第21話
事件現場の非常階段に、何時もの鷲鼻の警部がやって来る。
「……全く、これで何度目だね? まさかこの学校では授業で人殺しの方法でも教えてるんじゃないだろうな」
警部は到着するなり渋面を作ってぼやく。
「警部、状況を報告します」
オールバックに眼鏡の若手刑事が早口で警部に話し掛ける。
「南校舎三階の非常階段で、三年生の
「……要は梶原を殺したのは遊部で、逃げた先で自殺したということだな」
警部が納得したように頷く。
「いえ、それがどうもそう単純な事件でもないようでして……」
「……どういうことだ?」
「犯人が階段を駆け下りたときに、階段に点々と血が落ちた跡が残されていたのですが、それを鑑識課に調べさせたところ、AB型とO型の二種類の血液が混ざっていたというのです」
「……ちなみにそのAB型とO型の血というのは?」
「梶原がAB型で遊部がO型ということでした。混ざった血の持ち主はこの二人で間違いないでしょう」
「……ふむ」
警部は右手で顎を触って、頭の中で一度状況を整理する。
「つまり、犯人が逃走した時点で兇器の鋏には梶原と遊部の二人分の血が付いていたということになるな。だが、そこまでおかしなことではないと思うがね。遊部が梶原を襲った際にもみ合いになって、うっかり鋏で自分を傷つけたのだろう」
「……いいえ、それが遊部には致命傷となった首筋の傷以外に外傷はありませんでした。警部の推理では死体の状況と矛盾が生じてしまいます」
「……ええい、だったらどう考えればいいんだ!?」
「逆に考えてみてください、警部」
そこへ背の低いベリー・ショートの髪の女子生徒、
「小林君、まさか君にはもう事件の真相がわかったというのかね?」
「ええ。梶原を殺した犯人は遊部ではありません。犯人は遊部に梶原殺しの濡れ衣を着せ、自分はまんまと容疑者の圏外へ逃げ果せたのです」
「……梶原殺しの犯人が遊部じゃないだって!?」
「警部、非常階段三階に事件の関係者を集めてください。そこでこの殺人事件に仕掛けられた罠についてお話し致しましょう」
小林はそう言って、邪悪な笑みを浮かべていた。
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