第24話 そうだ、会いに行こう!

 あれから三日後、ソフィーさんとベルルちゃんから別々に手紙が来た。


(ううう……読む勇気が、ない!)


 中身は当然予想がつく、

 騙してごめんなさいとか、行けなくなりましたとか、

 きっと言い訳だらけだろう、慰めの言葉とか、勇気付ける言葉とか……


 コン、コンッ


「失礼いたします、掃除に参りました!」

「あ、はいっ、すぐどきます」


 ずっと引きこもってぼーっとしてたから丁度いいや、

 兵士さんに部屋を任せて表へ出る、う~ん気持ち良い晴れ。


(たった二日間、夢のような日々だったなぁ……)


 ソフィーさんが一日婚約者になった日、

 翌日、ベルルちゃんが一日婚約者になった日、

 スパイを欺くためとはいえ、本当に、人生で一番幸せだった……


(よく考えたらここへ帰る道中もソフィーさんといちゃつけたなぁ

 こんなことならもっと、いちゃいちゃしておくべきだったよ)


 という不敬な事を考えながら畑を見て回っていると、

 珍しくふんどし一枚着たマンタ爺ちゃんが畑作業をしている、

 ティムペットのワーウルフがしっぽふりふりしながらやさしく吠えてくる。


「おうスケベぼうず、今日はひとりでどうした」

「その、実は……」


 僕は自称・昔はこの国で十七番目に偉かったマンタ爺ちゃんに、

 今回の事の顛末を詳細に話した、誰かに聞いて欲しかったし、

 マンタ爺ちゃんがスパイだとはとても思えなかったからだ、

 畑の横で座って何も言わず、全て聞いてくれたマンタ爺ちゃんは、

 ワーウルフを撫でながら真面目な顔をして言った。


「その聖女に、お礼を言ってくるのじゃ」

「ええっ、直接ですか?!」

「いまカジーラにおるのじゃろ、もう一生、

 二度と会えないなら会って直接頭を下げるのが筋じゃ」


 珍しくすごく真っ当な事を言ってくれたマンタ爺ちゃん、

 さすがに今日は、ふんどしをつけている事だけはある!


「で、でも向こうはもう僕なんか会いたくないかも」

「ぼうず、それでもじゃ、男として、次期領主として、すべきことをするのじゃ」

「会ってもらえなかったらショックかも……」

「それでいい、会いに行ってお礼を言おうとしたという事実があっただけでも十分じゃ」

「マンタ爺ちゃん……」


 がっちり両手で握手を交わす、農耕民らしい良い手だ!


「わかった、僕、言ってくるよ」

「早く行った方が良いぞ、すれ違いで会えなかったというのはよくある話じゃ」

「それじゃあ、今すぐにでも!ありがとう!」


 お礼を言い屋敷に戻る、

 隊長のアイザックさんを探すと、

 冒険者ギルド出張所予定地だった廃墟で住民から聞き取り作業をしていた。


「すみませんアイザックさん!」

「どうしました?警備なら屋敷に常に三人ついていたと思いますが」

「いえ、僕、どうしてもカジーラに行きたいんです!会って聖女さまたちに、お礼を言いたいんです!」


 考え込むアイザックさん。


「まだ早いと思います、お二人とも今は凄く忙しいかと」

「でも、その忙しいのが終わったら、もうどこかへ行ってしまわれるのですね?」

「確かにそれはありますね、詳しい事は聞かせてもらっていませんが、

 王都からはすみやかに帰る様、言われるでしょう」

「だったら、だったらこれが会える最後のチャンスかも知れないんです、お願いします!」

「……わかりました、ただ私は住民の聞き取りとミスト様の警備が仕事ですから、すぐ戻ってきて下さいね」


 僕は騎士団の馬車を準備してもらっている間、

 自分の準備もする、できるだけ良い服に着替えて、

 手土産とか考えたが今更ここの名産品を持って行っても、とあきらめた。


(邪魔にならないように、ひとことお礼と謝罪をして、さっさと帰ろう)



 アイザックさんに見送られて出発した馬車は、

 僕がまったく知らないルートを走っていた、

 こんな道あったんだっていう……カジーラ領に入ったあたりで怪しい畑を見かけた、

 おそらくあれが麻薬草なのかなと直感し、

 ここは秘密の抜け道だったであろう事を推測した。


(うー、緊張する、会ってちゃんと失礼のないようにお礼言わなきゃ)


 今更どんな顔でソフィー様、ベルル様に会えば良いのだろう、

 僕なんかと過ごした夜を思い出して顔をしかめなければ良いが、

 と思うと彼女たちの顔を見られる気がしない、でもちゃんと頭を下げないと……!


