第56話 怪しすぎる情報
「苦労ついでに、ザッカーバーグって若くて気のいい近衛騎士がセルバンテスのところにいたんだよ」
「はぁ、そうなんですか。それがどうかしましたか? お友達にでもなったんですか? よかったですね?」
「いや、そいつがいろいろと協力してくれたから、いい感じに処遇してやってくれ」
リュージがまるで世間話でもするような軽い口調で言った。
「いやあの、いきなりそんなことを言われても正直困るんですけど。というかですね? さっき私、戦後処理に苦労しているって、言ったと思うんですけど? ちゃんと私の話を聞いていました?」
リュージの突然の要求に、アストレアはただただ困惑するしかない。
「近衛騎士のザッカーバーグだぞ、お前こそちゃんと覚えておけよ」
「だからですね――」
「どんな処遇をしたか後日聞きに行くからな。そうだ、なんなら領地持ちにしてやってくれても構わないぞ」
「あの――」
「いいところを頼むな。収穫量の大きな平野部だ。間違っても山とか谷とか森しかない僻地とかにはするなよ」
「だからあの――」
「近々結婚するって言っていたからな。いいご祝儀になるとお前も思わないか? って、おいアストレア。ちゃんと聞いてるのか?」
「ううっ、もはや既成事実のように言ってきます……。分かりました、大公付きの近衛騎士のザッカーバーグさんですね」
アストレアは大人しく諦めることにした。
セルバンテス大公から接収した領地は広大なので、騎士を1人、小規模領主としてねじ込むこと自体は大したことではない。
ただただ利害関係の調整が面倒なだけだった。
本当にとてもすごく面倒な作業なだけだった。
「お、話が分かるじゃないか」
「リュージ様のことを手伝ってくれたのなら、つまり内戦を早期終結に導いた立役者とも言えますしね。それを聞いてしまった以上は、論功行賞でそれなりに処遇しないわけにはいきません」
なにせアストレアは、誠実さと勤勉さと柔らかな笑顔を売りにした、理想の女王なのだから。
まぁ最近では柔らかな笑顔の裏で、敵対勢力を容赦なく殺戮していくキリング・クリーン・アストレアなどとも言われてはいるのだが。
「よろしく頼んだぞ」
「頼まれました」
「ともあれ、だ。これでシェアステラ王国内のクズどもの駆除は終わった。残すは神聖ロマイナ帝国第13皇子カイルロッドだけだ。こいつを殺せば俺の復讐は完了する」
「あ、その事なんですけど」
「何か情報でも掴んだのか?」
「情報と言いますか、帝国にあるうちの大使館の外交官に、それとなくカイルロッド皇子の動向をチェックするように伝えてあったんですけど――って、きゃっ!?」
有益な情報を掴んだと察したリュージが――今まではだるそうに受け答えしていたが――目の色を変えると、ベッドからガバッと勢いよく起き上がって、勢いそのままにアストレアに詰め寄った。
逃がさないように両手を握り、互いの呼吸が感じられるくらいまで近くに顔を寄せる。
「それでどうしたんだ?」
アストレアは不意の超接近に胸をドキッと
才気あふれる若き女王も、年相応に男子に興味がないことはないわけで。
だからこんな風に真剣な顔で強引に迫られるとドキドキしちゃったりしてしまうのも、それはもう仕方のないことだった。
もちろん今はそんなことを考えている場合ではないとすぐに思い至ると、意識して呼吸を落ち着かせてから、アストレアは言った。
「ええっとですね。今からちょうど2週間後。カイルロッド皇子がシェアステラ王国の北方に位置する隣国フランシア王国に、お忍びで向かうそうです」
「でかしたぞ! 2週間後だな?」
「ええ、まぁ、はい」
念を押すように聞いてくるリュージに、しかしアストレアはなんとも微妙な顔で返事をした。
「だがちょっと待て? よくそんな情報を掴めたな? 皇子のお忍びの予定ともなれば神聖ロマイナ帝国の国家機密、トップシークレットだろ。その情報の出所は確かなのか?」
「それがまぁなんと言いますか……神聖ロマイナ帝国にあるうちの大使館に、その旨を記した封書が届けられていたそうなんです」
「封書?」
「お手紙のことですね。ごめんなさい、ちょっと言い方が難しかったでしょうか?」
「そんな言葉くらい知ってるっつーの! なにが『ちょっと言い方が難しかったでしょうか?』だ。お前、俺のことをバカにしているだろ」
「そんな、親切心から言ったのに……」
無実の罪で
「そうじゃなくて、どう考えても相手にバレてるじゃねーか。下手くそな探りの入れ方してんじゃねぇよ。100
期待から一転、どう考えてもありえない情報入手方法を聞かされて落胆&イラついたリュージは、心のおもむくままにアストレアを
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