グリードウーマンの世界 その2

 目の前でその残骸を残し、消えていくひよこたち。それは、私の中で消えることのない衝撃映像として記憶されていく。


 ただただ、淡々と踏み潰されていく。人間たちが気づく様子もない。ただそこにいないもののように、次々とその命を散らしていく。


 先月の授業で、命は皆同じだと教わった私にとっては、目の前で行われている作・業・は自分の考えの外にあった。


 故に恐怖した。故に唖然とした。動けなかった。


 ひよこたちを踏みつぶしていく人間たちが、とても大きく見えたからだ。


 そうやって踏み付けられ、蹴られ、こちらに目すら向けられず、死んでいった罪のない生き物たちが今までどれほどいたのか、どれほど悔しい思いをしてきたのか、そう思うと、自然と人間への不信感が、私の真っ白な心のキャンパスに滲んでいく。


 気づけば、あれだけいたひよこ達も残り1匹。親のアヒルもそれを理解しているようで、右へ左へと首をぐるぐる回転させ、あの子だけでも守ろうとする意思が感じられる。


 生物的に弱いのに、そんなものは関係ないと言わんばかりに、その小さい体で必死に最後の子を守るその姿は、それこそ生態系の頂点に君臨する人という種族のあるべき姿だと、小学生ながらに感じられた。


「あ! おーい! 〇〇!!」


 そんな感傷に浸っているのもつかの間、私の両親が、もう覚えていない私の下の名前を呼びながら、アヒルの親子の向かい側から駆け寄ってくる。





 アヒルの親子を、その足で踏み潰しながら。





(あ……)


「大丈夫か? 心配したんだぞ!?」


「よかった……本当に……」


 私のそばまで近寄ってきた両親は、その両腕で私を熱く抱きしめる。いつもなら、とても暖かく愛を感じられるその腕だが、今は違った。



 生・暖・か・か・っ・た・



 私の視界に写っているのは、半泣きになりながら優しい言葉を投げかける両親と、血で真っ赤に染まったその靴、そして真ん中で横たわるアヒルの親子。



 正しいのは一体誰だ?

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