第40話 えっ、僕の婚約者そんなにいたの?!
バーナレー大商会の馬車は過去最高なんじゃないかというくらい飛ばし、
夕日が沈んだばかりでまだ明るさが残るくらいの時間に、カジーラへ到着した、
降りる場所は領主邸、前に来てすぐ帰った時よりもあきらかに雰囲気が違った。
「うわ、騎士団がいっぱい」
お城の守りでも固めてるんじゃないかというくらい、
騎士団の皆さんが並んでいる、最初に僕が降りても反応はなかったが、
アメリアさんが降りると一斉に敬礼した、これが伝説の女勇者の力か。
「アメリア様、ささ、どうぞこちらへ」「ありがと」
「ベルル様、あちらで聖教会の皆さんがお待ちしております」「わかりましたわ」
騎士団の年輩さんにエスコートされて行ったアメリアさん、
いつのまにか僧侶服の一団に連れて行かれたベルルちゃん、
最初に降りたのにひとり取り残されたみたいになった僕の所へ来たのは……
「ミスト・ポークレット騎士爵殿ですね、ご同行願います」「はい」
少し怖い目の、騎士団というよりは尋問官みたいな人に連行されたのだった、なんでー!
(僕、悪い事したかなあ……?)
気が付けば領主邸の離れみたいな所で僕は例の冤罪事件について問い詰められていた、
五年前、十歳の時の、アリアとそのメイドを襲ったとされる事件についての詳細を、
覚えている限り事細かく話せと……色々と矛盾点やおかしな所が無いか容赦なく突っ込まれる。
(大変だけど、でも五年前は、こうやって聞いてももらえなかったなあ)
しかも長い取り調べが終わったかと思うと、また別の人が来て同じ事を聞かれる、それも何度も。
話す内容は同じだが聞かれ方や突っ込まれ方が人によって違う、結局、述べ四人に尋問された、
聞いてきた人はそれぞれ政務官だの軍務なんたらだの名乗ってはいたが、いちいち覚えきれない、
でも一度だけリアさんが一緒に入ってきて、僕と尋問する人の会話を一通り聞くだけ聞いて出て行った。
(リアさん一言も話さなかったけど何だったんだろう、挨拶すらなかったなあ)
こうして尋問が終わり、ようやく領主邸へ夕食に案内されたが、
あきらかに『みんな食べ終わった後』みたいな、晩餐会終了直後な様子だった。
(扱いが寂しい、でも食べられるだけマシか)
そう思って端っこのまだ綺麗なテーブルで待っていると、
僕が入ってきた扉から遅れてソフィーさんベルルちゃんがやってきた!
「あれ?もう遅いのにどうしたの」
「ミストくんと食事するために待っていました」
「そうですわ、わたくし、聖教会の夕食はお水とケーキだけにしてきましたわ」
ちょっと嬉しくなっているとさらに遅れてキリィさんとモリィさん、
ふたりが先頭になって夕食を持ってきてくれた、普通に豪華だ。
「メニューの内容は先ほどの晩餐会と同じものですので」
「少し温め直したものもありますが、味は変わりませんから」
さすがうちのメイドは気が利く、借り物だけど。
「あれ?アメリアさんは?」
「さすがに勇者様という事で断れなかったみたいです」
「気にしなくて良いですわ、さ、いただきますわ」
軽い乾杯ののち三人で食事を楽しむ、
時々ソフィーさんとベルルちゃんに挨拶しようとする知らない人が来るが、
メイド二人が容赦なく断ってくれる、ほんと、ふたりが婚約者で良かった。
「ミストくん、明日の罪人の処刑だけど、どうする?」
「えっ、どうするって」
「一番前の特等席でも見られますし、見晴らしの良いテラスからでも見られますし」
「ええっと、罪人って、叔父さんたち、チュニビッフィ家のだよね?」
「そうですわ、わたくしと見ますか?ソフィーお姉様と見ますか?やはり三人で?」
うーん、どうしよう。
「見たくないような、あまり見たくはないような」
「それ、どちらも見ない選択肢ですわよ?」
「うん、ひとの処刑は、人の死は、吐くから」
そう、この伯爵邸で見た、アリアのメイドみたいに。
「それでいいと思う、ミストくん無理しなくていいから」
「ソフィーさんにそう言ってもらえると、助かる」
「正直、処刑される人たちの恨みの念がミストくんに向くのって良い気がしないもの」
「そうですわ、睨まれる事はなくても、ミスト様が嫌な気持ちになるのであれば、スルーするのも得策ですわ」
「ありがとう、うん、じゃあ見ない方向で」
……自分ながら情けないと思う、
事件の、コトの結末はちゃんと自分で見た方が良いのに、
見えない何かに怯えて逃げてしまう、でもそれでも構わない感じのソフィーさんベルルちゃんには本当に助かる。
「そうそうそれでミストくん、この後なんだけど」
「はい」
「私たちはまだちょっと用があるけど、ミストくんには会って欲しい人たちがいるの」
「えっ誰、あ、父上と母上?」
「それは明日ですわ、会っていただきたいのは、婚約者ですわ」
ベルルちゃんのその言葉に、ひとりの地味な少女を思い浮かべる!
