第75話 さあ、フォレチトンへ帰ろう
「ミスト、起きなさい、ミスト」
まだ寝て数時間も経っていないのにキツい声で起こされる、
声の主は女勇者、四十一歳で僕の愛人筆頭、アメリア先生だ、
確かお城務めの時の、対魔物特殊部隊にいた頃の戦闘服に身を包んでいる。
「さあ、久々に朝の訓練よ」
「ええっ、あ!頭が痛いいぃぃ……」
「こういう二日酔いで動けない時にこその訓練よ、さっさと起きる!」
頭の中がガンガンに響く中、
僕はふらふらになりながら起き上って着替える、
今すぐソフィーさんかベルルちゃんに回復魔法、
鎮痛魔法をかけて欲しいのだけれどアメリア先生が
そんなのは許さない雰囲気だ、うう、お水飲んで落ち着こう。
「それ飲んだらすぐ外よ、いいわね?」
「は、はいいぃぃ……」
逆らえない……
僕はもうアメリア先生に
あらゆる意味で逆らえない身体にされてしまっている!
(鬼だ……朝から鬼がいる!!)
そして玄関脇の庭、僕が頭痛を堪えながら剣を振っている間に、
どこかへ出掛けようと横を通り過ぎていくソフィーさんベルルちゃん!
あれ?頭痛を消す魔法を僕にかけてくれるんじゃ、
と訴えかけようとしたら二人はくるりと振り返り、
「がんばってね」
「しっかりしてくださいませ」
とだけ言って去って行った、
あぁ、本当の本当に苦しい時には救ってくれないのか、
そんな絶望に打ちひしがれているとアメリア先生が厳しい声で、
「今のこの状況でも剣を振れるかという訓練ですよ!」
と喝を入れられる、いや、わかってはいるけれど、痛いものは痛い。
(強くなるため、自分のためとはいえ、悲しい)
一生懸命に剣を振りつつ思う、
自分は今回にしても楽をさせ続けてもらった、
むしろ魔女の件とか女王アリの酸とか、あとついでに娼館とか、
足手まといになるような事を自分でやって迷惑かけた、
その罰も含まれているのであれば、受け入れてやるしかない。
「ほら、もっと腰に力を入れて!」
「はいいぃぃ……」
「この後は盾で剣を受ける練習よ!」
(ううううう、誰か助けてぇ……)
しかし都合良く助けなど来ず、
地獄の朝特訓が二時間続いたのであった。
「……終わったあ!!」
ようやく解放されアメリアさんから鎮痛ポーションを貰い、
飲み干してから自室に戻ると、ドワーフメイドのジゼルさんが迎えてくれた。
「お風呂の準備は出来ております」
「ありがとう、ようやく頭痛も治まってきたから入るよ」
終わったから言うけれど、昨日のお酒が良い感じで抜けた気がする、
領主になる、男爵になる僕に気合いを入れてもらったと、前向きに捕らえよう。
(アメリア先生そこまで考えてくれてありがとう)
実際はどうあれ、お風呂に入って疲れを洗い落とすと気持ちがいい、
久々の剣の特訓、筋肉痛にならないよう、しっかりケアしないと。
「領主で冒険者、か」
何もなかった僕がせめてフォレチトンで領主らしくなるためには、
本当に何でもやるしかない、せめて今以上に強くならないと。
(かといって、これ毎日やったら死んじゃう、いやお酒毎日呑む気はないけれど)
という事とか色々考えながらお風呂を済ませると、
ミランダさんも来ていてふたりして朝食の準備をしてくれていた。
「おはようございます」
「うんおはよう、もう整理はついた?」
「はい、新しい環境でも、いえ、フォレチトンでこそ、頑張ります」
うん、ちょっと精神的に無理してる部分が見られたから、
励ましてあげたんだった、メイドひとりにそこまでと思われるかもしれないけど、
これからの大切な、彼女だって立派な、ポークレット家の一員なのだから。
「ただいまー」
「只今戻りましたわあ!」
賑やかに帰ってきたソフィーさんベルルちゃん!
