幕間その2 相談……そして

ちゃん久しぶり! 2年ぶり位かな?」


「そのくらいかなー、ほんと久しぶりだね!」


 蒼華ちゃんとは昔から面識があった。うちの両親とあっちの両親の中がかなり良く、高校に上がるまでは大晦日などの祝日に家族がらみで会っていたのだ。


「も…桃鈴様? その方は……」


「硬城蒼華ちゃんだよ! 昔から会うことが多かったんだ!」


「は、はぁ……それにしても……」


 雄馬くんが少し怪訝そうな顔でこちらを見てくる。


「……とても……いや、かなり……似ていますね」


「そうかなー? 髪色も全然違うよ?」


(まぁそう思うのも無理ないよねぇ……)


 僕と蒼華ちゃんは本当に瓜二つなのだ。似ているとか言うレベルではない。クリソツ、髪の色が金髪と青みがかった黒なだけで同じ人間が2人いるレベルだ。

 本当に髪の色でしか判断方法がつかない。目の大きさから背丈、スリーサイズすらほぼ一緒。

 その事でよく互いの親の話の種になっていたっけ。


「……ここにいると言う事はあなたもチェス隊ですか?」


「そだよー、一応白のクイーンやってるんだー!」


「……っ! 白のクイーン……!!!」


 ここで疑問に思う人もいるだろう。

 なぜ白のクイーンを知らないのか、それはとても単純な理由だ。チェス隊はその人気ゆえ、雑誌の表紙に乗ったり、テレビに出たりすることが多い。それは東京にも輸入され、絶大な人気を博している。だが、出演するかしないかはあくまで本人の自由であり、チェス隊の中には全く雑誌なのに出ない隊員も存在する。

 その中の1人が硬城蒼華であり、場所によっては白のクイーンと言う存在すら都市伝説扱いされているところもある。

 故に雄馬くんは、存在は知っていても、その容姿を知らなかったと言うわけだ。


「すみません白のクイーン。とんだ御無礼を」


「いいよいいよー、よく言われることだしね!」


 雄馬くんと蒼華ちゃんはいい感じに社交辞令を済ませる。

 初対面の反応としてはまぁまぁといったところか、不仲になるよりはマシだろう。

 他の3人は何をしているのか。他の3人の方を振り向き、確認してみると……


「あっ、あの! 自分! 騎道優斗と言います! あの、あのっ……紫音さんのことはいつも雑誌やテレビで拝見させていただいていて……」


「……ありがとうございます」


(あ〜……アハハ……)


 優斗くんは異常に緊張していて、文章だけ聞けば……口は悪いが不審者のように見えてしまう。


 がんばれ! と思うしかないなぁ……





 他の2人はと言うと……



「すげぇ……テレビで見たことあるような娘から、見たことないような超美人のまで……よりどりみどりじゃないか……」


「…………」


 宗太郎くんはチェス隊に見とれて、友隣ちゃんは無表情で僕の側で立っていた。


 ……まぁ、各々楽しんでいるようで何よりだ。


 そう思っていると、チェス隊から1人の女性がこちらに向かって歩いてくる。


「東京の皆様、お初にお目にかかります。チェス隊、黒のクイーン。斉藤美代さいとうみしろと申します。どうかお忘れなきよう……」


 それはチェス隊の中でもあまりに有名で、チェス隊トップとされている人物だ。雑誌やテレビにも積極的で、チェス隊の中でも脅威の認知度を誇っている。

 髪は黒でロング、身長も高く、きれいなお姉さんと言う印象だ。


「おお……!」


「あの有名な……」


「…………!」


 チェス隊の中の1人に夢中になっている優斗くんを除き、他3人が少し反応を見せる。こんなことを言っている僕も、少し反応してしまった。


「おお……黒のクイーン! お久しぶりです。今日も美人だ」


「うふふ……昔と変わらずお世辞がうまいですね」


 どうやら異能大臣とも面識があったようで、異能大臣とも軽い挨拶をとっていた。

 それをぼーっと見ていると、斉藤さんがこちらに視線を向けてくる。


「あら? あなたは……」


「桃鈴才華といいます。今回の任務ではお世話になると思うので、ご指導のほどよろしくお願いいたします」


「まぁご丁寧に……それにしてもあなたが……なるほど、見かけによらず、非常に強い力をお持ちのようですね」


「……あなたがいいますか」


「……ふふふ、若い子にはまだまだ負けませんよ?」


 僕と斉藤さんは、しばしの間睨み合う。斉藤さんから感じる精神力は今まで見てきた強き精神とは一線、いやそれ以上に次元が違うものだった。


(……なるほど)