 とまあずっとそんな事を思いながら夜遅くには無事、カジーラに着いた。


「ミスト様、泊まっていかれますか?」

「いえ、謝罪するだけだからすぐ戻ってきます、明日朝までにはフォレチトンへ帰らないと」

「わかりました、ここでお待ちしております」


 運んできてくれた第七部隊の引き手に感謝しつつ、

 ソフィーさんたちがいると聞いていた領主邸へ……

 入ろうとするとやはりというか衛兵に止められた。


「すみません、フォレチトン領主ローガン=ポークレットの息子、ミスト=ポークレットです」

「わかりました、しばらくお待ちください」


 ……その後、しばらくどころか二十分くらい経ってからようやくロビーに通された、

 身分証明を命じられ、冒険者カードまで提示させられたのち、場所を教えられひとりで二階へ、

 うう、緊張する、と思っていたらその扉の前に威厳のある僧侶服の男性が立っていた。


「開けるぞ」


 従者と見られる僧侶が扉を開け中に入ると、あの綺麗なソフィーさんの声が!


「お父様!どうしてここへ」

「ちっとも帰って来んから迎えにきたのだ」

「まだ、まだもう少しここの領民の治療がありますから!」


 ドアを閉じられたが近くまで行くと会話はまだ聞こえる。


「まったく無茶しおって、自分の立場をわかっておるのか」

「立場も何も、もう私は嫁いだ身ですから」


 その言葉にドキンとする!


「その件だがな、取り消しだ」

「はいっ?」

「お前の使った家訓の権利だ、ミンスラー家の娘は他所に嫁いだ後、

 一度だけ、たった一度だけ、嫁いで困った時に何でもひとつだけ、

 ミンスラー家にできる事であれば願いを叶えてもらえる、という権利だ」

「はい、確かにそれを使用して今回の事件を解決に導いていただきましたが」

「その願い自体が取り消しだというのだ」


 そんな家訓あったんだ、家訓というより家の掟とでも言うのかな。


「どういう事でしょうか?」

「今回の事件はあまりにも大きすぎる、お前の願いの範疇を超えている、

 情報提供がお前に来た時点でこれは国と大教会、

 そして嫌だが聖教会の問題にもなった、麻薬草の被害は両教会にも及んでいたからな」

「確か国の存亡に関わるような大事件や戦争の時は大教会と聖教会は一時的に手を結ぶ約束でしたわね」

「ああ、それをお前の願いと関係なく、国王の権限で発動した事になった、だからもう心配はいらん」


 なるほど、それで僕なんかと結婚って事にしたのか、

 実際嫁ぐかどうかは別にして、その権利を施行するには一瞬でも嫁に出ないといけなかったと、

 そのための行動だったと思うとショックは少しはやわらぐかも?


「では今後もその権利は生きるのですね」

「ああ、本当に嫁いだ時に使うといい、とにかく国王陛下が直接の報告を求めている」

「わかりました、途中でベルルちゃんとモラベスクへ寄る用事もありますから、

 落ち着き次第、急いで実家へ帰りますから今日の所は……」


 と、ふいに肩を掴まれた!


「ミスト、ここに居たか」

「アベルクス先生!」

「来ていると聞いてな、お前に会わせたい、直接謝らせたい者が居る、来い」


 連れて行かれた先は、ここは確か従妹の、アリアの部屋!

 廊下の奥からは無表情で背の高いメイドが、大きいボウルに盛った美味しそうな果物を、

 山盛りで持ってきてくれている、あの時、僕が食べ損ねたやつだ!


「ベルルから話は聞いた、例の娘にちゃんと謝らせよう、当時の果物も再現してな」


 もうひとり無表情なメイドがやってきた。


「中に居たんじゃないのか?」

「二人で謝罪の言葉を考えたいというので、私はトイレに」

「まあいい、では開けてくれ」


 遅れてきたメイドが扉を開けると、衝撃の光景が待っていた。


「うわ、これは……」


 僕が思わず声を漏らしたその先には、

 天井の照明にかけたベルトで首を吊った、

 腕に三連のほくろをつけた巨乳メイドの姿が!


「コイツよ!全てコイツの命令だったのよ!私は悪くないわ!

 ほらミスト、早く私を許しなさいよ!私は無理矢理、コイツの言う通りにさせられたのよ!」


 喚き散らしながら本やスリッパを僕に投げつけるアリア!

 何も変わっちゃいない、そしてあのとき僕をアリアと一緒にハニートラップにかけたメイド、

 顔はすでに変色し結構な時間が経っている事が見て取れる、う、うっぷ、吐きたい!


「うううっっ!」


 慌てて部屋を飛び出す僕!


「おい!誰かソフィーかベルルを!」


 その言葉を後ろに、逃げるように僕はベランダに出て吐く!

 人の死体、メイドの首吊りなんて初めて見た……

 モンスターの死骸は平気だが、やはり普通の人間は訳が違う。


(駄目だ、もう帰ろう)


 二階のベランダは庭まで降りる階段があり、

 そのまま屋敷の外へ出て、待たせていた騎士団の馬車に乗る。


「もうよろしいのですか?」

「うん、もう帰りたい」

「かしこまりました」


 ……走り出した馬車の中で考える、

 あのメイドの姿、僕を罠にはめた時と同じ胸の上半分が出てるタイプの服だった、

 当時のお詫びのつもりだったのだろうか?ひとりで全部責任を負おうと……?


(……あーあ、またあの美味しそうな果物、食べ損ねちゃったなぁ)



 帰り道で最初に考えた事がそれ?っていう

                  だめ貴族だもの。 ミスト

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