「あっ!エスリンちゃん!!」
「……残念ながらそれはまだですわ、詳しい話はこのあと、リアさんからお聞きくださいです」
「ええっ、じゃあ第三夫人?」
「それも違います、話がややこしいので後で、ね?」
「はいソフィーさん……うーん」
(じゃあ誰だろう、まったく心当たりないや)
夕食後、僕はキリィさんに案内されて来客室みたいな所へ着いた、
そこではリア先生が壁にもたれかかりながら眠そうにしていた、もうそんな時間か。
「ミスト、遅い時間に済まない、これで今日最後だ」
「あっはい、それで婚約者って」
「それだがな、明日、チュニヘルク辺境伯ならびにチュニビッフィ伯爵、共に元だが、
その一族と関係貴族の処刑がチュニビとここ、カジーラで行われる」
「はあ、はい」
「だがな、ミスト、お前の婚約者とされる者もその中に含まれているのだ」
えええええ??初耳だ。
「身に覚えはあるか」
「ええっと、唯一そういう話が出たのは従妹のアリアくらいで、しかもそれは罠でした」
「ああ、今回のこの話にはアリアも含め五人、聞き取りと自称で出てきた」
「つまり僕の婚約者というか婚約者候補、婚約者かも知れない人が、五人も?」
「そこで未だに婚約者だと喚くアリアは論外にせよ、残り四人をどうするか決めてもらいたい」
どうするって?!
「とはいえアリアと同じように弾こうと思う者もいる、チュニビのチュニヘルク辺境伯、
そこの関係貴族の未亡人で三十四歳なのだが、そいつがミストの婚約者と言い張っていてな」
「まったく知らないです、初耳です」
「ああ、こちらが調べた限り接点も何もない、狂言だろう、会うか?会いたいなら呼ぶが」
「いえいいです、さすがにその人は面識ないと思うので」
「わかった、では明日、予定通りしょけ、処分するとしよう」
あ、いま一瞬はっきり言おうとした言葉を引っ込めて言い直した!
「ではこれから会うのは三人だ、最初の彼女は四度ほど面識があるそうだ、おい入れろ」
扉が開かれて入ってきたのは身体を厳重に縛られた僕より年上の女性、
あ、これはなんとなくわかる、顔の感じからして、あきらかに近い親戚だ。
「わかるか?」
「はい、アリアの姉、ルーベンの姉、ミリッサ、でしたっけ」
「そうよ、久しぶりね」
と言われてもほとんど覚えていない、
ルーベンやアリアにはよく蹴られたり罵倒されたりしたが、
彼女に関しては会った記憶はあるがどこでどう会ったか思い出せない。
「ミリッサもアリアと同じ婚約者候補だった、と本人が言っている」
「初耳です」
「そうね、まだ一度も伝えてないもの」
あーひょっとしたらこのミリッサって従姉の声聞くの、これが初めてかも。
「彼女、ミリッサに関してはすでに多数の罪なき領民を手にかけている」
「じゃあ死刑ですか」
「だがミストの婚約者で、ミストが感情的にどうしても助けたいというのであれば、
ミストの権限でどうにかできるが、どうする」
「どうにかって、どうできるんですか?」
「そうだな、例えばミストの性奴隷とか」
うわー、そんなのいらない。
「そこまでしたくないのであれば、ミストの立場として罪をある程度軽くさせる事はできる」
「具体的には」
「このままいけば一家そろって処刑だが、条件付きで生涯監禁だな、条件はあえて聞かない方が良い」
「うーん、ちょっと待ってください、このミリッサって人との思い出を、できる限り思い出してみます」
「一度処刑してしまうと取り返しがきかないからな、よく思い出せ」
……とはいえ、話した記憶は無い、
姿を数回見ただけ、そもそも四回も会ってたか?ってレベルだ。
「わかりました、もういいです」
「もういい、とは」
「すっごい冷たい目で僕を見下していた記憶しか出てきません」
「そうか、ミリッサ、何か言いたい事は?」
「……命を助けてくれるなら何でもするわ、どんな立場にでも、どんな求めにも応じる」
そんな事言われてもなあ。
「本当にもういいです、僕に笑顔をひとつも向けた事のない人の言う事なんて」
「懸命だな、おそらくミリッサの事だ、側に置いたら速攻で寝首を掻くだろう」
「……そんな事しないのに」
「おい、連れて行け」「はっ」
騎士団の人たちの返事とともに引っ張られて行く瞬間、
ミリッサは僕に顔を向け、何か諦めるかのような表情で……笑った。
(……感情的な表情はじめて見た、最後に見せてくれたって事か)
「さあ次だ、次は私は覚えているのだがな、ミストの学友だ、おい、入れろ」
「はっ」
「えっ、学友?」
入れ替わりで連れてこられたのは、
僕と同い年くらいの女性だ、リア先生に一礼してからこちらに明るい笑みを向ける。
「お久しぶりね、私よ私、ほら、ポーラよ」
「ええっと……どちらのポーラさん?」
「Dクラスのよ!同じ学院、同じ学年なんだから覚えていなければ、おかしいでしょ!」
「ごめん、覚えてない」
「んもう!覚えててよ!」
覚えてない、知らない婚約者になじられる
だめ貴族だもの。 ミスト
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。