楽しい楽しいお祭りの終わり 作戦
次の日。俺は家でベッドに寝転び、スマホをいじくりまわしていた。
文化祭の最終日は既に始まっている。なのになぜ俺は家でゴロゴロしているのかと言うと……
「休みになったんだよなぁ……俺……」
ことの発端は昨日、失った腕を隠すためにベッドで寝たきりになっていると、家族に病気だと勘違いされたらしく、無理矢理最終日を休みにさせられたのだ。
「ま、妹が文化祭に行ってくれたのは不幸中の幸いか……」
俺が休みになると聞いた途端あの妹が看病すると言い出した時は正直焦った。
誰かに看病されていると、家から逃げ出すことがほぼ不可能になる。殺せば問題ないのだが、死体と言うどデカい証拠を隠すのは非常に面倒だ。
俺の必死の説得により、文化祭にいつも通り行ってくれた。地味にあれが俺の命運を握っていたといっても過言ではない。
(今日のために色々と準備したんだ……あんな女1人のせいで止められてたまるか)
そう思いながら、チラリと時計を確認する。既に時間は11時を回り、午前中に従者喫茶を運営している従業員たちはもうすぐ業務を終える頃だろう。
(さて……そろそろだな)
そんな俺の思いに応えるように、手に握っていたスマホから着信音が流れた。
――――
時は遡り、昨日の夜のこと……
(まじか〜……明日は休みか……)
俺はついさっき、母親に明日は休もうと言われ、かなりうなだれていた。
文化祭と言う犯人を捕まえる大チャンス。しかも犯人側も俺を殺そうと活発になるだろう最終日。その日に藤崎剣斗として出席できないと言うのはかなり痛い。
もちろん、黒ジャケットとして隠れながら文化祭に潜入するのもできなくはないが、藤崎剣斗として文化祭に出場するのと、黒ジャケットとして出場するのとでは、手に入れられる情報量にかなりの差が出てしまうことは明白。
(くそっ……どうするか……)
とにかく、明日は朝一に起きて、母親と妹が家からいなくなった後、すぐに黒ジャケットとして外に出て……
「……あ?」
俺の思考回路を遮るように、スマホから着信音が流れた。
スマホを手に取り、誰からのものかを確認してみる。
「……また黒髪女か」
黒髪女とは、俺が藤崎剣斗になって一日目の夜から毎日欠かさず何回も電話やらメールやらをかけてくる面倒くさ過ぎる女のことだ。初めて学校に行った時に俺に対して食ってかかってきた女であり、おそらく本物の藤崎剣斗の友達だった女。
「チッ……お前に時間をかけてる余裕は無いってのに……」
そして俺はいつも通り、黒髪女からの着信を切ろうとすると……
「……まてよ?」
指がピタリと止まる。脳が急激に回転を始める。脳の中で組み上がっていく方程式は、ぐにゃぐにゃとその形を変え……
やがて、脳の中に1つの作戦を生み出した。
『あっ、初めて繋がった!! ねぇ、ちょっと今まで「うるさい」っ……な、なによ……』
「明日、お前に1つやってほしいことがある。それができたら文化祭が終わった後にデートでも何でもやってやる」
『えっ……ほ、本当!? それ本当!?』
(やはり食いついたか……手っ取り早くて助かる)
「ああ、もちろん」
俺はそう言って、黒髪女にやってほしいことを伝えた。
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