第71話 こんな僕でも心配してもらえる有りがたさ

「ふう、やっと帰ってこられた」


 夜、疲れ切って辺境伯領主邸に戻ってきた、

 色々と面倒くさい事だらけでポーター装備のままベッドに身を投げる。


「あーーーめんどくさっ」


 まず森のダンジョンで回収した亡き骸を冒険者ギルドへ持っていくと、

 大教会と聖教会どちらに置くかでそれぞれの神官が揉めはじめた、

 こんな時ソフィーさんベルルちゃんが居てくれたら一発で解決だったのに。


(結局、リア先生がしびれを切らして、魔物の素材置場にぶち撒いてきたんだよな)


 そこで明るい所で腐敗した遺体やら骨やらを見てしまってまた吐いて、

 それでもふらふらになりながら魔石やら女王アリの蜜やらを売って、

 冒険者カードを記録してもらった頃にはふらふらで結局、

 ジゼルさんにおんぶしてもらって部屋の前まで送ってきてもらった。


(そしてまたひとりか、ふう)


 リア先生は事後処理で忙しそうだったし、

 キリィさんはモリィさんを連れて多分、聖女様の所へ。

 そのソフィーさんベルルちゃんもまだ忙しいだろうし、

 アメリア先生あたりは戻ってきててもおかしくないけど、どうだろう?


(ん?廊下から足音が)


 どたどたどたどたどた……


 ガチャッ


「ミストくん、大丈夫?」

「ミスト様、大変だったとお聞きしましたわ」

「ふたりとも、その、魔法使いの治療は?」

「そんな事より精神浄化です、どうぞ」

「わたくしからもですわ、はいっ」


 やわらかい、やさしい魔法が僕を包むとなんだかとっても安らぐ。


「あ、ありがとう」

「ごめんねダンジョン一緒に行けなくて」

「リア先生も必修授業とか言って無理をさせたのですわ?」

「いや、まあリア先生なりの考えは僕もわかるからさ、責めないでよ」

「ミストくんがそう言うなら」「ミスト様がおっしゃるならですわ」


 ほんと僕の言う事なら何でもきいてくれる感があるな。


「失礼いたします夕食をお持ちしました」


 メイド服の元娼婦ミランダさん、

 いや娼婦の前は元々メイドだから昔に戻っただけだ、

 とはいえこの色っぽさは何だろう、特に胸の大きさが。


「あ、ありがとう、落ち着いたし少し食べようかな」

「では私が食べさせてあげます」

「わたくしもですわ、ミスト様、あーんですわ」

「ま、待ってちょっと待って!まずモリィさんの酸の怪我はどうなったの?」

「もうとっくに綺麗さっぱり治療しました、痕も残っていません」


 よかったぁー。


「ミスト様、あれは、わざとかもしれませんわ」

「えっ、わざと酸をかぶった?僕を護ってくれただけじゃ」

「ミストくん、モリィさんほどのアサシンならミストくんごと避けるのが普通よ」

「そうですわ、もしくは酸が飛ぶ前に注意をしてくれたはずですわ」

「さすがにそれは考えすぎなんじゃ」


 そうだ、この際だから聞こう。


「その、ソフィーさんベルルちゃんは、キリィさんモリィさんを国に返却したいの?」

「したいというか、返却するのが筋、普通の事ですから」

「城に戻ればまた暗部の仕事を命じられるはずですわ、いつまでもここに居る理由はありませんもの」

「で、でも本人は僕の所に居たがっているような」

「でしたらそれが暗部としての仕事なんでしょう、ミストくんから当分目を離すなという」


 まだまだ僕の命が危ないってことか?!


「うーん、ソフィーさんベルルちゃんって、キリィさんモリィさんを信用していない感じ?」

「信用というか、ミストくんによく聞いて欲しいのだけれど、あのふたり、命令とあらば躊躇なくミストくんを殺すわ」

「えっ?!」

「そうですわ、国王陛下か宰相あたりが危険人物とみなすとすぐに首を刎ねますわ、だからこれ以上は、という事ですわ」

「今はいいかもしれないけど将来的には敵になるかも、だから今のうちにさっさと返却と」


 これでようやく聖女様の言い分というか考えが明確にわかった。


「じゃあ、あのふたりが僕にあんなこと、こんなことするのも罠?!」

「元々カジーラでの諜報活動も、またカジーラに来るまでも、

 そういった肉体関係ですっかり気を許させて、入り込むのが得意だったようですから」

「そうですの、チュニビッフィ伯爵家の当時の当主や息子にベッドで情報を聞いていたようですの」


 そのあたりは仕事だから仕方ないにしても、

 じゃあその流れでいくと僕がされているのは……!!


「ひょっとして僕があのふたりにハニートラップみたいなことされてるのって、

 いつでも僕をやれるってソフィーさんベルルちゃんに見せるため、つまり、

 僕は人質みたいになっているって事?!」


 だったらすぐに返却したいはずだ。


「その可能性も、ありうるという事です」

「人質にはなりますわね、ソフィーお姉様もわたくしも、ミスト様が全てですから」

「うーん、でも国から借りてるし味方と言い張ってるからなかなか表だって疑えないと」

「ミストくんに首筋へ痕をつけたのも、いつでもここを、という意味にも取れるわ」

「わたくしどもの大好きなミスト様をいつでも寝取れると脅迫されている気分は、確かにありますわ」


 なんて事だ、そんなこと思ってたなんて……


「ごめん、心配してくれてたんだね」

「でもミストくんの判断に私は逆らえません」

「わたくしもですわ、ですからあのふたりの去就はミスト様がお決めあそばせですわ」


 コン、コン


「ソフィー、ベルル、手術の合間を抜け出して来たらしいな」


 リア先生が少し切れ気味だ。


「まあ、残りは明日で、と言ってきましたが」

「そうですわ、これからはミスト様を朝まで癒して……」

「ミストが一番大事なのはわかるが、あっちも命の問題なんだ、戻れ」

「えー」「戻りたくありませんわ」


 ブー垂れる聖女さまたち、珍しい画面だ。


「これから私はミストに話がある、頼むから戻ってくれ」

「……それでしたら話は別です、ミストくん、また明日」

「無理はしないでくださいませ、ごきげんよう、ですわ」

「う、うん、残り頑張って、おやすみ」


 ちゅ、ちゅっ、と僕のほっぺにキスして出てったふたり、

 急にやけに素直になったな、いつのまにかメイドのミランダさんも夕食だけ置いて出てったみたいだ。


「ミスト、今日はやはり少々無理をさせすぎたか、すまない」

「いや頭を下げなくても、リア先生のいう事はもっともですし」

「心配したぞ、もういいのか?」


 そう言ってベッドの僕に抱きついた。


「い、いやその」

「私は今日のする事は全て終わった、あとは朝までミストと過ごせる」

「ああああ、朝までって」

「心配するな、一線を越えるのはフォレチトンに戻ってからと決めている」

「一線って……」


 じゃあ戻ったらやる気なんだ。


「私だけじゃない、ソフィーもベルルも伯母上も、療養中のエスリンも、

 みんな、みんなミスト、君を想っている、それはわかってくれ」


 ……僕にそんな価値ほんとうにあるのだろうか?

 そう思っていたら僕の服を脱がしはじめたリア先生。


「その格好では寝辛いだろう、ミランダが持ってきた寝間着に着替えてやろう」

「あ、は、はいぃ」



 心配されながら幼い子供のように寝間着を着せてもらう

  だめ貴族だもの。    ミスト

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