第17話 最凶コンビとトラウマ女の再会

 透への協力をすると言っても、明日奈は現役大学生であるため翌日以降も普通に大学に通っている。

 

 午前の講義が終わって昼食の時間になり、明日奈は瑞樹と待ち合わせをしていた。

 

 明日奈は一足先に集合場所で待っており、しばらくすると小走りで瑞樹が向かってきた。

 

「ごめ~ん、明日奈。待った?」


「十分くらい待ったかしら」


 瑞樹は食べ物で頬をぷく~っと膨らましたリスの様な表情で明日奈に不満を漏らしていた。


「そこは「今来た所だから」って言ってよ。雰囲気出ないじゃん」


「何よ、その茶番。そもそも、そんな台詞実際に聞いた事ないわよ。それで、今日のお昼ご飯どうする?」


「いつもの商店街じゃなくてあの・・喫茶店に行きましょう」


 瑞樹が指定した場所は大学近くの商店街ではなく、そこそこ離れた場所…… 電車で三十分程の場所に高校生時代に通っていた喫茶店があるのだ。

 

 理由があるときは、大体そこに行く。

 

 そして…… この日はその理由がある日。

 

「今日は午後の講義が無かったから丁度良かったよ」


知ってた・・・・からね」


 明日奈の自分の取っている講義をわざわざ瑞樹には知らせない。

 

 しかし、瑞樹は知ってる・・・・のだ。

 

 さすがの明日奈も引きつった笑顔で「マジでアンタだけは敵に回したくはないわ」というが、瑞樹も嬉しそうに「それはお互い様でしょ」とはにかんでいる。

 

 電車に乗って慣れ親しんだ駅で降りる。

 

 レトロなお店が立ち並ぶ閑静な通り沿い。

 

 そこの外れ辺りにポツンとある小さな喫茶店。

 

 初見だと若干入りにくそうな入口も気にせずに瑞樹を先頭にして入っていく。

 

「こんちわ~」


 喫茶店のマスターであろう初老の男性は瑞樹を見るなり、ため息をついていた。


「ちょっと、人の顔を見るなりため息をつくなんて酷くない?」


「悪ガキ、またなんか変な事企んでんのか?」


「人のいる所だと話しにくいだけで、今回は・・・真っ当な調べものよ」


「明日奈ちゃんも付き合う友人は考えた方がいいぜ。コイツと付き合ってるといつ両手が後ろに回るか分かったもんじゃねえ」


 基本的な折衝は瑞樹の担当であるため、明日奈は後ろで二人のやり取りを見ながら「ははっ……気を付けます」と愛想笑いするだけ。

 

「わかったから、さっさと奥に行け」


「どもども~」


 通された場所は、オープンな喫茶店に不似合いな完全個室。


 その個室は完全防音、盗聴防止のジャミング発生装置付きなど秘密の会話をするにはうってつけの場所。

 

 瑞樹のバイトに必要な場所であるが、明日奈は今までこんな場所は知らなかった。瑞樹にバイトの手伝いとして連れてこられるまでは……。

 

 普通の喫茶店にそんなものはないはずなのだが、瑞樹は何故かこの店にその部屋がある事を知ってた・・・・のだ。


「注文はどうすんだ? 後にするか?」


「先に頼んでもいいかな? いつものランチセット三十分くらいしたら持って来て欲しいかな」


「了解」


 注文が終わってマスターが個室から出て行くのを見計らって瑞樹は取り出したノートPCの電源を付けて準備をしていた。


「じゃあ、三十分でちゃちゃっと終わらせようか。依頼のあった調査結果だけど……」


 明日奈は無言で頷くと、瑞樹はノートPCをカチャカチャ叩いた後に画面を明日奈の方に見せていた。

 

 明日奈はその画面に表示された情報を見て顔を顰めていた。

 

 何か…… 思い出しそうな? そんな表情をしていた。

 

「んー? なんか…… どこかで…… 思い出しそうなんだけど……」

 

