回答
なぜ……なぜだ?
「なぜ2つも反応がある?」
俺、騎道雄馬は考えていた。なぜ逃げられたのか、我々がいるのに、なぜパーキングエリアから堂々と抜けられたのか。
(反応……か)
「2つ……」
(パーキングエリアを抜けた方は、ほぼ間違いなく犯人たちのものだろう……だが、肝心なのはこちらだ……どうやって索敵スキルに反応"させた"のか)
そうやって考えていると、通信相手と話を切り上げた優斗が近づき、喋りかけてくる。
「おい! 何そんなところでウジウジしてんだよ!? そんなところで突っ立ってるんだったらさっさと追ったらいいじゃねぇか!」
優斗も苛立ちを隠せず、怒鳴るように言葉を投げてくる。責任を感じてくるかと思っていたが、それを感じない口ぶりがなんとも優斗らしい。
「お前……仲間にそんな言い方……」
宗太郎が反抗しようとしたが、俺はそれを手で静止する。宗太郎が言った方が耳を貸すかもしれないが、今の優斗はちょっとやそっとのことでかっとなってしまう。それで宗太郎とまで言い合いになってしまえば、本末転倒だ。
ならば、その次に耳を貸してくれる可能性が高く、優斗に慣れている俺が行くべきだろう。
「優斗、ミスしたからって仲間に怒鳴っていい理由にはならないぞ? ……それに、追ったところで無駄だ」
「……はぁ? どういう事だよ」
「理解できないか? 犯人は俺たちを出し抜き、パーキングエリアから逃げたんだぞ? ……おそらく、リムジン以外の車でな」
「……だから何なんだよ」
「はぁ……ここまで言ってもまだ理解できないか?」
「ああ!!? てめえ舐めやがって……もういい!! 俺だけで十分だ!!」
そう言うと、優斗は魔剣を捻出し空中に浮遊、高速道路の方へ飛び立っていった。
「……よかったの?」
珍しく友燐が声を出す。さすがに単独行動は良くないと思ったのだろう。顔からは心配の表情が見てとれる。
「問題ない。こういう風に逃げたと言う事は、相手には対抗する力は無いと思われるからな……それに、あいつには言葉よりも体験させるほうがいい」
俺は友燐への回答を終えると、2つに両断されたリムジンへと向き直る。理由はもちろんのこと、なぜここにいると思わせたのか、である。
どうせ逃げ切られた犯人を現実逃避して追うよりも、索敵スキルを出し抜いたトリックを知る方が犯人のスキル内容につながり、次に生かせると考えたからだ。
まずは斬られている断面から中に入り、リムジンの中身を確認していく。
(座椅子やシートには特に仕掛けなしか……)
やはり、ぱっと見の所には、そこまで大掛かりな仕掛けはしないだろう。ここまでは想定内、俺はリムジンの中身を調べ、徹底的に捜索していく。
すると、ボンネットからあるものが見つかった。
「鉄の……玉……?」
そこそこの重さの鉄の玉。何十年も前、アルミホイルで鉄の玉を作るのが流行ったらしいが、それとほぼ同じ、ソフトボール程度の大きさの鉄の玉だ。
探してみて見つかったものはこれだけ、怪しいものはほとんどなかった。
「……何か見つかった?」
「この意味不明な鉄の玉しか見つからなかった。だが、これが深く関連している事は間違いないだろう」
「この時代にそんなもんがあるとはなぁ〜……その犯人って相当物好きかもな」
「……だが、意味もなくこんなものがあると思えない」
(こんなものがある理由はなんだ? ここに置いておかなければいけなかった理由は? ……わからんな。神奈川に持ち帰り、しっかりとこの鉄の玉をチェックしてもらわなければ)
ともかく、これ以上ここにいる理由はない。とっとと帰還しよう。
俺は2人に指示を出し、3人とも浮遊して来た道を戻っていく。
高位武器を持っているものは、空を飛ぶことができる。なぜそうなるのかは解明されていないが、武器を作り出すタイプのスキルは無数に存在しており、その中でも格の高い武器、高位武器を捻出することができるスキル保持者は、なぜか空を飛べる。
学者の説によると、武器を出すために体に内包されたエネルギーが空気とぶつかり合い、結果、空を飛べるとかなんとか……
無論、俺たちは4人とも高位武器を捻出できるスキル保持者だ。
「な、なぁ……」
「ん? なんだ宗太郎。不満でもあるのか?」
「い、いやぁ……不満ってわけじゃないんだけどさぁ……正直、犯人を追わない理由がわかんなくてさ……なんで追わねーの?」
「ふむ……」
まさか宗太郎すらもわかってなかったとは。
……まぁ、神奈川に帰るまで暇だし説明してやるか。
そう思い、これ以上犯人を追わない理由を話し始めた。
――――
(くそ……腑抜けどもが……)
俺は今現在、1人で犯人を追っている。あの3人は本当に追っていないようで、後ろから気配は感じなかった。
(まっ……おかげで手柄を独り占めってもんだ。チェス隊には認められるだろうし、もしかしたら憧れの桃鈴様も……)
「そしてゆくゆくは……へへ」
そう思いながらも、通信から送られてきた場所に到達する。とはいっても常に移動しているので、場所もクソもないが。
「到着……! 後は車を止めれば……」
その時、とあることに気づく。
「とめ……」
まわりからは大量のアクセル音。夜の11時だが、さすが東京と神奈川をつなぐ交通道路、交通がかなり多い。
「……どれを?」
そう。わからない。周りには車が所狭しと並んでいる。
……だが、この程度は想定内だ。
(チェス隊の娘に場所を聞けばいいだけだ!)
早速、チェス隊の娘に通信を入れる。
「すいません! 言われた場所には着いたのですが……肝心の車がわからず……どの車ですか?」
完璧だ。完璧な言葉選び、完璧に礼儀正しい発言、好印象待ったなしだ。好感度を上げつつ犯人を捕まえる。一石二鳥だ。
『いや……私にもそこまでは……』
「……え?」
(え?)
「どっ、どういうことですか!!」
驚愕の事実。索敵スキルのはずなのに、わからないだと? 意味がわからない。さっきまでちゃんとリードしてくれていたじゃないか。そういう思いが、頭の中でぐるぐると渦巻く。
『え? いや……異能大臣から聞いてませんでした? 私のはあくまで反応だって』
「は? 一体どういう――――」
その瞬間。チェス隊の娘の今までの発言を思い出す。
……"反応"その言葉1つで、なぜ位置がわからないのかわかってしまった。
……全て、全て雄馬はわかっていたのだ。あの時に漏らした言葉1つで、俺が理解していなかった全てを。
(すべてお見通しって事かよ……)
俺は観念した様に、ゆっくりと、来た方向へと舵を切った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます