作戦、そして
今、俺は夜の東京の街を走っていた。
ハカセと手を組んだその日の夜、すぐさま作戦は開始された。
『聞こえておるか〜?』
「ああ、聞こえてるよ……ハカセ」
ハカセのスチールアイは人の肌に触れる事で、通信を行うことが出来た。現在、ハカセの目の2つは微粒子サイズになり、俺の肌にくっついている。
「…………」
夜の街をかけながら俺はハカセとの作戦を思い出す。
――――
「まずは今日の夜、オヌシは自分の家に戻るのじゃ」
「……はい?」
何を言っているんだハカセは。
「そんなことしたら……」
「おそらくオヌシの部屋はガードマンによって封鎖されているであろう。じゃが、それでいいんじゃ。ガードマンがなければこの作戦は成立しない」
「……」
俺は黙ってハカセの説明を聞く。
「遠慮はいらん……やってしまえ」
「それってつまり……」
「……ああ、カードマンは……殺せ。そうすることで作戦が成立する」
「…………」
俺が黙るとハカセは立ち上がって……
「これを使えばよかろう」
何かを取り出してきた。剣と言えるほど大きくはなく、ナイフと言えるほど小さくもない。いわゆる短剣と言うやつだった。
「……これはオヌシの闘力エネルギーを流せるように作られておる。力になってくれるはずじゃ」
どこでそんなものを、と聞きたくなるがグッと堪えて気持ちを落ち着かせる。
……落ち着かないと殺せるものも殺せないからだ……
――――
――俺は今から……人殺しをする。
「あーあー、聞こえるかハカセ?」
『おう、聞こえるぞ』
「俺のマンションに着いたぞ。ガードマンは……やっぱりいるみたいだ。」
『計画通りじゃ……伸太、いけるか?』
「いけるかじゃ無い……」
俺は大声で叫び……
「行くんだよッ!」
前に向かって飛び出した。
「なっ! お前は!」
ガードマンが驚いた様子で俺を見る。顔はもう知られているようだ。
俺はダッシュしながら闘力操作で貯めたエネルギーを右腕に充電し振りかぶる。
「だあああああああああああああ!!」
その腕は直撃したかに思えた……だが。
「……甘いッ!」
そこのところはさすがガードマン。両腕で俺の右腕をしっかりガードしていた。そしてそのまま俺をはねのけて、ポケットから銃を取り出す。
「……悪いが、お前には射殺命令が下されている……悪く思うなよ」
射殺命令? ……なんて事だ。東京派閥はもう俺に射殺命令を出したのか。
東京派閥に対して、ふつふつと怒りが溜まるのを感じた。
そして…………
「ああああああああああああああ!!」
俺は全力でガードマンに向かって駆け出す。風を切り、空を切り、前に進む。
「……死ね!」
ドンッ、と打ち出される弾丸。それはまっすぐに進む俺に向かって飛んでくる。このままでは死ぬ――今までの俺なら死んでいたこの展開。
……だが
「無駄だぁぁぁ!!」
俺はこの瞬間、弾丸に向かって拒絶する。
……するとどうだろうか。俺の体に触れた瞬間、弾丸が俺の体から跳ね返りガードマンへ向かっていく。
「なっ……! ぐあっ……!」
跳ね返った弾丸はガードマンの右胸に直撃する。痛みでガードマンの顔が変わったその瞬間、足を払ってこかせて馬乗りになる。
「これでっ……!」
俺はハカセからもらった短剣を取り出しそこにエネルギーを流し込む。
ハカセのゆうとおり本当にエネルギーが流れた。
「やあああっ!!!」
俺は右腕で短剣を高速で振り下ろす。
「馬鹿め……終わりだ!」
突如、ガードマンの体に電気がたまっていく。なるほど……電気か。
「俺のスキル"帯電"であっという間に終わらせてやるよ!
とっとと連行されるんだな!」
一気に光り輝くガードマンの肉体、バチバチと鳴り響く耳にうるさい音……だが。
ザクリ
「うっ……!」
ガードマンが声を少し出す。もしスキルがなかったら俺は即死していただろう。
「反射」
……だが、現実はそうではなかった。
俺はこの電気を拒絶することで反射し、同じく反射の力を持った短剣がガードマンの左胸に突き立てられる。
「うぅ……」
それだけではない。電気を反射したことによりガードマンに自分の電流が流れこむ。
「ああああああああががががががが!!」
意味がわからない言葉を吐きつつ電気でしびれていくどころか皮膚が真っ黒い状態になったガードマン。
「あ……は……」
もはや息もないだろう。だがまだ足りない。もっとしっかりと"この男は殺された"と印象をつけなければならない。
そう思い俺は黒焦げのガードマンの頭をつかみ、
「反射」
ガードマンの頭を拒絶し頭を見るも無残に消し飛ばした。
「……」
俺は目で両手を見る。
……意識して殺したのはこれが初めてだ。だが不思議と自分に対しての嫌悪感や罪悪感は感じなかった。
きっともともとこういう人間だったんだろう。
その後、俺は作戦通りガードマンの服の中から非常用トランシーバーを取り出しスイッチを入れる。
「こちら東京警察本部何かあったか?」
トランシーバーの奥からまるでお手本のような言葉が入ってくる。この瞬間、俺はハカセとの作戦内容を思い出す。
――――
「よいか? ガードマンを殺した後はそのカードマンの持っている通信機器を起動するんじゃ」
「……? なんでだ? それだと俺が殺したってばれちゃうんじゃないのか?」
「そうじゃ、じゃがそれが狙いなのじゃ、もし自分の通信機器に要注意人物が人を殺したなんて言ったらどう思う?」
「そりゃ……捕まえようとするだろ」
