第6話 母さんと折衝する
「そろそろ時間ですね、宜しいですか?」
「ああ大丈夫だ始めてくれ」
私は少し大仰に手を翳してピーピングウインドウを双方向で出した、其の向うで母が始めて見る女性と二人で畏まって待っていた、彼女が実母だろうか思うより早く心臓が跳ねた。
「始めましてコミネ村でセイラン母さんに育てられましたオムルと言います、この度は突然の謁見願いと同時に私の・・」
ここまで震える唇を押さえて何とか声を出せたと安堵したときに向うから声が聞こえた。
「顔を見せて、もっとちゃんと此方を見て、いえ目を瞑ってみて」
言われた通り目を瞑ると嗚咽のような小さい声が漏れ聞こえてきた、そして目を開けたとき自分の頬にも厚いものが伝ったのが解った、此れが血と言う物なのだろうか?前世で感じた事の無い感覚だった、百歳児だからこその感覚だろうか。
「急ぎ自領の財務管理との折衝が叶いました、それなりの職務に就く訓練所や教育機関に入ることになりますが宜しいですか」
澄ました顔で育母が言うが普段を知っている私は雰囲気を壊すなよと思ってしまう。
「心眼とまでは言いませんが、先読みに近いスキル持ちの人に判別して貰いました」
「確認は取れますか?」
「私の妻になる人ですから、ただ今はあまりの心労で臥せってしまい宣誓は出来かねると思い裁可願いたく」
「セイランさん?」
しくじったか、母が育母の方を見ている。
「え、あ、いえ、私も驚いています、あなた言葉もろくに習ってない無いわよね?」
「あ、あのリサさんと言う人と知り合いましてさっきレクチャーを受けたんです」
「そう・・あっ書類が出来たようですね、サイラスありがとう」
「これをどうしますか?」
「はいこの通信は生物は通れないようですのでこれの上に置いて頂けますか」
バトミントンのラケットみたいな物をセリアーヌ団長に渡す、最初に手にするのは私じゃ不味いだろう。
「あの私を覚えていらしゃいますか?」
母さんが書類を平い面に載せようとしたときに思わずといった感じで呟いた自分に驚いて団長が固まってしまった。
「ええ覚えていますよコールの訓練所であなたほど食い下がってきた人はいませんもの」
やっぱり余所行きだ。
「本当ですか?感激です。今度休暇が取れたら一度手合わせをお願いしたいのですが」
「無理ですよ私も今はただのお母さんですから」
「ですが先日もバラバルと悶着あって一ダースほど捕まえたって聞きましたけど」
最後のほうは明らかな挑発の響きが混じっていたけど、団長さん?。
「本当に期待しないで下さいね」
「はいっ、必ず近いうちに!!」
母さんの目がちょっと光った。団長さんが恭しく書類を受け取った。
内容を確認して一通り納得してから顔を上げて仕様が無くという顔をして言う、母さんを前にして少し自が出てきたのかも知れない。
「この件で判別師を使ったり準領主に謁見を願ったりしないといけないので、申し上げにくいのですが」
「損料の支払いは僕がしますよ?」
「大丈夫なの?あなたが時々金とか掘ってるのは知ってたけど」
私はレコードを入れていたリュックを前に出し中から例の結晶を出した、百カラットほどのダイヤが三、四個は取れるだろう。
「これを全て寄贈しますのでたっぷりの食材と金貨千枚を頂きたいのですが」
「いや、いや、いやこれはさすがに私の独断では頂けませんよ」
まあ市場価格で言えば原石とはいえ金貨一枚10万円として六万枚にはなるだろうけど私達が売ろうとしても石英、水晶扱いしかして貰えないからね、それくらいならサインラル男爵のいるこの町の役に立てて自分にも現金が入るし何も問題は無いんだけどね。いくらでも取れるし。
「それでは其の宝石は我々サラミドル家からの寄付ということで如何でしょうか?、セイランさんこれを」
今サラサラ書き上げた目録とペンダントのような家紋入りの金のメダルを一緒に母さんに渡していたので団長にラケットを出してもらう。
こうなると断れなくなる下手したら今後の関係が悪くなる、あ、ここうちの領地だった。
震えながらセリアーヌ団長が目録の確認をして小さな悲鳴を上げた、おお金貨八万枚相当のダイヤだそうだ目録をサイン入りで出したことでこれは本物となる、仮に偽物だとしてもこの目録と番号のついたメダルを一緒にサラミドル家に出せば無条件で金貨八万枚は貰える。
