第十二章 策略
不眠
「……………」
「……………」
その日の夜12時。任務がない俺は袖女と一緒に我が家で夜を過ごしていた。
ここ最近、夜の任務で忙しく、規則正しい時間に就寝するのは久しぶりで違和感を感じる。
…………夜の任務ってなんかいかがわしいな。
いや、そんな事なんてどうでもいい。せっかく時間が空いたのだ。あの牛の対抗策でも………
………悪い癖だ。せっかくリラックスできる時間なのに、ついつい何かについて考えてしまう。東一時代はこんな事なかったのだが……
(……ハカセと出会った時からかな……あの時も地獄だったが、今もそれなりに地獄だ……)
あの時は次から次へと敵が現れて地獄だったが、今はいつ襲われるかわからない、そんな地獄になっている。
というか、狙われているのかどうかすらもわからない。
「…………」
(このまま待つ姿勢になってしまっては、勢力が少ないこちら側が圧倒的に不利だ……かといって、本部に突入するのは論外……)
とてつもないほど難しい。考えれば考えるほど、何故大阪派閥に喧嘩を売るような行為をしてしまったのだろうかと、昔の自分に問いただしたくなってしまう。
(あれはどうだ……? しかしそれだと……)
「………何か考えてますね?」
「………別に」
「嘘。絶対に何か考えてました」
「なんで言い切れんだよ」
「ずっと一緒にいたからです」
「………あっそ」
ここまで筒抜けになっているとは。流石はチェス隊の洞察力と言った所か。
「せっかくあなたも休みなんですし、もうとっとと寝ましょう」
そう言うと、袖女は体を起こし、俺に対してそう言ってくる。確かに、考えてしまう癖を考慮すると、寝てしまった方が大きな回復を見込めるだろう。
「それもそうだな」
俺は袖女の意見に賛成し、自分の体を持ち上げる。
リビングの電気を消し、袖女は洋室に移動。俺はリビングの電気を消した後、そのままベッドの中に潜り込んだ。
そのまま目を閉じ、体を脱力させるわけだ………
ゆっくり………
そのまま………
……………………
(眠れん………!)
もうすでに1時間経っていると言うのに、全くと言っていいほど眠れない。いつもなら、活発に動いている時間だからか、体がもぞもぞと動いてしまう。
「……………我慢ならん」
俺はベッドの中でじっとしているのが嫌になり、むくりと起き上がってクローゼットの中に立て掛けてある黒ジャケットを着用し、玄関の前まで歩き出す。
正直、このままでは寝られる気がしない。と言うわけで、夜の散歩で言うことを聞かない体を落ち着かせようと言うわけだ。
外にはできるだけ出ないと言ったが、ゆうて10分位の外出だ。これぐらいなら支障は出ないだろう。
「ウウ………?」
「ん……ブラック……お前も行くか?」
「ワン!」
どうやらブラックも俺についていくようだ。1人で行くよりは1人と1匹で行った方が心細くなくていい。
早速、俺は玄関のドアノブをひねり、夜の街へと踏み込んだ。
――――
「おーさむさむ……」
まだまだ冬では無いとは言え、今は9月中旬。黒ジャケットを着ていても、そこそこは寒い。
(……早めに帰るとするか)
少し前まで暖かいベッドの中に居たからか、外の温度が相当寒く感じる。さすがにこんな状態で歩き回るのは嫌なので、当初よりも帰る時間を早めるとしよう。
「そこの道路曲がったら帰るか」
「ワン」
俺の言葉にブラックも応答し、右の道路を曲がり、くるりと1回転。折り返して家へと………
「………ッ!!!」
瞬間、空から鋭い殺気を感じる。こんな形で狙ってくると言う事は、おそらく不意打ち。しかし、ここまで正直に殺気を飛ばしてくると言う事は………
(いや、まずは回避が先だ!)
俺は体が前のめりにし、飛び跳ねてその場からすぐにでも離れる。離れてから、一瞬でもともと俺がいた場所に砂嵐が舞う。何かが着地したのだ。
しばらくすると、その砂嵐がゆっくりと晴れていく。
「…………やっぱ狙われてたか」
「ホッ、ホッ、ホーーーッ!!!!」
そこには、1匹のゴリラがドラミングをしながらたたずんでいた。
――――
「…………なぜこんな回りくどいことをした?」
「どこが回りくどいんだい? 立派に彼が1人の所を狙ったじゃないか」
「ゴリラにしなくとも、雀なんかの小柄なのを使えば、不意打ちが成功したんじゃないのか」
「無理だよ。彼らは殺気が抑えきれない。動物たちは不意打ちが大の苦手なんだ。あーやって1人の所を狙えただけ上出来だよ」
「それに………今回の目的を忘れたのかい?」
「しかし………」
「強さの点なら問題ないよ。あのゴリラは十二支獣に迫る強さを持っているからね……彼にとっても、一筋縄ではいかない戦いになるだろう。さぁ、ポップコーンでも持ってきて、一緒に観戦しようじゃないか」
「…………そうだな」
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