 僕でも勝てるかどうか危うい。そういうレベルだ。

 睨み合うこと数分。さすがにそろそろと思ったのか、異能大臣が横から声をかけてきた。


「お二人とも落ち着いて………黒のクイーン、そろそろ取引の内容のほうに移りたいと思うんですが……」


「ふむ……そうですね。では長官も呼んできますので……しばしお待ちを……「ねぇねぇ」……どうしたの?」


 斉藤さんが場を離れようとした時。蒼華ちゃんが斉藤さんに声をかけてきた。


「私らこれから待機なんでしょ? だったら才華ちゃんとお話ししてきていい?」


「……まぁ別に構いませんが」


(僕とのお話……? ……最近どうとかかな)


「やったー! じゃぁ1室借りるね!」


 そうして僕の腕をつかみ、ぐいぐいと引っ張ってくる。僕はされるがままに本会場を出て行った。









 ――――









 たどりついたのは何の変哲もないただの1室。

 家具も机と椅子のみ。部屋は部屋でも相談室のようだった。


「ここ座って?」


 蒼華ちゃんに誘導され、椅子に座りこむ。対する蒼華ちゃんは私の前の椅子に座り、対面する形になった。

 そうすると、蒼華ちゃんは本会場にいる時とは違い真剣な口調で喋りかける。


「何かあった?」


「……え?」


 胸がドキリとはねる。何か変な表情をしていただろうか。


「いや……何もないならいいんだけどね。なんていうか……笑ってる顔が才華ちゃんっぽくないっていうか……作り笑いな感じがしてね」


 なんて洞察力だ。昔あっているとは言え、出会って数分で気付けるようなものじゃない……とは言え、伸太との事は僕の問題だ。僕がなんとかしなくてはならない。他の人の力を借りるわけにはいかないのだ。


「アハハ!! なにそれ!そんなことないよ〜!」


「私が知ってる才華ちゃんはこんな時に笑ってごまかしたりしなかったよ……?」


「ハ……ハハ……は……はあ…………」


「…………聞いて、くれるの?」


「いいよ、聞いてあげる」


 僕には、その言葉が伸太のことを話すトリガーとなった。


 ……結局、僕は伸太のことについてしゃべってしまった。

もちろん伸太の名前は隠し、それ以外のすべてのことを吐き出した。


「……そっか、大変だったんだね」


「でも、でもぉ……彼のスキルは人を殺せるようなスキルじゃない! 心優しい彼の性格が具現化したみたいな……人を傷つけない優しい力なんだよ……」


「……その彼のさ……思いをちゃんと聞いてあげてた?」


「……思い?」


「人ってさぁ……いつも変なところで意地を張っちゃうんだよね。……多分男の子だったらもっと意地張っちゃうんじゃないかな? ……無理矢理にでもいいからさ、たまった鬱憤は吐き出させてあげないと……そうなっちゃうのも無理ないよ」


 今思えば、伸太の気持ちを僕が考えていれただろうか。

 ……僕は伸太にそのままで良いと言う気持ちを押し付けているだけだったのかもしれない。


「たぶん……その彼だって強くなりたかったんじゃないかな? いなくなっちゃう前にその三山って人にやられちゃったんでしょ? それがきっかけになって……て感じじゃなかったの?」


「…………」


「その後のメンタルケアはやってあげた? その方法で自分で自分を許させるような言動はしてない? ……そんなに落ち込むほど大事な人だったらさ、もっとたくさん見てあげないとダメだよ……本当に戻ってこなくなっちゃうよ?」


