第21話 幼馴染①
「うぐぐぐぐ…… インターホンを押すだけなのに、悠里の家の前に来ると途端に身体が重く感じる……」
どうする? まずは瑠璃さんと世間話でもしてから、さり気なく悠里の話をする?
いや、そんな事をしても無駄ね。あの人鋭いから、今日来たことを伝えるだけで悠里に会いに来たことが勘づかれそう。
いいんだけどさ。事実だし…… 自分の蒔いた種だし? いい加減責任もってなんとかしろって話なのも分かる。
思えば一年の夏に告白してから、気まずくなって……
三年の時にあんなことして……
悠馬…… いえ、悠里。貴方の心に私が入る隙間は結局なかったのかな……。
なんて考え事をしていたら、ドアが勝手に開かれた。
ちなみに私はインターホンをまだ押していない。
「待ってたわよ。明日奈ちゃん…… そろそろ来ると思ってたわ」
自分で言うのもなんだけど、私はびっくり人間の部類に入ると思ってる。
その私ですら仰天するほどの勘の持ち主…… 生まれて初めて私が恐怖した人間…… それが瑠璃さん。
前になんでそんなに鋭いのかを聞いたことがあった。
その時は『母は強しなのよ~』とか言ってたっけ。全く意味が分からなかったけど……。
「ユウなら部屋にいるわ。ただ…… あの日から塞ぎ込んじゃってね。部屋からほとんど出ないし、ご飯もあまり食べれてないの」
予想以上の重傷だわ。つーか、あんなクソ虫の事で悩みやがってと思ったらなんだかイライラしてきた。
私と小学生の時に喧嘩した時だって、そんなに塞ぎ込まずに数日で謝りに来るくらいだし、もっと私の事で悩んでよとか思ったっけ。
「私に一回話をさせてもらえませんか? 私があの子を外に出します。というか出て貰わないと困ります」
「そうね、明日奈ちゃんならきっとなんとかしてくれると思うわ」
「それも勘ですか?」
「いいえ、明日奈ちゃんを信じてるからよ」
瑠璃さんは相も変わらずニコニコしながら手招きして私を家の中に入れようとしている。
本当に掴み所のない人…… 私は瑠璃さんの手招きに吸い込まれるかの様に家の中に入った。
見慣れているはずの悠里の家の玄関。
なのに、今日はやたら緊張する。
「明日奈ちゃん、あの子の事…… お願いね」
瑠璃さんが突然心配そうな表情で小さい声で私に耳打ちしてきた。
やっぱり表面上はニコニコしてても不安でしょうがないんだ。
私は無言で頷き、階段を見上げる。
この階段…… あの雑魚虫が二年間昇り続けて来たかと思うと、やっぱムカつくわ。
ダメよ、イライラしたまま悠里と話をすると感情のまま会話してしまいそう。
まだ階段の途中だけど、一旦深呼吸をして心を落ち着かせる。
心が落ち着いて来た事を認識して階段を昇る。
二階に上がり、すぐ左手にある扉…… 悠里の部屋だ。
間を開けていたら何時まで経っても進まない。だから私は考える前に扉をノックした。
「悠馬…… いえ、悠里。私よ」
「あ、明日奈……?」
「話があるの。開けて頂戴」
「ごめんね、せっかく来てくれたのに…… 今は誰にも会いたくないの」
「貴方が今悩んでいる元凶について話をしたいのよ」
少し間が空いてる……
「やっぱり…… 二人はまだ繋がってたんだ……」
「え…… 貴方、何を言ってるの?」
「だって、タイミング良すぎるじゃない。ここに来たって事は、私が透君にフラれた事知ってるんでしょ? それなのに、今まで音信不通だった明日奈が急にこのタイミングで来るなんておかしすぎるよ。本当は別れたとか言っておきながら、ずっと繋がってたんでしょ? 透君を経由して私の事を知って陰で笑ってたんでしょ? 男の癖に女みたいな事言って……とか、本当に女になってやがるとか言ったんでしょ。それとも高校三年の時みたいに私の事をハメて、二人で私の事を見て楽しんでたんでしょ、笑ってたんでしょ。まだ足りない? 私の事を…… 追い込み足りない? どこまで追い込めば気が済むの? これは私が諦めて死ぬまで続くの?」