「そうじゃ、そして今やレベルダウンの数も増え、警察にもある一定のレベルダウンが組織されている。オヌシのスキルは知られておるがそのオヌシが人を殺したとならば、相手は間違いなく不審がる。だってそうじゃろ? 相手は人間に向かって全く殺傷能力のないイージーのスキルの人間だったのじゃから。ここでオヌシがデュアルハイパーの幼なじみだと言うことを考えてくれれば、何らかのスキルが発現したと思われる。ならば、ここで出てくるのは……」
「レベルダウンか……」
「そ、あたりじゃ、そして殺害現場へ向かうレベルダウンの近くにおってくれ、できるだけ近くじゃ、そうすればオヌシにくっつけた2つのスチールアイがレベルダウンの血を取り、もう一つをカメラの様に取り付ければ、今日の所の作戦は達成じゃ!」
「……わかった」
「よいか? 攻める作戦は明日の夜行う。レベルダウンに取り付けたワシのスチールアイで相手の本部の間取りを調べてからじゃ……よいな?」
「……了解した!」
――――
「おい! どうした? 何かあったのか?」
トランシーバーの奥の男は少し不安がったのか、何かあったか確認してくる。
「残念だったな……もう何かがあった後だぜ?」
俺は声を出し反応する。できるだけ悪どく、悪く見えるように、
「……誰だ」
俺の言葉に不信感を覚えたんだろう。声を低くし怒り口調で喋ってくる。
「…………」
俺が何も言わないでいると、
「貴様は誰だ! あいつはどうした!」
急に怒鳴って叫んできた。
……ここだ。このタイミングしかない。そう思い俺はまだガードマンの胸につき刺さったままの短剣を持ち、ぐちゃり、ぐちゃりと音を立てる。トランシーバーからでも聞こえる様に。
「どうなったんだろうなぁ〜」
「……ッ!」
そう言うと、ブツリとトランシーバーが切れる。おそらくおおよそのことを察したのだろう。
『よくやった! うまいこと奴らを挑発できたぞい!』
「ああ、やったな」
『あとはレベルダウンの方に移動するだけ……あ』
ハカセが何か気づいた様な声をだす。
「……どうした? ハカセ」
『ああっ! しもうた! レベルダウンが何処から来るか考えておらなんだ!』
えええ……まったくこの老人は……
『すまん……普通に走れば見つけられる計算だったんじゃが……ううん……馬鹿正直に本部から向かってくるとは考えられんし……』
姿は見えないが、ハカセが頭を抱えて考えているように見えて少し笑ってしまった。
……だが考えなければなぁ、ここからが作戦の本番なのだ。ここで失敗してしまっては意味がない。
「うーん」
何かないか? 高速で移動できる方法……車を使う? いやそれはない。こんな夜中に目立つ車でウロウロするのは論外だ。ハカセのスチールアイで探してもらうか?それだともし見つけたとしても俺が間に合わず現場に到着されてしまう可能性がある。
十分間に合ってなおかつ近い位置に行ける方法……
「……あ、思いついた」
『ほんとか!』
俺の声にハカセが反応する。かなり切羽詰まっていたようだ。
『思いついたのならすぐ実行に移してくれ! もはやどんなことでもかまわん! たのむ!』
「やったことねーんだけど……まいっか」
俺は屈伸をした後、飛び上がるような体制になる。
そして……
「反射」
空気を切り裂く音を立てつつ遥か上空へ飛び上がる。
『おおおおおおおおおおおおおおおおおお!?』
ハカセが驚いたような声を上げる……もうちょっと静かにできないんだろうか。
……まぁ、とにかくうまくいったようだ。
理屈はこうだ。まず飛び上がるような体制をとった後そのまま地面を拒絶する。ただこれだけ、これをするだけで俺は地面から飛び上がり凄まじい速度で跳躍できるというわけだ。
『なるほど! こんな使い方があったとは! オヌシもなかなか頭が回るなぁ!』
「いや失礼だな」
そんな話をしながらビルからビルへと飛んでいく俺、それを少し続けていると、
『おったぞ! 右じゃ!』
右を見るとまるで人形のように隊列を組みながら一寸の狂いもなく移動していく集団を発見した。
これはもはや間違いなく……
「レベルダウンだな?」
『ああ、間違いない、あれじゃ』
やっと発見した。現場から警察本部まで半分位の位置、そこでレベルダウンは動いていた。
(あとは……)
少しでも近づくだけだ。
(ゆっくり……ゆっくり)
近くの路地裏に着地した後、まるで忍者のようにゆっくりゆっくりと忍び足で近づいていく。
(……よし!)
集団の最後尾の列から5メートルもないところまで来た。
(今ならいけるぞ! ハカセ!)
それに応えるように2つの鉄球が微粒子サイズになり最後尾の1人に向かって飛んでいく。
……そして少し待っていると。
『成功じゃ』
ハカセの冷静な声が聞こえる。ぶじに作戦は成功したようだ。
「ッッ! ………はぁぁぁぁぁぁ」
体から一気に力が抜ける。俺もさすがに緊張していたようだ。その体にハカセの声が響く。
『よし! すぐにそこから下水道に逃げ込むのじゃ! ルートはワシが伝え……「伸……太……?」……!』
ハカセが言葉を発したその時、そこにかぶさるきれいな声、皆を癒す安らぎのようなものを与える口調、聞き覚えがある。
俺はゆっくりと顔を上へあげる。
そこには……
「や……やっぱり伸太だぁ…………」
俺の幼なじみ……桃鈴才華がいた。
「ッ!!」
まずい、やばい、後ろを振り向き走り出す俺、後からまってとの声が聞こえるが俺は振り向けない。
『そうじゃ! 逃げろ伸太!』
そして俺は地面を拒絶し……
その夜の街から姿を消した。
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