第58話 武神の弟子に会いにきました、ってあれ?

「ミスト、起きろ、もう朝は大分過ぎているぞ」

「……ん、ん……ん?うわっ、近っ?!」


 顔の間近、キス手前みたいな所にリア先生の顔が!


「起きたか、おはよう」

「おはようございます、もういらしたんですね」

「もうと言っても朝食の時間はとっくに過ぎているぞ、ほら」


 見ると部屋のテーブルに朝食が用意されているが、

 日はかなり昇っている、結局メイドと何もしていないのにすっかり朝寝坊だ。


「食べながら着替えろ」

「は、はいっ」


 テーブルの方を見ていた僕のおでこにチュッとキスをすると、

 離れてわざわざスープを注いでくれる、保温魔導具のおかげか湯気がうっすら。


「その、ソフィーさんベルルちゃんは」

「朝の所用だ、具体的に言えば今すぐどうしても、という者たちを治療している」

「えっ、このあとダンジョンなのにですか」

「そのあたりは城から高価な魔力回復ポーションが出ている、心配するな」

「はあ、それで僕が遅くても平気だったんですね」


 遠くからも患者が来ていそうだ、聖女様は本来忙しい。


「騎士団でヘマをやらかした者も含まれている、本当にありがたい事だ」


 今度は紅茶を淹れてくれるリア先生、

 まるでメイドみたいだ、そういえばメイドいないな、先生とふたりきり。


「なんだか恐れ入ります」

「なにがだ?」

「いやリア先生をメイドみたいに使ってしまって」

「構わぬ、これでも新人時代は騎士団長によくやっていた」

「そうですか……」


 やっぱり王国騎士団の縦社会はきっちりしている。


「ん、朝食おいしい、このハムが特に」

「なんでもフォレチトンから仕入れたオーク肉らしいぞ」

「じゃあウチでも食べられますね、ってチュニビが仕入れてくれたのか」


 うん、売り先が安定してくれると助かる。


「これからの大事な話と、これからのどうでもいい話がある」

「なんですかそれは」

「まあ聞いてくれ、まずは大事な話からだ」


 言われた通り、食べながら着替えている僕、

 本来ならちょっと行儀が悪いんだけれど仕方がない。


「これから冒険者ギルドで会うザッキーはこの館の主、ガブリエルの弟子だ」

「はい聞いています」

「何でも特殊な、自分だけの個人スキル『真眼』があるらし」

「しん、がん、ですか」

「相手の能力だか感情だかが見えるらしい、

 詳しい内容は本人が隠しているが、多少警戒した方が良いかもな」


 見られて困る事って何かあったっけ?

 僕がハニートラップに弱い事?でも相手が誰でも良くはない、

 現に昨夜、なんとか断ることに成功したし!ちょっと惜しかったけれども。


「そのあたり私が伯母上不在の代わりに会話するとしよう」

「あ、リーダーはアメリアさんでしたものね、ポークレットファミリーの」

「サブリーダーはソフィーなのだが、伯母上直々の指名を受けてな」

「助かります……んっ、このサラダのドレッシング、美味しい」

「ソフィーも喜んで了承してくれた、混み入った話や交渉事は年齢ができるだけ上の方が良い」


 それはごもっともだ、

 とはいえリア先生だってまだ二十三歳だからなあ。


「あと、これからのどうでもいい話だが」

「一気に気が楽になります」

「本当にどうでもいい事だが婚約した以上、伝えておこうと思ってな」

「何でしょうか、どうでもいいのであれば何でもいいですよ」

「なあに大した事はない、私が十五歳で学院を卒業してから二十一で学院の教師になるまで、

 六年間の間、騎士団長と不倫をしていた、ただそれだけの話だ」


 へー、それは大した事……不倫?!

 僕は話の内容を理解して、思わず紅茶を噴き出した!


「ぶほっ!ごほごほ、けほけほけほ……」

「落ち着け、大した話ではないと言ったであろう」

「あ、タオルありがとうございます、あの騎士団長様ってどんな」

「ん?もちろん男だ、私と関係を始めた頃は三十代、終わった頃は四十代だな」

「そうなんですか、どうでもいい話の中ではトップクラスにどうでもよくない話でした」


 いや今更ショックとかな無い、はず。うん。多分。


「まさかこれで婚約解消とかいう事はないな?」

「当たり前です、僕だって最近は色々と……あ」

「どうした?」


 ひょっとして最近のハニートラップ公認は、

 リア先生のこういう過去を許してもらえるようにというか、

 つまりミストだって婚約者以外とやっているだろう的な?いや考えすぎか。


「なんでもないです、なんでも」

「ああ、ソフィーやベルルや私が把握している範囲なら許してやるぞ」

「その、もし、いや何でもないです」


 もし僕がリア先生を、そんな過去の人は許さないと言ったら?

