第38話 カニ捕獲、逃げるんじゃない

 体操で使う鉄棒を作って横向きの部分にかまぼこ状の回転体を付ける、そこにブイを海面から釣り上げてからめる。


 「それじゃあデバスさんお願いしまーす」

 「おー。うまいんだな?」

 「保証します」

 「よっしゃあ、りゃりゃりゃぁ」

 ハンドルを勢いよく回すとワイヤーが巻き取られていく、やがて直径一メートルくらいの団子になったころ鉄箱が上がってきた。


 「お、おも、これでいいのか?」

 「水を抜きますからゆっくり巻き上げて」


 箱からガサゴソ音がする、音は止めた方が良かったか?。


 「ひ・ひいいぃぃぃぃ!!」


 ざざーって団長が後ずさるが見えるぎりぎりにいる。

 目を離すのも怖いって奴だな。


 「どうなさったんですの?」

 「見ない方がいい、知らない方がいい、今日の食材だそうだ、あっちに行こう、ね」

 「はあ?、何だか今日はせわしいですわね」


 緩い三つ編みで一つにしてシュシュで留めているマリンカさんがセリアーヌさんに連れていかれる、もう少し見せて。

 好きな髪形なんだ。

 最後に目が合ったら手をひらひらさせてた、陽気な人だ。


 鉄箱をウインドウから少し出すとガサゴソさらに大きく聞こえる。


 「何の音ですこれ?」

 「水を抜いたら暴れ出しますよ普通」


 箱に手を当て向こう側を密閉してこちらを開ける、二匹落ちた、もう一回しようかな。


 「うわっ!!、ちょっとまって、何だぁ今のは虫か?」

 「カニですよ蟹、昆虫と違って肉がたっぷりと有りますよ」

 「たっぷりか?」

 「ぷりぷりで甘いですよー」

 「ほんとか?」

 「ホントホント、お酒にもよく合うんです」


 どこか疑う目で見てくるのをよそに地面に箱を下ろして蓋を開ける。


 がさごそがさごそ。


 村で一番強いお酒をかけて蓋をする。


 がさがさがさ、ごそごそ、カリカリ、カンカン。


 「ひいいいいいぃぃぃ!!」

 どこかから聞こえる悲鳴。そんなにかな。


 静かになった頃合いを見て蓋を開けるデバスさんが少し引き気味に覗いている。


 テーブルと籠を作って二つに切って籠に放り込む。

 ダン、バサ、ダン、バサ。


 「これを籠のまま鍋の上に乗せて」

 蓋をして言うと分かったとデバスさんが持っていく。

 我が家の鍋奉行はただ一つ、入れたら食えだ、煮え切るまで待ってはいけない、肉やカニは特に。

 なので軽く火を通すのに蒸し焼きにする。


 三杯を湯の中に入れて茹で上げて殻を砕いてテーブルに出す。


 「味見ですよー、試してみて」

 しっかりとした肉を見て安心顔のデバスさんとサイカちゃんとミレイヤちゃんが寄ってきた。

 たれは反しにりんご酢を足したもの。


 「うまっ!」

 小さなトングを使って姉妹も食べる。

 「おいしい」

 「うん、おねーちゃんすごくおいしい」


 あーそうかそうだよね。


 「ねえ、一番上のお姉ちゃんの事知ってる?」

 「知らないけどマルタ母さんの一人っ子だって言ってた」

 成程こっちに聞けば早かったな。

 「そうかー、会いたいと思う?」

 「「うん」」

 「じゃあ一緒に食事する?」

 「「するー」」

 「マルタさんてマルタマイヤさんの事だよね?」

 テミスさんが確認してマリナさんが教えてくれる。

 二年前に亡くなっているマルキルの第一夫人だそうだ。

 「そうです」

 妹のミレイヤちゃんは食べる方に夢中になっている、だんだん皆が寄ってきたな。

 ジョイさんは宿車の上でふてくされている、ガラさんは馬車の上で目をつぶっている、鷹の目はたしか周りを俯瞰で知ることが出来るだったか、鍛錬中かな。


 暗くなってきたのでタープを山の方に曲げて光が漏れにくいように。

 ウインドウを出して幸せそうにもぐもぐしているクリームさんを呼ぶ。