「もう終わったのよね?はい回復魔法」
「鎮痛魔法もですわあ!ミスト様、大変でしたでしょう?」
「あはは、終わってからだから言うけど、おかげ様で少しだけ鍛えられたかな」
無表情メイドのキリィさんも入ってきて聖女ふたりの朝食も追加で準備する、
ソフィーさんは僕に抱きついて頬にキス、ベルルちゃんもだ、
お返しにそれぞれふたりにされた同じ場所にキスし返してあげる。
「で、さっきはどこへ行っていたの」
「飛び込みで急に偉いお方の治療です」
「そうですわ、わたくしどもが今日帰るからと、急ぎで間に合う用に夜通し馬車を」
「た、大変だったね、ご苦労様」
(そっか今日、帰るんだったっけか)
荷物をまとめ、お世話になったチュニビともお別れだ、
玄関先まで出て見送ってくれるガブリエルさんとアイリスさんの領主夫婦、
あとついでに熟女メイドのミンディさん、うん、お世話になった。
「ここに来て男として一皮剥けた気がします、ありがとうございました」
「なあに、次はこっちから邪魔するぞ、男爵就任式で会おう」
「わ、わざわざお越しになられるのですか、恐縮です」
あーでも推薦人だから居ないとまずいのかも、
父上の就任の時ってそういうの居たのだろうか?
「フォレチトンがどんな街になっているか、楽しみにしているわね」
「はいアイリスさん、精いっぱいおもてなしします!」
「あらあら、無理はしないでね」
ミンディさんにも軽く会釈し馬車に乗る、
手を振りながらルポスの街に別れを告げ、
僕は馬車内を見回す、ソフィーちゃんとベルルちゃんが笑顔だ。
「無事に男爵になれそうです」
「ですわ、でもまだ階段の二歩目にしか過ぎませんわ」
「その、あ、ありがとう、ふたりとも僕のために」
今更すぎるけどあらためて頭を下げる、
いや感謝すべき相手は他にもまだまだもっといるけど、
今ここにいるふたりにだけでもお礼を言いたかった。
「大好きな、愛するミストくんのためですもの」
「愛するミスト様が、喜んでいただける事をもっともっと致しますわ」
「ありがとう、ありがとう」
……あれ?馬車のこの道って来たときとは違う。
「ひょっとして行先って」
「今度は余裕もありますからカジーラ経由です」
「久しぶりにお義父様、お義母様にお会いしますわ」
「そ、そうなんだ、その、あんまり恐がらせないであげてね」
「もちろんです」「はいですわ」
と、馬車内の簡易テーブルにベルルちゃんが紙とペンを置く、
見るとそう、まだ僕が苦手としている方のテストだ。
「さ、アメリアさんが同乗していなくても、する事はやっていただきますわ」
「は、はい、そういえばどうして乗っていないのでしょう」
「新しいメイドと話がしたかったようですわ、メイドの教育も引き受けるそうですの」
忙しいなあ、でも助かる。
「ミストくん、確認だけれども」
ソフィーさんが真面目な表情で聞いてくる。
「キリィさんモリィさんの今後、任せてもらえる?」
「ええっと、お城に帰ってもらうんだっけ、やっぱり危険に感じたから?」
「このあたりは単純な話じゃないけど、ミストくんにはまだ早いかな」
なにその領主のけもの大作戦は!
「ミスト様、どっちみちあのふたりは王都に向かいましたわ」
「えっそうなの?もう一緒についてはきてないの?」
「はいですの、フォレチトンに戻ってくるかどうかもわかりませんわ」
だとしたらちゃんとお別れしたかったなあ。
「あっ」
「どうしたの?」「どういたしまして?」
「ひょっとして、キリィさんモリィさんを返却するのって、
ソフィーさんベルルちゃんの……嫉妬?!」
むにゅ、むにゅっ、とふたりにほっぺたをつねられる!
「いだだだ……」
「おふざけはそのくらいにしてテストをどうぞ」
「ちゃんと満点でしたらご褒美をさしあげますわよ?」
うん、僕は今できる事を精一杯やるって決めたんだ、がんばろう。
「よーし、全問正解しちゃうぞー!」
結果、半分もできなかった
だめ貴族だもの。 ミスト
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