第十章 出現

深夜の通達

 闇サイトからメールで依頼が送られてきた日の深夜12時。

袖女は既に就寝し、俺は1人でネットサーフィンを楽しんでいた。


 すると……


「…………お?」


 パソコンに、また新たに一件メールが送られる。こんな深夜にメールが来る事はなかったので、少し不信感を覚えるが、仕事に関連する大事なメールかもしれない。相手は裏の住民なのだ。昼夜逆転していてもおかしくは無い。


「やっぱり……!」


 メールを開いてみた結果、やはり裏サイトからのメールだったことがわかった。その内容は、ヤクザの拠点だったり内部の構造だったり、報酬は任務達成した後、その次の日の朝10時に行うなど、任務に使える有意義な情報。


 これはありがたい。ここまでしっかり情報を提供してくれるとは、闇サイトからしても、今回の任務は成功してほしいと言うことだろう。


「がんばらなきゃな……」


 この情報の提示により、任務達成の難易度は劇的に落ちた。ここまで協力してくれることなど滅多にないに違いない。ここで任務を達成して、お金を得つつ闇サイトの信頼を得るのだ。


「……さて、今回はこのくらいで…………」


 高まる気持ちを抑えつつ、今日は就寝しようと思ったとき…………


「…………待てよ?」


 本当に今日を終わらせていいのか?


 今は深夜の12時。日付が変わったと言えど、眠気は感じないし、ついさっきの情報の提示により、俺のやる気も上がっている。大阪に来てから1番のベストコンディションといえよう。

 しかも今は深夜。任務を開始するにはうってつけの時間帯だ。


 …………やるか?


 世の中には、善は急げと言う言葉がある。

 この言葉の意味は言葉の通りで、良いと思った事は、ためらわず、すぐに実行すべきだと言う意味である。ベストコンディションに加え、万場家の時のように実践をしていないと言うわけではない。


 つまりは今がチャンス。今が実行の時。


「やれる、やれる、やれる…………やるぞ!!」


 作戦開始の時は決まった。


 すぐさまいつもの黒ジャケットの服装に着替え、ブラックを呼び出す。


「ブラック、起きてるか?」


「ワン!!」


 俺の呼びかけに、ブラックは機敏に反応する。そのブラックの姿からは「もちろん!!」と言っているような気がした。


「外に出るぞ……任務開始だ」


 玄関から照らされる光を背中に、俺とブラックは夜の闇へと足を踏み込んだ。









 ――――









「ん……?」


 何かを擦るような布の音。がちゃりと開かれる玄関の音。

そんな音で目が覚める。瞳が開き体がむくりと起き上がる。

どうやらリビングで何かをしているらしく、ドアの隙間から照明の光が漏れ出ていた。


「一体何を……」


 私はそれが気になり、ドアを開けてリビングに入る。


 だが、誰もいない。さっき、玄関を開けるような音がしたが、彼は出発してしまったようだ。


 よく見てみるとブラックもいない。ブラックと一緒に外に出たと言うことは……


「任務に……」


 行ったとみて間違いないだろう。私は午前中から午後にかけての任務に行く姿しか見た事は無いため、こんな深夜に行くと言うのは新鮮だ。


 こんな真夜中に行くと言うのは、大人でも大変だろう。


 それこそ、私のパートなんか比にならないほど。





「……………」




 私は複雑な気持ちになりながら、少しの間立ち尽くしていた。









 ――――









「どうするつもりだベドネ、今回ばかりは無視してられんぞ」


「わかっているよネーリエン。あの"設計図"だからね……あの設計図の中身は僕たちの頭の中に全て叩き込まれているけど……あれの中身が他の派閥に広がるのはまずい」


「…………出すか?」


「それがいいだろうね。今回は絶対に叩き潰した方がいい」


「どいつを出す?やはり"鼠"か?」


「いや……"虎"でいこう」


「…………過剰じゃないか?」


「問題ない。むしろ、それでも少し不安な位だよ。十中八九大阪政府の連中は抗議してくるだろうが……問題ない。あの子たちの権限は全て僕たちにある。彼らが動かせても、せいぜい"失敗作"位のものだからね」


「…………それもそうだな、わかった。虎を出そう」


「うん、それがいいよ」







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