上手に加工すれば倍の値段が付くはずって言ったらどんな顔するかな。
「あ、有りがたくお預かりいたします今年は作物の収穫が芳しくなく何から何までご子息のおかげで平穏に冬が越せます」
一番の発現元はサインラル男爵ですけど、いろいろ手を尽くす積もりだから、はした金なんか要らないだろうけどね。
後ろでどたばた擬似姉妹が暴れだしたので話を打ち切り名残惜しそうにしている母と育母とに感謝の礼をしてウィンドウを閉じる。
「何ですか、金貨万枚って、変ですか私が変ですか?懺悔します私が変たふごふ」
リサの口を塞ぎながらリリカが呟く
「今リサ姉が居なくなったら泣くよ」
「・・・あなたは強いじゃないですか、私はそんな大層な所に行けませんよ」
「昔、山が消えたの・・」
「へ、あの、山って樹が沢山生えてるあの山?」
団長が首を傾げて後ろを向く。
「隠れんぼしていたら友達が見つからなくてずっと見つからなくてどうやって帰ったかも覚えてなくて、ただただ泣きながらお母さんに抱きついていたらサラちゃんが帰ってきてそれでもっと泣いたの」
「て事だからリサチャン一緒に来て貰うよ」
「次の日遊び場の方を見ると其の後ろの山がなくなっていたの」
があ、私の言うこと丸無視かよ、まあ団長は?の顔しているしリサはリリカが極限まで弱ってるって感じで寄り添ってるし結果オーライか?。
あの後、準領主、所謂町長に謁見と非連帯処刑者の預かりとボストンバッグ位の大きさの袋分の私物を選ぶ権利と其の為に各屋敷に入る権利を貰える約束をして士団詰め所を出てリスト通りの買い物をしてキャンプ地に帰った。リリカの機嫌もかなり回復して此方の隙を伺がっているリサの手を確りと握っている。
夕飯まではまだ間があるし色々やる事はあるが一番は寝る場所の確保だなというわけで。
「リサさんお願いします」
「な、何をさせる積りですか?」
色々警戒してるなリリカが後ろにいるけど鎖で繋ごうかな・・これはかなりの攻撃力。リリカが睨んできた、本当にはしないよ、今のところは。
「ほらここに映る土や岩を耕してほしいんだ」
ピーピングウインドウに鉄鉱石のある場所を映してお願いする、このウィンドウは宇宙にも行くし海にも入るそして地中にも入るこの星の中心だって行けるトンでも能力、なので鉄鉱石の溜まり場なんて直ぐ見つかる。
例の呪文を唱えて直ぐに耕してくれた、思った通り岩も砂レベルまで粉々だ、私はウインドウを下に向けてスコップで掘り落とす、此方の重力に捕まったとたんにばさばさおちてくるしばらく続けて一軒家ぐらいの量に成ったので手を突っ込んで鉄を集めると四畳間ぐらいの鉄塊に成った、これを拡大鉄に変えて何倍にもしてさらに一部気泡鉄化し使用する。
「リサ姉のおかげで、ものすごく早く出来たよありがとう」
リリカをおんぶしながらため息で返された、子泣き爺だなリリカ。そういえばべそ書いた後はよく甘えてたな。
「細工は直ぐ出来るから人脈と収入源探しだな、リリカ頼むよ」
「解った、・・・・サインラルさんだね」
「そうだ、頑張ろう」
「うん」
リサの背中からずるずる降りて自分のほっぺたを叩いたけれど、おとなし目の返事、まだ本調子じゃないみたいだ。
サインラル男爵家は現在三十半ばのナサリア夫人一人で成り立っている、山の北面ばかりと幾許かの平地の乏しい、まさに荒地のみの領地を切り盛りしている弱小貴族らしい。
セリアーヌ衛士団団長によるともともとの領地は山全体とそこそこの畑がある平均より少し劣るくらいな土地を賜っていたらしい、十年程前に領地視察中に跡取り息子と夫を盗賊に殺され領地を没収されるところを領民たちの嘆願により一代のみの保留が許されたそうだがその折周りの領主達がハイエナのように群がって今の状況に成っているそうだ見かねた子爵様が横槍を入れてなんとか領地といえる範囲を確保したらしい。
一番領地を増やしたのが例のゾルダン男爵だ。ナサリア婦人は悪鬼魍魎の群れの中で最低限の資産は残すことが何とかできた。
「まずは人脈だ腕の立つ衛兵が十人は必要、ガタイのいい連中は何人いても構わない」