 ……言葉が出なかった。


 同い年にもかかわらず、とても大人びていて責任というものをしっかり知っている瞳をしている。心に槍が刺さったように衝撃で体が震えていた。


 ……今までの私にはなかったものだ。


「それさえちゃんとできれば……その彼も戻ってきてくれるんじゃないかな」


 人に話すと言うものは、ここまで心が軽くなる物なのか、方にのしかかった物が軽くなったような一緒に背負ってくれたような感じだ。

 ……とにもかくにも、今まで下ばかり向いていた心がやっと前を向いたような気がした。


「……ありがとう。何か……また前を向けそうな気がする」


 僕がそう言うと、蒼華ちゃんはにっこりと笑い僕の言葉に返答した。



「いえいえ! どういたしまして!」


 この人は……すごく……強い人だ。









 ――――









 同時刻。黒のクイーンである斉藤美代と東京の異能大臣は取引の段取りを進めていた。

 その部屋の中では、異能大臣と斉藤美代しかおらず、ドアの外に護衛を2人置いているだけだった。


「では、マスコミには正式な"同盟"の方を生中継してもらい、ウルトロンの取引はその後に行う……こういう段取りでよろしいですか?」


 斉藤がそう発言する。このままいけば、今斉藤が言ったような手はずになる事は間違いないだろう。


 だが、それに異論を唱える男が1人。


「いや、待ってください黒のクイーン。1つご提案がありまして……」


 もちろん、相対する席に座っている異能大臣だ。


「……何でしょうか?」


「実は、こちら東京の方での会議で同盟の方だけでなく、ウルトロンの取引の方もマスコミの前で公表してしまおうと言う意見が出たのです……そして、その意見に私は賛同しています」


「……はあ」


「どうですか黒のクイーン。この案は」


 少し怪訝そうな顔をする斉藤を尻目に、異能大臣はこの意見についての確認を求めてきた。


「…………その行動についてくる神奈川へのメリットを提示してもらわないかぎりはどうにも発言できません」


 さすがは黒のクイーン斉藤美代だ。相手の提示してきた内容に対して、ただ首を縦に振るのではなくそれによって生ずるメリットについて考えている。さすがは最年長、さすがはトップといったところだ。


「1つは我々の同盟を認知してもらえる事、そしてもう一つは……」


 そう言うと外の護衛に聞かれないようにするためか、異能大臣は斉藤の顔に近づき耳元でささやいた。


「"中身"の開発スピードのアップ。神奈川に対する最優先の提供」


「……!!」


 さすがの斉藤もこのことには驚いている様子だ。


「……それは本当なんですね?」


「約束しましょう。何なら……」


 そう言うと異能大臣は紙を取り出し、胸ポケットのボールペンを手に取り紙に書いていく。


「これを渡してもいい」


 そう言って、書き終わったであろう紙を斉藤に渡してくる。その内容はいたって単純。先ほど耳打ちで話した内容を約束した紙。もちろんのこと異能大臣の名前も書き記された簡易的な契約書だった。


「…………」


 斉藤は何かを察したようで、しばらく考え込むような顔になると……やがて観念したように言葉を発した。


「……わかりました。もともとは裏で取引する予定だったのですが……仕方ありません。急遽予定を変更しましょう」


「ありがとうございます。あなたが話のわかる方で本当によかった」


 話し合いは終了したようで、2人とも席を立ち、出口へ向かっていく。


「……そういえば、こんな大事なことを長官ではなく、私に話したんですね?」


 最初、斉藤は長官も呼んで3人で会話しようとしていたのだが、異能大臣の希望で二人っきりでの対談となっていた。


「あんなものはただの飾りに過ぎないと私はよく知っていますからね。"キング"にも久しぶりに会えると思ったのですが……今回の会議にも欠席となると、この場で事実上のトップはあなたしかいません」


「あら、嬉しい」


 そうやって2人は同じ出口へ歩を進める。互いの願いを心の中に秘めながら。



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