「ちっ、違う! 話をちゃんと――」
「嫌! もう嫌! 嫌い、嫌い、嫌い、キライ、キライ、キライ! みんな嫌い、明日奈も透君も嫌い。…………もう…… 死にたい」
これは私の蒔いた種…… 憎まれるのも、嫌われるのも覚悟の上で行った事。
まさか…… 死ぬという方向性に向かうとは思わなかった。
けど、そうなったのも私の責任だから…… 私のとるべき行動は……
「分かったわ。もう止めない。死にたいなら死ねばいいわ」
「……………………」
「どうせ死ぬなら、最後に私のお願いを一つだけ聞いてほしいの。貴方から見たら間接的になるかもしれないけど、この日の為に協力してくれた人が結構いるのよ。その人たちに私と一緒に頭を下げに行きましょう。『色々手伝ってくれたみたいだけど、私は今から死にます。ごめんなさい』って…… あと、もちろん瑠璃さんにも言うのよ。散々心配かけたんだからね。それが終わったら死にましょう。私も一緒に逝くから」
「……なっ、なんでっ!?」
「当然でしょう? 貴方をそこまで追い込んだのは他ならぬ私なんだから。貴方が死ぬというのであれば、責任を取れるのは私以外にいないでしょう。安心しなさい、貴方が死ぬ前に貴方の目の前で先に死んであげるから。それとも…… 私の死体を目にすれば貴方からすれば復讐できるんだから、生きる気力が湧いてきたりする? であれば、死ぬのは私だけでいいかもしれないわね。どんな死に方がいいかしら? 焼死? 溺死? 失血死? 貴方が望む死に方をしてあげるわ」
「どうして明日奈がそこまでする必要があるのよっ!」
「その問いに対する答えは昔も今も変わらない……。私が好きなのは…… 愛しているのは貴方だけ…… この想いだけは誰にも否定させない。ねえ、悠里…… もし私が死んだら貴方は生涯、私の事を忘れずに生きてくれる? であれば、私が死ぬ意味もあると思うわ」
「……ヤダ…… やっぱり、死んじゃヤダ……」
悠里がぐずり始めた。こういう所は本当に昔から変わらないのね。
本当に私が死んだ後の事を想像しているのかもしれない。
嗚咽を漏らしているのがドア越しでも分かる。
彼女が泣き止むまで待ち、落ち着いたであろうタイミングで改めて声をかけてみた。
「少しは落ち着いた? なら、ここを開けてくれないかしら? 久しぶりに貴方の顔が見たいの」
少しの間はあったものの、ドアを開けてくれた。
そこにいたのは紛れもなく、悠馬の面影を残した女性となった悠里だった。
髪はボサボサ、目の下にクマも出来てる。頬も少しコケてる。
私はつい、昔の勢いのまま悠里に抱き着いてしまった。
この匂い、抱き締めた時の感触、髪を撫でた時の感覚……。
昔と変わらない。
変わったのは私…… 高校一年の夏に関係を変えようと思って失敗した。
それから勝手に離れて行った癖に、三年の時にあんなことをして……。
会えなかった分を取り戻そうと少し力が入ってしまった。
「あ、明日奈…… く、苦しいよ……。」
「少しは我慢して。私だってドアの前でお預けされてたんだから」
何分経ったか分からない程、私もようやく落ち着て来たから悠里からいったん離れた。
私達は悠里のベッドに腰かけて、お互いについて話す事にした。
「私ね、明日奈と本音で話したいの。勢いであんなこと言っちゃったけど、あれから…… ちゃんと話もできなかったし、今のタイミングを逃したら話が出来なそうな気がして……」
「どこからがいいとか聞きたい所はある?」
「えっとね…… 一年の夏の時に明日奈からの告白を断っちゃったでしょ。あれには他にも理由があって……」
多分、そうだろうなとは思った。
当時、まだ彼だった時に私を見ていた視線が
「知ってた」
「えっ!?」
「というか何となく気付いてたかな。だって貴方――」
私の答えに彼女の目が泳いでいた。分かり易過ぎだっての。
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