ピーピングウインドウを最大サイズで出し町中を飛び回らせる此処からはリリカの直感が頼りだ、なるべく建物には入らないように出来るだけ多くの人間を見て回る。
つどリリカから合図がくるのでマーカーを付け名前や今の経済状態など確認する、マーカーは位置情報管理の一部として把握するもので相手に隠す意図がない限り場所として認識できる。
以前雇っていた財務管理人や技術管理人は全員裏切って今度処刑されるらしく、とにかく人が足りない。
「まあ今度は家からの派遣にするからそれは無いだろうけど」
母に確認は取っている、領地管理をさせる人員はサラミドル家からの出向の扱いにする、月給金貨十五枚!!代わりにおかしな真似をすると全財産没収で判決プラス十五年の牢獄生活になる、一つの領地の細事を知る犯罪者を黙ってほおって置くハイエナは居ないからね。
リリカと町中のスラムレベルも含めて人間観察をしながら他方のピーピングウインドウで私は調べ物をしている。
サインラル男爵が人を雇うには金が掛かる、新たに三人の子供と一人のメイドの面倒を見るのにも金は掛かる。
ましてや以前奴隷を助けるために私財の殆どを売り払っているが其の金は返ってはこない、それどころか他の貴族からは制裁金を払えと言って来ているらしい。
奴隷を買った事実のみが記録に残るからだ、まあこちらはあのダイヤで入金済みにしてもらった、借金を造らそうとしていた貴族はがっかりだろうな。そこまで気付いてはたと考えた。
そうか在れに気付いた奴が居たんだ。
★
一通りの作業を終えて今日買ってきた服や靴などを確認した、リサもリリカも納得の笑顔が戻った、が、私は言いにくいので二人の目を盗んで有る店に行き買ってきた物に細工をしている、キャッキャうふふと着替えを始める二人を見向きもせずああだったか、こうだったか記憶を呼び覚ますことに必死になっていた私はいつの間にか後ろで凝視している二人に気付かなかった。
「そんなものいつ買ったのよ」
「胸当てですか?」
「そんなものではないこれは人類に必須な宝玉を守る重要アイテム、ブラジャーだ!!」
「「ぶらじゃー?」」
「そう此れが有ると無いとでは三十を過ぎるととんでもない差が出来てしまう」
「なにの?」
「胸の美しさに決まっている、肩から胸に掛けての筋肉を保護する物だ、直ぐ付けるのださあっ!」
「わ・かったわよ、どうやって、とああなんか解った」
「はい此処に鉄が入っていますね、オムル君の鉄は私好きよ」
フロントホックとか言う物にした。二人して此方に胸をまっすぐに向けてブラを付けてくれる、若すぎる息子が肩を怒らせるがここは我慢だ、まだ日が高いしリサに色々鎖を付けなければならない。
二人ともブラを付けてから服を着て胸のシルエットが変わったのを面白がってじゃれている、拡大鉄は白金色でよく反射するので防風版を鏡のように使ってポーズを取ったりしている、本当に賑やかな天国になったものだ。
一通りのファッションショーが終わって三人で穴風呂に入った、こんな落ち着いた時間は最後だろうゆっくり入ろうと思ったのにリサはやっぱり洗濯をしている、まあいいか。
「リリカ、今晩はリサはめはめ作戦を決行する」
「何言ってんですか聞こえてますよ」
「はっ!、何から始めましょうか」
「だから、私はここにいますよー」
「晩飯にあれをだす」
「あれ何かうれしい感じ?」
「あれとは、まさか、ジュウとする物ですか?」
「ああ、それも上等級を使おうと思う」
「ま、まさか二十ですか?」
「いやここは先日やっと成功した六十等級を出そうと思う」
「そ、それは私も頂けるのでしょうか」
「もちろんだ六十キロは有るからな」
「大佐!・涎が止まりません」
「私もだ、やっと食せる」
「あははは、何ですそれ、期待しちゃいますよ?あれ本当に涎出てる」
「う、しまった・まあどれだけ期待しても大丈夫だよリサ姉の顎が心配だよ」
「昨日のカレーより上って事は無いでしょう」
「うーん、別ジャンルだからなーでも高級感はこっちが上かな」
リリカが言うがリサはまだ半信半疑のようだ。
「ふーんじゃあ私も何か作りましょうか?」
「あっ、パン焼くの忘れた又村長家のくすねるとさすがに怒られるかな」
「うーんさすがにおかずだけじゃもたれるよ」
「だよな、しょうがない野菜ピザでも焼くか」
