第17話 最良の一日

「あら、お帰りなさい」


 エプロン姿で出迎えてくれたのは僕の母上エスメだった。


「えっ、もう普通に歩けるの?」

「ええ、ベルルさんのおかげでもう、病気としては完治ですって」


 とはいえまだ動きがぎこちない、筋力とか落ちてるはずなんだけど、魔法で一時的に強化さている感じ。


「お義母さま、ベルル、とお呼びくださいませ、はい、お土産ですわ」

「では……ベルル、その大量のお肉は?」

「さきほどさばいてまいりましたわ、ワイルドボアと、大きな鳥系モンスターですわ」


 そう、帰りに本来は冒険者ギルド出張所にする予定だった空き建物で、魔物の解体をしてきた所だ。


「まあ、本当ならミストがするべき仕事を」

「ご、ごめん母上、ベルルちゃんも」

「構いませんわ、昨日のオーク肉が残ってらっしゃるようですから、豪勢にまいりましょう」


 野菜もやたら買い込んでたからどんな料理になるのか楽しみだ、

 解体のときの手さばきも凄かったけど、学院で習ったんだろうか?

 だとしたら調理も成績優秀というか主席のベルルちゃんなら期待できる。


「ではお義母さま、お部屋に例のモノを造らせていただけますでしょうか?」

「ああそうだったわね、でも本当に良いのかしら?」

「魔石を五つほどいただいてきましたから、それを元にすれば簡単ですわ」


 早速何か造るみたいだ、僕もついていく。

 向かったのは母上が寝たきりだった部屋、その一角で魔石を五つ持って何か念じはじめた、

 するとみるみるうちに女神像になり、それをゴトリと置く、綺麗だ、きらきらしている。


「女神セレネ様ですわ、では魂を入れますわね」


 そう言いながら女神像の中心に魔力を注入すると七色の光が鮮やかに包み、それが焼きつく!

 すごい、飴細工みたいな女神像が出来た、小さな子供なら舐めてしまいそうだ、でも何か力を感じる。


「これを置いておくだけで気力体力魔力が少しずつですが回復しまわすわ」

「ありがとうベルル、私の娘……」


 あーこれはひょっとしてソフィーさんは父上派、

 ベルルちゃんは母上派になっていく流れなのかな?

 でもソフィーさんに関しては母上も感謝してたし……


「お義母さま、毎朝のお祈りは欠かせないようにお願いしますわ」

「もちろんよ、本当に感謝してもしきれないわ」

「それでは夕食を作りましょう、ミスト様もお手伝いいただけますわね?」


 当たり前のように参加させられる僕、もちろん嫌じゃない、

 台所でメイドお婆さんズを押しのけて色々と作る、母上とベルルちゃんはシチューを作りはじめた、

 僕は硬いパンをくり抜いて、器を作る……三人で料理を作るという行為は、言ってみれば新しい幸せだった。


「そうですわミスト様、お上手ですわ」

「まあミスト、いつのまにそんなに器用に」

「そ、そうですか?えへへへへ……」


 こんな風に褒められると照れるし嬉しい、

 本当はもっと小さい頃に経験すべき幸せだったんだろうな、

 そう思うと母親が元気になって、もっともっと色々な幸せを取り戻したいと思えてくる。


「さあ次はデザートですわ」


 楽しそうに料理を作るベルルちゃん、まだ十三歳なのに……

 ふと、なぜか僕を地獄に突き落とした従妹のアリアを思い出す、

 本当なら、何かが間違っていなければアリアとこんな風に楽しく過ごせた事もあったのだろうか?

 想像がつかない、会うたびに罵声を浴びせるアリア……なぜあんな風に育ったのだろう?

