第16話 今日の寝床

 結局、アリアはその日、魔力を使い切るまで練習したが、傷を回復させることはできなかった。

 まあ、先生がいいし、努力家だとはいえ、そんなに簡単に回復魔法を習得されたら、何十年も修行するシスターたちが可哀想だが。

「それじゃあエレン。今日はありがとう。すまないが、明日からも頼む」

「それは構わないけど、今日はどこに泊まるつもり?」

「今日は宿にでも泊まるよ。宿がとれなければ、城壁の外で野宿でもするさ」

「野宿って、城壁の外は魔物が彷徨いているし、女の子をそんな環境には置けないわよ」

「なに言ってんだ。魔王討伐の旅じゃ、お前もリーナも野宿してたじゃないか」

 それもそうだと思い直したのか、エレンは顔を赤らめる。

「……仕方がないから、今日は私の部屋に泊めてあげるわ」

「おう、そうか。じゃあアリアを頼む」

  俺がそういうと、エレンは急に慌てだした。

「いや、貴方を泊めるって言ってるのよ」

 そう言うエレンに俺は溜め息を吐いた。

「そう言うわけには行かないだろう。教会は男子禁制なんだから」

 そんなことは長年シスターをやっているエレンには百も承知のはずだが。

「いいのよ。私が聖女権限で押し込むわ。それに、もし必要なら寝ずの番もするけど、ハヤトはそんなこと必要ないでしょ?」

 これも信頼という奴だろう。ならば、これ以上無下にはできない。

「分かった。じゃあよろしく頼むよ」

エレンが他のシスター達を説得している間に、先に部屋に入らせてもらう事になった。

「お邪魔します」

 エレンの部屋にはクローゼットや机など、必要最低限のものしか置かれていなかった。

 まあ、節制を重んじるシスターだし、エレン自体に金を使う趣味が無いというのも大きいんだろうが。

「なんだか、魔王を討伐した勇者パーティーにしては、皆さん普通の暮らしをしているんですね」

「本人たちの性格の良さがあってこそだよ」

 実際、俺はそういう奴らを選んだ。民の為、国の為、平和の為に戦える者達を。

「アリアはベッドを使え。疲れているだろう」

「しかし、部屋の主であるエレン様の許可をとってからのほうがーー」

「エレンなら「遠慮せず使え」って言うさ」

 アリアはまだ何か言いたそうだったが、相当疲れていたのだろう。ベッドで横になると、直ぐに寝息をたて始めた。

 さて、アリアをベッドで寝かせることについてはエレンは文句を言わないだろう。長い付き合いだ。それくらいは分かる。

 だが、問題は俺が何処で寝るかだ。

 正直、男女が同じ部屋で寝るだけでもあまりいい顔はしないだろう。

 だが、この部屋に通したのはエレンだ。そのくらいは信用されているということなのか。

 それに、もうあとは椅子と床しかない。流石にエレンを床に寝かせるのはまずいだろうが、椅子より床のほうが案外良く眠れるかもしれない。広いからな。

 よし、ここは俺の寝袋を床に敷いておいて、俺は椅子で寝ることにしよう。

 俺は椅子に座り、机にうつ伏せで寝る。するとすぐにコンコンと控えめなノックが響いた。

 俺は起きてドアを開ける。ノックしたのはエレンだったようだ。

「悪いな。遠慮なく使わせて貰ってるよ」

「構わないわ。こちらこそごめんなさいね、部屋を一つしか用意できなくて」

「エレンはどうする?他に部屋はあるのか?」

「まだ貴方の解呪が終わってないでしょう」

 エレンは半眼になって俺を睨む。正直、俺はもう諦めていいるし、不便していないのだが、この国最高の聖職者であるエレンにとっては解呪できない呪いがあるというのは許せないのだろう。いや、仲間想いのエレンの事だ、俺を心配してくれているのかもしれない。

「エレン。何度も言ってるが、別に俺はーー」

「私が許せないのよ。付き合ってくれるわよね?」

 そう言われては断れない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る