第二章 欲求

作戦開始

 薄暗い下水道に1人の青年が立っていた。


 その体は傷ひとつないものの……凄まじい闘気をたぎらせていた。









 俺は自分でも驚く速度で移動し下水道へと帰還した。


 その後、レベルダウンの血がついたスチールアイはハカセの元へ帰っていく。


「よくやったぞ伸太、これで奴らに一泡吹かせることができるわい!」


 ハカセは嬉々とした雰囲気を出しながら言う。本拠地で何かをするようだ。


「オヌシには夜にまた動いてもらうことになる。今のうちに英気を養っておいたほうが良い」


 ハカセから助言をもらった。ペストマスク顔で言われたらその間に人体実験の実験台にされるんじゃないかと少しぞっとするが。


「オヌシだけが頼りじゃ……がんばっておくれ」


「当然だ」


 俺も東京の奴らに目に物見せてやれると思うと体に力が入る。


(……それに時間があるならちょうどいい。少し試してみたいことがあった)


 ハカセは本拠地で何かをしている様だったので、俺は本拠地を出て下水道の通路に立っていた。


「…………」


 精神統一、とでもいうのだろうか。


 目をつむり自身の闘力に意識を集中させる。


 そして、ゆっくりと目を開く。


(やはりか……)


 疑惑が確信に変わる。闘力が比較にならないほど増えている。前までが10だったとしたら60近くまで増えていると言っていいだろう。


(その理由は……)


 闘力、闘う力。そこから導き出される答えは1つ。


「闘ったからか……」


 今までの高校での試合や稽古は闘いとみなされなかったのだろう。


 ……つまり、殺し合わないと育たない力。


「大歓迎だぜ……」


 今の俺の心は人をもうすでに3人殺したことが原因なのか完全に吹っ切れていた。まるでそれが当たり前だったかのように、それがさも当然かの様に。



「うし、次は……」


 俺の新たなスキルについて考えていこうと思う。


 ハカセはこのスキルを反射と言っていた。


 俺もまぁまぁその名前を気にいっているのでこれから反射と言うことにしよう。

 俺は下水道の天井から地面に落ちてくる水滴を反射しようとする。



ポタ、ポタ…………


「……んん?」


 次は天井から俺の肩に落ちてくる水滴に反射をかけてみる。



ポタ、ポタ、ポ……ビシャッ!


「……んんん?」


 実験の結果、地面に落ちてくる水滴は反射できず、俺の肩に落ちてくる水滴は反射できた。


(……なるほど)


 ここである1つの仮説が誕生する。

 それは俺の体に触れたものしか反射できない説である。

 1つ目の水滴と2つ目の水滴、違う点は俺の体が触れている部分である。それに2つ目の水滴も俺の体に触れてから反射した。

 つまり、俺の体を触れていなければ使えない超近距離型の能力であると言うことがわかった。

 

 ……これはかなりきつい条件がわかってしまった。


 だが、逆に考えれば近距離型スキルの敵に関しては無類の強さを誇るだろう。

 今のうちに能力の制限がわかったことに関してはプラスに考えることにしよう。


 そう思いながら、さらなる検証にふけっていった。









 ――――









「ここを……こう……んん?」


 ワシは本拠地にこもり、スチールアイに付着した血について調べていた。

 伸太が夜にしてくれた作戦は普通ならもう数年かかったレベルダウンの血の採取をたった1夜にして成し遂げてくれた。

 伸太には感謝しかない。これからも友好関係を築いていきたいものだ。

 ワシには医学の知識がある。それを使い血を調べているととあることがわかった。


(この血……人の血なのか?)


 おかしい。ヘマトクリット値が明らかに高すぎるのだ。

 ヘマトクリット値とは、簡単に言うと血液の濃さである。通常の成人男性のヘマトクリット値が38%から50%に対しこの血液は60%を超えている。

 このヘマトクリット値は猟犬並であり人間だと血が濃すぎるのだ。


(血を移し変えた? 何のために?)


 疑惑が深まるばかりである。




 …………そして、夜が来た。




「ハカセ、12時になったぞ」


 俺は12時になったのを確認するとハカセに問い掛ける。


「ああ、勝負の時じゃ」


 ハカセも準備が終わったのかのそりと起き上がりテーブルに紙を広げた。


「これはレベルダウンのいる施設の間取りじゃ」


 そこには丁寧にそこはどうゆう部屋かどういう場所かというのを明確に書いてあった。


「やる事は簡単じゃ、この場所にあるレベルダウンのための宿泊用の部屋……そこに侵入しすべてのレベルダウンを……"始末"するんじゃ」


 簡単だな、と思う。それならば前の夜の作戦の方がよっぽど難しかった。


「わかった」


「……ずいぶんと淡白じゃな、もう少し他の方法はないのかとか聴くと思ったんじゃが」


「それくらいしないと俺はもうやっていけない。そう言う場所に俺は立たされている。それに、俺の復讐する奴らには東京派閥も含まれているんだ。これくらいやらないと復讐とは言えんだろ」


「ククッ……あんなに純白そうだったオヌシにも色がついてきたのう」


「うるせーやい」


 少し茶化してきたハカセに俺は言い返す。ハカセはククッとまた笑って話を戻した。


「ふぅ……話を戻すがこの施設は本部のすぐ真下の地下に作られておった。つまりこの施設は本部と直結している。入るためには本部に一度入らなければならん」


「だが、それには本部の厳重な警備をくぐり抜けなければならないぞ?」


「それについては考えがある。ワシに任せてくれ」


 そう言うとハカセは話を続ける。


「本部に入ればエレベーターに乗るだけで地下の施設にたどり着く、そこまでいけばワシの見たこの間取りの通りに行けば簡単に目標が達成できると言う算段じゃ」


 単純かつうまくいけば簡単に敵に大打撃を与えることができる。俺がそれに同意を示そうとした時


「じゃが……この部屋だけがどうしてもわからなんだ」


 ハカセはそういうと図の何も書いていない一番奥の部屋を指差す。

 他の部屋にはトイレ、食事処などの字が書いてあるのにその部屋にだけ何も書いてなかった。


「ここがか?」


「うむ、その部屋にだけまるで周りが避けるようにその部屋に入らなかった。ワシのスキルは微粒子レベルに小さくなれるだけで微粒子と同じサイズになれると言うわけでは無い。すべてしっかりと自動ドアでドアが開くタイミングでしか入れなんだ。端に入る必要もないほど何もない部屋なのか、あるいは立ち入りを許されていない部屋なのか……わからない以上どちらにせよ警戒が必要じゃろうな」


「要注意ってことか……」


「……どちらにせよこの部屋には用は無い。とっとととんずらするのが正解じゃろうな」


「ああ……」


 ハカセに対して返事をしながら少し考えていると、


「そういえば伸太。オヌシのジャケット、直しておいたぞ? 少し色が変わったが……まぁ許してくれ」


 そう言うとハカセは俺にもともと着ていたジャケットを手渡してきた。というか白だったのに黒になっとる……全然少しじゃなかった。


 俺はバサリと黒くなったジャケットを身に付けると、それを見たハカセは宣言した。


「よし……作戦も決まったことだし、これから10分後に作戦を開始する! 伸太にはスチールアイを1つ忍ばせておきワシがナビゲートする。作戦の目標はレベルダウンの"壊滅"じゃ!」


 ハカセが俺に向かって高らかにそう宣言する。


それに対し俺は……


「…………了解した!」


 そう宣言した。


 …………これから、本格的に復讐が始まると心を躍らせながら。


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