 ソフィーさんに話そうと思ってたけど、今夜、ベルルちゃんに先に話してみよう。


「あらミスト様、どうなさいました?」

「ううん、なんでもないよ、僕は何をしたらいいのかな」

「ではこの果実の皮を剥いてくださいませ」



 夕食も賑やかだった、

 ソフィーさんの一件があるから心からは楽しめないものの、

 ベルルちゃんを歓迎しての夕食、しかも僕が手伝ったからどんな味かワクワクしている。


「ほほう、これはこれは素晴らしいシチューだ」

「お義父さま、ジャッカルホークの胸肉は健康にとてもよろしいのですわよ」

「そうか、良くできた子だ」


 金髪縦ロールを揺らして嬉しそうにするベルルちゃん、

 本当に可愛らしすぎてこの家にはもったいないよ……

 あ、大きすぎる胸も揺れてるのはうん、そこは見ちゃいけない、じーっとは。


「お義母さま、お水を」

「はい」


 聖教会の儀式にのっとり水に魔法をかける……

 父上はまたエールか、僕も昨日に続いて果実汁だけど。


「では、我が息子の十五歳の誕生日と、ポークレット家の輝かしい未来に向けて、乾杯!」

「「「かんぱ~い!!!」」」


 ベルルちゃんは昨日のソフィーさんみたいにせかせか父上母上の世話をする事なく、普通に談笑している、

 その分、メイドお婆ちゃんズは大活躍だ、ちょっとやり難そうなのはやはりまだ四人同時相手が慣れてないからかな?

 楽しいなあ、昨日のひとときも楽しかったけど……これでまた明日の朝、ルーベンが来たら今度こそ決闘だ。


(勝てる気はしないけど……ううん、そんな弱気でどうするんだ!)


「ミスト様、ミスト様での学園でのお話をお聞かせいただけますか?」

「え?あ、うん、ええっと、あんまり楽しい話は……そうだ、同じクラスのアレグの話なんだけど……」


 なんとなく話の内容はどうでもいいかな、

 でもベルルちゃんはニコニコ聞いてくれてたまに相槌やツッコミも入れてくれる、

 父上母上はそういう掛け合い、ベルルちゃんが僕の話に気を使ってくれてるのが嬉しいらしい。


「ふふふ、ミスト様らしいお話でしたわ」

「そういえばベルルちゃんって三学年でクラスメイトがいたんだよね?別々で」

「そうですわね、まず春季の一年生だった時は……」


 楽しい食卓、昨日とはまた違った楽しい雰囲気だ、

 いいなあ、昨日が最高の一日なら今日は最良の一日といった所か、

 ベルルちゃんが本当にずっと居てくれたら嬉しいんだけどな、もちろんソフィーさんも。


(でも昨日と同じ流れなら、今夜、僕……ベルルちゃんと?!)



 そしてその夜更け、僕の部屋……


「ミスト様、あらためまして、十五歳の誕生日おめでとうですわ」

「あ、ありがとう」

「それでは早速……」


 駄目だ、駄目だ駄目だ!

 さすがにいくら学院を卒業したとしても十三歳は駄目だ!!


「ご安心くださいませ、誰も見てませんわよ?」

「し、しかし」

「ではこうしましょう、ミスト様は今夜、ただこのわたくしに甘えているだけなのです」


 甘えるだけ……言葉で誤魔化してるだけのようにも聞こえる、

 でも、たとえ十三歳が禁忌にふれたとしても誰も見てないし想像の域を出ない、

 ベルルちゃんはただ甘えさせているだけ、僕は甘えているだけ、内容については言わなければ誰もわからない。


「さあ、存分に甘えてくださいませ、ミストさ・ま♪」

「ま、待って!その、話があるんだ」

「?……どんな話か興味ありますわ」


 よし、このタイミングで聞いてもらおう。


「外でも変な事言われかけられたけど、僕、従妹のアリアを……襲った事になってるんだ」

「詳しくお聞かせ願いますか?」

「うん、あれは僕が十歳の時……」


 トラウマの扉を開ける

            だめ貴族だもの。 ミスト

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