 「ここが直視できそうなところに兵がいる?」


 クリームさんのマナ感知は生きるものの種類が分かるようになってさらに五百メートルくらいに感知距離が伸びた。

 自分達から山に向けてウインドウ映像を走らす。


 「大丈夫だよーここはうまく隠れてる、心配なのはこいつ」

 私を包むように後ろに立って指さす所をアップする。

 「でかい熊ですね」

 「しかも傷持ち」


 体長は五メートル越え、多分胸と背中に切り傷がある、胸は見て解るが背中は体毛が斜めに固まっている。

 でもこいつ北の方を睨んでる?。まあ来ないなら良いか。


 クリームさんが私をパーテイションの方に連れていく。

 「何があったか話して」


 そうか、無理して見えたのかな。

 ベンチを出して座ろうとするとカチャカチャ音がする、抱っこされた、いいけど。

 少女の事を中心に時系列を当てはめて話した。

 ゾルダン邸から半ば拉致されるようにウジルノウ伯爵家に連れてこられ占いを強要される少女。

 伯爵の幼稚な解釈と私の特異な能力が邪魔して少しずつ外したこと。

 そのたびに叱責された少女の事。

 死の恐怖から自分を占ったのだろう、今を受け入れてしまっている少女。

 わずかな飲み水で全てを賄って、あの布団で寝ていた少女の事。


 背中に温かいしみが広がった。

 「よく見つけたね」

 「うん」

 少し手が震えている、抱っこされるとき鎧を外しているので時々ひきつるように上下するのも感じる。

 「対策は有るの?」

 涙声だ。

 「戦争や糾弾はだめだから」

 「そうなんだ」

 「勝っても負けても被害が大きすぎるから」

 

 たとえば今伯爵を暗殺すれば今の何倍もの連携者を出してしまう。ジーニアス領が必ず見ているから。


 「だめだよ、又、ほら」

 そう言ってほほを耳やほっぺたに擦り付けてくれる。

 「やっぱり、うふ、チュウしたら」

 ほっぺたが温かくなる、クリームさんの匂いがする。


 「やっぱり色がよくなる」

 さっき言ってたマナの色か?。

 「じゃあキスしたら?」

 「うん」


 少し窮屈な感じで上を向いて口づけをする、最初優しく徐々に狂おしいように。


 「こんな、こんなに、愛らしいなんて、もう少し、ね?」

 「あの、たちばが、むう」

 一度離れて熱い吐息を受けて又キスをする、彼女の舌が情熱をもって絡んでくる。

 胸のボタンを外し手を入れる、反応は無い、外でカニ争奪の声がする。


 張りがあって柔らかい、小さな手がもどかしい。


 お互いの息が荒くなって離し気味になってもキスを続ける。


 

 クリームさんがハンカチで拭いている、スカートを下ろし見えないように向こうを向いて、肩をすぼめているところが凄くエッチだと思ったらしゃがんでこちらを向いた。


 ハンカチで拭って、だめ、若いからすぐ、素数、素数、1.3.5.7.11.13.17・・・。

 流石にこれ以上二人で時間は駆けれない、終わった、たすかった。


 「よかった、奇麗になった」

 マナの事か、そうか、ダメだったらきついよな。

 「こっちに」

 「はぁい」

 機嫌よく胸をこちらに近づけてくれたのでボタンを止めてあげる、ちらちら見えて危ない、止めながら少し引っ張って最後に一目は忘れない。


 「マリナとテミス隊長には気付かれたみたいだ」

 「気まずいの?」

 「まさか、でも嫉妬はされるよ、そういう感じ」

 「はあ」

 「あっちの方に水出して」

 「はい」


 はずれの方に蛇口を持っていき水を出すとハンカチを洗いだした、しゃがんでる姿もエッチだ。

 ちょっとまった。パンツパンツ、お尻見えてるから、あ気を付けて、足鎧つけたから、ほら転んだ、危ないでしょ。

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