 しばらく頭を唸っていると何かピンと来たような表情をしていたが「元クラスメート…… の…… 『山岸 花音』さんじゃないかしら? あの時絡んできた…… でもどうして?」となんでこの人の画像をここに出した? と疑問を持っているようだった。

 

「正解だよ。じゃあ、何で私は高校三年生の時のクラスメートである山岸さんの画像をここに出したと思う?」


「なんでって……?」

 

 解答までに時間が掛かりそうだと思った瑞樹は、明日奈にヒントを出した。

 

「私さ、ずっと疑問に思ってたことが有るんだよね…… 明日奈の事件があってから、明日奈の事を知ってて喧嘩売ってくるバカっていないでしょ? アマチュアとは言え、総合格闘技の高校チャンピオンですら一撃で葬る明日奈に喧嘩売るって頭のネジが飛んでるか、それを知らない・・・・かのどちらかでしかない」


「まだ葬ってないから! ……それに高校チャンピオンって誰よ。全然記憶にないんだけど」


「明日奈が金的で血の海に沈めた男…… 彼がそうなの」


「あー、あれが…… スキだらけで蹴ってくださいって言ってるただのマゾかと思ったわ。てかそんな奴が徒党を組んで女一人襲ってくんなよ」


「あの一件で、再起不能になって格闘技辞めたらしいけどね…… まあ彼は一旦置いとくとして、問題は画面に映っている山岸さんの方よ。彼女がうちらの高校に来たのって高校三年生の時だったでしょ。だから明日奈の事件を知らない。明日奈が一条君と付き合いだしたのってその後でしょ? 二人が付き合っている事は知っている。だから…… たった一件とはいえ、明日奈に対する嫌がらせが起きた」


 さすがの明日奈も今の話で動揺を隠せていなかったのか、その反応を面白そうに瑞樹は見てニヤついていた。


「まさか、彼女がそう・・・・・だって言うの? でもなんで私達の高校に来たわけ? 全部知ってて…… だとしたら正気じゃないわよ」


「そこまでは分からないかな。ただ…… 全てを理解した上でやってるんだとしたら…… メンタル強靭と言うか、ぶっ壊れたんでしょうね…… あの時に…… ここから先は本人に聞くしかないわね」


「ちょっと待って、肝心のここが違うじゃん?」


 明日奈がPC上の表示されている箇所を指していた。


 そこは、その人物の姓名の部分。


「それね、苗字は――だし、名前は明日奈の読み方が間違えてる。――って読むんだよ」


「まじ……? だから、氏名を聞いただけ・・・・・じゃ気付かなかったんだ。世間って思った以上に狭いわ……」


「私は楽しくなってきたなー。やっぱ明日奈の近くでは何かが起きるね」


「他人事だと思って…… それで、現在の居場所は?」


「正体さえわかれば、そんなん秒で特定できるよ。明日彼女は通院の予定があるからそこを待ち伏せしよう」


「わかった」


 二人は一旦情報の整理が終わったタイミングで届けられた喫茶店の特製ランチに舌鼓を打っていた。




 翌日、明日奈と瑞樹は目的の人物がいる場所に来ていた。

 

 その人物はこの日、通院をしているらしいのでそのタイミングで接触をすることにした。

 

 対象は病院から出てきて、隣には大柄で体格の良い男が付き添っていた。

 

 予想通りのルートを通って来て、丁度曲がり角を曲がったタイミングで待ち伏せていた。

 

 明日奈は二人の前に出ると、挨拶を対象にしていた。


「お久しぶりね、二年ぶり……かしら」


 対象の女性は鳩が豆鉄砲を食ったような表情をしていたが、それも束の間……

 

 直ぐに我に返り、唾をゴクリと飲み込み、震える声を絞り出す。

 

「き、喜多川…… さん…… 四宮さんも…… どうしてここに……」

 

「どうして? 私達がここに来た以上、何となく察しがついたんじゃないかしら? 私に机をまっぷたつにされた時の失禁癖はもう直った? 『山岸 花音かおり』さん…… いえ、今回の用件上、旧姓の方が都合がいいわね…… 『金城 香織かおり』さん」

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