風呂から上がってこれだけは子ども扱いで全身拭き上げられてから服を着て作業に掛かる。
まずはオーブンを作る、なに凝った事は解らないので薪ストーブの上に囲いを付けるイメージで気泡鉄で作る、うまく出来たと思う。ピザも生地を寝かせるだろうけど知る人は居ないので文句は出ないだろう。
オーブンを暖める間に薪ストーブを作る此方は鉄板焼きの為だ、リサはさっき玉ねぎとニンニク生姜を持って行ったのでオニオンスープみたいなものかな。
生地を練ってローラーで伸ばして野菜を適当にのせ塩コショウと少しの鷹の爪を砕いて撒いてマヨネーズを掛けて焼く、メインが別にあるから油は少なく。
そしてメインだ、コミネ村の氷室から大きな塊を取り出しテーブルに載せて必要分を切り分ける、ちょっと大きいか。
シンクの上には水桶が付いていて蛇口が付いている、ウインドウ経由の水だから完全無菌になっている、その水でリリカが一生懸命食器を洗っている、食器は全て気泡鉄だから割れる心配も無い。
色々火に掛けて少し時間が出来たのでテーブルを大きくした、元々自分だけで使うつもりだったので少し小さかった、十四人になるので計算して作ったらテントからはみ出した。
まあテントは後だな、うまい具合にそれぞれ出来上がった様ださあ器に盛るぞ。ピザを取り出してリリカにビザカッターを渡す凄く緊張しているが前に成功しているから大丈夫だぞ。
ジュウジュウ音を出している分厚いステーキに醤油ベースのソースを掛ける、凄く好い匂いが辺りに漂う、醤油、味噌は本当に苦労した。
基本も何も知らないのだから、兎に角豆を蒸してあらゆる場所に蒸し豆を入れた瓶を置いたがあまりの失敗の多さに肥溜めの横に置こうとした位だ。
結局赤道直下ぐらいの無人島に有った洞窟に置いたのが成功したが壺やら豆やら買ったのがバレテ大目玉を食らった。ウィンドウで金を少し掘り出して見せると何とか許して貰えた。
母いわく知らないことを勝手にしないで、だそうだがこの辺は私には解らない。
「お肉ですか?」
リサがスープをよそいながら変な物を見たみたいな顔をしている。
「細工は流々仕上げを御覧じろ」
「さ、さい・ごろ、なに?」
日本語で言っちゃったのでリリカの目が点になっている、こう言う時は流すに限る。
念のため暖めて置いた皿にそれぞれステーキと一緒に焼いたポテトとニンジンを均等に盛り付けた、大皿のピザも不器用ながらもちゃんと切れているスープも素朴だけど食欲を誘ういい匂いがしている。
「さあそれじゃあ頂いちゃおう」
「「「頂きます」」」
しばらく食器とナイフ、フォークが当たる音と咀嚼音だけが聞こえていたが最初に沈黙を破ったのはやはりリサだった。
「ななな何ですかこれ、とーても甘くて味がエネルギーの暴力ですっ!」
「すごい♪おいし♪あまい、ジューシー♪」
おおお、地球の味と比べると味の濃厚さは足りないが其れが還って旨みのバランスを取っている、苦労したがやって良かった。
この世界に来て野菜の美味さにびっくりした、癖は強いが味は地球産の物が紙に感じられるほどだが、反面肉が味気無かった、牧畜の技術の差かと思ったがとあるニュース番組を思い出した。
この世界ではまず無理なこと、熟成である、肉を腐らせず四十日は保存しないと達成できない調理法、この二年色んな事を試して最終的にピーピングウインドウで出し入れする事で完全除菌をしてエールをしみこませた布で巻いて氷室で保存する。
これを三日、出来れば二日ごとに繰り返す、面倒くさいが私ならウィンドウ二重潜らせで寝ながらでも出来る、本当にやって良かった。
「ビザとの相性も思いのほか良かった」
「幸せですー、ほっぺたの痺れが取れません、如何しましょ、こんな経験しちゃって!」
「口を開けないほうがいいよ、美味しいが逃げるよ姉」
「うも、もんとでふね!」
おう!本当だ、生前から数えて二十年ぶりの特大ステーキだこれは明日からも頑張らねば種類も増やそうか、あ、あの子達にも振舞うの考えようかな。
三人とも食事が終わって動けないで居る、食べ過ぎた、調子に乗った、だが後悔は無い・・うぷ。
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