新たなテキ

 A市は、東京都内で最南端の都市だ。


 神奈川派閥に最も近く、東京派閥と神奈川派閥をつなぐパイプとしても一役買っており、東京派閥の中でも重要視されている都市の1つである。


 東京派閥は合計で7つの派閥を傘下に入れている。千葉、茨城、栃木、群馬、埼玉、福島、新潟の7つだ。傘下に入れている派閥の数なら最多だし日本でも有数の都市である千葉も傘下に入れていて、盤石と言っていいだろう。


 だが、そこで立ち塞がったのが神奈川である。


 神奈川派閥は、山梨、静岡、長野、富山の4つしか傘下に入れていないが、その分、科学力や強スキル保有者の育成に凄まじい力を入れているという。

 今では神奈川と東京は友好関係にあり、たびたび派閥のトップの会談が行われている。


 ……それに、神奈川には男にとっては垂涎物の制度がある。


 それは…………



「おい! ぼーっとしてるんじゃない! もうすぐA市を抜けるぞ!」


「……んあ? ……悪い、ハカセ、半分寝てた」


 俺は既にマスクは外しており、無防備な状態だった。


「全く、オヌシと言うやつは……肝が座っていると言うか、間抜けというか……」


「間抜けはやめてくれよ……」


「これから次第じゃな」


 そう言うと、ハカセは乗ってきたレンタカーを駐車場に止める。


「……? なんで止めるんだ?」


「……おそらく、東京派閥と神奈川派閥の境目には先日の事件の影響で検問がいるじゃろう。東京と神奈川の通り道であるこの通路をチェックしてくるやつは相当優秀じゃ。あの時の雑魚検問のようにはいかん」


 なるほど、ばれることを嫌ったわけか。


「よって……オヌシの反射で吹っ飛んで神奈川と東京の境界線を抜ける」


「……バレないか? それ」


「なぁに、人間、実は目の前のことに夢中になるとそれ以外のことが見えないんじゃよ。目の前の検問に夢中な奴らはワシらを見向きもしないだろうよ」


「そういうもんか」


 そう返すと、今まで質問していなかったことを思い出す。


「なぁハカセ……車の運転中にスチールアイって、動かしてたか?」


「んん? いや、動かしておらんなぁ。あれって、何かをしながらだと操作が難しくてなぁ……ばれる危険性もあるし、市内じゃから大丈夫じゃろ!」


(…………)


 その時、俺はふと、店主の言葉を思い出した。


(私は誰の味方でもないですからね?)



「……!! ハカセ!!!!」


 俺はハカセを座席から突き飛ばした。ドアを無理矢理こじ開け、俺も一緒に外に出る。


「なっ……!」


「…………!」


 その瞬間、後ろから響く爆発音。爆風で飛ばされて駐車場を転がっていく。顔に石が当たって地味に痛い。


 回転が止まり、後ろを振り向くと車が爆発し燃え盛っていた。


 そして俺は、おそらく犯人であろう人間が居る方向を見る。

 だが、その人間は意外なことに……


「……ほう、今のをかわしましたか……逃げ延びただけの事はあるということでしょうか」


 その人間は、黒い隊服を武道家のように袖をカットした隊服を着た女だった。



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