あーそれってチュニビ領主ガブリエルさんの奥さんの名前では」
そこから取ったのかな?
「はい、こういう地方領地で大きなお店を開く時は、
格付けのために、より上位の方の名前を借りるのもひとつの手です」
「それでこっちへはその報告?」
「いえ、そのアイリスの隣に飲食施設を造ろうと、酒場やレストランやケーキ屋など」
「それは良いですね、ベルルちゃんが喜びそうだ」
「はい、そこで、その店の名前上位の聖女様である『ソフィー』もしくは『ベルル』と
名付けさせていただいて、格をつけさせていただこうと参った次第です」
うん、甘いお菓子のお店ならベルルちゃんだな、と隣に聞く。
「ベルルちゃん、名前貸して欲しいって」
「しかし聖教会お墨付きにようになるのはまずいですわ」
「あっ!そうか、甘いものって魔力が強ければ強いほど、原則禁止なんだっけ」
「それにアイリス様と肩を並べるのが本名のままでは、わたくしいささか荷が重いですの」
「じゃあソフィーさん、は駄目か」
うん、首を横に振っている。
「じゃあベルルちゃんの名前をちょっと変えて『ベルベル』にしよう、これでどうかな」
「良き名前です、是非、持ち帰らせていただいます、領主ローガン様も喜ばれるでしょう」
「ベルルちゃん、いいよね?」
「まあそれくらいであれば許容してさしあげますわ」
「よし、決まった」
ハンター、アイリス、ベルベルとこの三つのお店がチュニビ今後の中核商店だ。
「それでミスト様、お礼と言う訳ではありませんが、こちらフォレチトンに、
武器防具店『ハンター』の支店を、名前を変えて造りたいとの事です」
「えっ、作るのはいいけどハンター二号店やハンターフォレチトン店ではダメなの?」
「はい、店名は領主様、ミスト様の父上でいらしゃるローガン様がすでに決めておられます」
「良いですね、どんな名前ですか?」
「フォレチトンの山々に名声がこだまするように『エコー』という名前を」
おお、父上にしてはセンスが良い、シンプルなのがいいね。
「わかりました、店はいまの市場の近くか建設中の街の方か、どっちで?」
「新しい方でお願いします、建設中は市場の一角をお借りしますので」
「ではそれで!それにしても父上がわざわざ、店の名前を……何気ないけど嬉しいな」
こうして離れても親子でいられるって感じが良いよね、うん。
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いよいよ南下作戦から一か月、
次の出発で砂漠に到着しそうと言われたので、
馬車旅に備えてたっぷりお風呂に浸かった、ひとりだと広すぎるくらいだ。
「ふう、さっぱりしたー」
バスローブ姿で寝室に入り、
果実汁を呑んで横になっていると扉がノックされた、鍵はかけていない。
「どうぞー」
「お風呂出られたようですね」
「ですわね」
ラフな格好、いやこれ下着の一種なんじゃという透けたラフな格好で入ってきた聖女ふたり、
誰にも邪魔されず心置きなく、という訳かな?
「ミストくん、明日の砂漠行きのために身体をほぐしましょう」
「まずは足の裏からですわ」
えっ、なに?と思っている間に右足をソフィーさん、
左足をベルルちゃんに拘束され足の裏を押されまくった!
「いだだだだだ……」
「それが段々と痛気持ちよくなってくるのよ」
「そうですわ、あえて刺激の強いツボを押させていただいておりますわ」
あまりの痛さにベッドから逃げようとするも、
きっちり足を片方ずつ捕らえられて逃げられない!
じたばたするがゴリゴリと折り曲げた指でほぐされると、
確かに気持ち良さも感じてくる、徐々にとろけてくる。
「うわっ、ぐあ、あうっ……ふうーっ、ふうーっ」
足裏だけでなくかかと、指の間や足の指をしっかり揉みほぐされ、
すっかり骨抜きになりつつある僕、いやまだ痛いけれど。
「こ、こういうのってメイドの仕事とかじゃ」
「あら、キリィさんモリィさんにして貰う方が良かった?」
「それは聞き捨てなりませんわ、お仕置ですわ」
「ち、違うって!一般的に、一般的な話だよ!」
「奥様が旦那様をマッサージするのは普通のことかと」
そう言われて足首、膝関節、ふとももとしっかりほぐされていく。
「次は肩と肘や手首、手の平ですわ」
「そ、それはいいけどベルルちゃんが腕を取ると、その、クッションがあ」
天然もののやわらかぁいクッションだ、
いやソフィーさんのもなかなか……
腋まで延ばされて揉まれるとくすぐったい、でもすごく上手い。
「さてミストくん」
「はいぃ」
「次は頭と首をマッサージします、ベッドの淵に座って」
「その間、わたくしはミスト様の伸びた足の爪を切らせていただきますわ」
「そ、そこまでしなくても自分の足の爪くらい……お願いします」
こうしてスペシャルマッサージを受けながら聞いてみる。
「どこで覚えたのこんなの」
「リア様です、きっとミストくんが喜ぶだろうって」
「ああ、それで」
リア先生のマッサージも超絶テクニックだっらからなぁ。
「わたくしも実践させていただきましたわ、
でもミスト様だけにしてさしあげたいのですわ」
「そ、それはありがたい、お返ししなきゃ」
「では後でわたくしをマッサージしていただきたいですわ」
「ええっ」
「それは良いわね、ミストくん、私もお願いね」
(ううう、こうなったらさっさと眠りに落ちよう)
こうして後頭部のマッサージが気持ち良すぎて眠った僕の上で、
何やら話しはじめた聖女たち。
「では予定通りの発注をしましょう」
「はいですの、王都でささっと済ませてしまいますわ」
知らない所で知らない計画が進んでいた
だめ貴族だもの。 ミスト
ちなみにこの翌朝出発の旅でようやく『死の砂漠』に到着するのだがそれは次回。
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