 どういう反応になるのだろうか、なんとなくだけど、普通に泣きそうな気がする、なぜか。


「もしミストが許されない範囲で浮気したらか?お仕置だろうな」

「どんなお仕置ですか!」

「フォレチトンに戻ればわかるかもな、さあ急かせて悪いが早く食事を終わらせてくれ」


 なんだかんだ最後までメイド的に面倒見てくれたリア先生、

 齢の離れたお姉ちゃん的な感じに思えなくもない、ちょっと嬉しかった。


(リアお姉ちゃん、なんて呼ぶのも有り、かな……?)



「ミストく~ん!」

「ミスト様~おはようですわ~」

「あ、みんな!おはよう」


 準備を終え玄関を出ると聞きなれた綺麗な声、

 大きな馬車の前にソフィーさんベルルちゃん、

 そして無表情メイドのキリィさんモリィさんが立っていた。


「もう治療はいいの?」

「はい、どうしてもという方が王都やモラベスクやハイドロンからいらして」

「あと大怪我を負った騎士団の方も完治してさしあげましたわ」

「朝からその、お疲れ様、少し休まなくていいの?」

「平気よミストくんの顔を見たら」「そうですわ、わたくしもですわ」


 嬉しいなあお世辞でも。


「よし、では乗るぞ」


 リアさんの声にみんな馬車の中へ、

 広さ的に八人乗りみたいだ、僕の両隣にソフィーさんベルルちゃん、

 向かいの真ん中に座るはリア先生、両隣がキリィさんモリィさんだ、

 片方四人掛けを三人で座るから幅に余裕ができている。


「冒険者ギルドまで馬車ですか?」

「そうだ、街の端にあるからな、ダンジョンへ繋がる東門の近くだ」

「てっきり歩きかと、でもここルポスの街っておおきいですからね」

「ミストくん、せっかく武神ガブリエル辺境伯さんが用意してくれたのですから」

「そうですわ、使わないとなぜ使わなかったって事になりかねませんわ」


 ややこし面倒くさい所はやっぱり貴族なのか、

 それとも武神様が元々持っている面倒くさい性格なのか、

 うん、どっちでもいいや。


「その武神様とアメリア先生は?」

「伯母上たちならとっくに出た、朝日と共に出た」

「そんなに冒険が楽しみだったんですか、武神ガブリエル様は」


 魔女の方を早々に片付けてくれると助かるなあ。


「さてダンジョンについてだが冒険者ギルドで聞くか?ここで先に私に聞くか?」

「情報は多ければ多いほど良いので、まずリアさんお願いします」

「わかった、話の内容がギルドで被ると思うがまあ聞いてくれ」


 説明によるとダンジョンのある北東の森は、

 これまで半ばわざと犠牲者を出しながら魔物の氾濫を抑えていたらしい、

 それが魔薬草摘発でそういった事を指導、実行する者が居なくなり、氾濫の危機だと。


「騎士団長の調査によれば、十二年前の悪夢の再来をよぎらせる状況だそうだ」

「えっ、じゃあ魔物以外にも敵が」

「それが魔女と山賊、つまり盗賊団だ、日に日に増えていっているらしい」

「ひょっとして行方不明者って」

「皆、男性だからな、ひょっとしたら魔女の能力で洗脳されているのかもだ」


 だから武神様自ら急いで対処に行ったのか。


「すみません、氾濫はもう、いつ起きてもおかしくないのですか?」

「それをこれから冒険者ギルドで武神の弟子、ザッキーに聞く所だ」

「冒険者ギルドの職員にではなく、ですか」

「ダンジョン攻略の総指揮はザッキーが行っているらしい、そちらの方が詳しいだろう」

「総指揮って、ちゃんとダンジョンに潜っているんでしょうかね」


 ガブリエルさんの弟子なら問題ないかな、

 と思っているうちに冒険者ギルドに到着した。


「受付の前にそのザッキーとやらに会おう、すれ違いは困るからな」


 すでに朝遅い時間とあって冒険者はそれほど混んではいない、

 そのあたりにいた話かけやすそうな男にリア先生が声をかける。


「すまないがザッキーという者はどちらにいる」

「食堂です、一日中あそこで、女の子はべらせて遊んでいます」

「そうか、ありがとう」


(……あれ?ちょっと話が違うぞ)


 冒険者ギルドの立派な食堂、その一番奥に半個室のような場所があり、

 その上座、一番奥に立派な玉座のような椅子があった、

 だがそこには座る者がおらず、両脇には二十代中頃くらいの派手で際どい服の女性、

 あとは三十代の背が低い黒眼鏡の男性が居たくらいだ、

 ちょっと雰囲気が、空気がおかしい、リア先生が男に聞く。


「私は王国騎士団副団長リア=アベルクス、

 領主である武神ガブリエル=ソルナンシュ辺境伯より、

 弟子のザッキーがこちらに居ると聞いてきた、どこにおられるか」

「ええっとぉ、に、逃げました」

「はあっ?!」


 いきなり嫌な予感しかしない

   だめ貴族だもの。  ミスト

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