第45話 百合さんとぎりちょこ


如月


あれからもう一年が過ぎましたか


去年は『義理チョコ』作りましたね。

とても懐かしく感じてしまいます。


百合さんのお願いから始まった騒動



あの日をきっかけに百合さんの恋は大きく変わりました。

今では糖分過多の睦まじさをみせるふたりです。


今年は百合さん どう動くのでしょう。



お姉さん 今年は身構えております。

そろそろ来ますよね。


さあ『義理チョコ』作りましょうね。



――――



「雪ねえさま チョコレート作るのを手伝ってください」


「おねがいします」


あら 今年は水玉さんと一緒に作るのですか。


水玉さんは義理チョコではありませんよね。

本命チョコひとつだけ作りますか



「ふたつ 作らせてください」


学級委員長くんの他にも渡すのですか


「おとうさんです」


なるほど良い子ですね。きっと喜びますよ。

両方本命チョコですね。


「本命チョコはひとつだけです」


・・・お父さん泣いてしまいますよ。



§



「私もふたつおねがいします」


お父さんとひーくんの『義理チョコ』ですね。



「ぎり ちょこ で す」


声がちいさいですね。本命チョコにしましょうか


「ぎりちょこ ですっ」


いじめすぎましたでしょうか


心を込めて作りましょうね。ぎりちょこ♪



――――



今年はどんなチョコにしましょうか



「大人のあじをめざします」


大人の味ってどんなものが良いですか



「・・・・・・」


まさかの無策でございました。


無理に大人を目指すのはやめましょうか


百合さんらしいチョコレート

水玉さんらしいチョコレート


自分の好きなチョコレートにしましょうね


自分の『気持ち』を食べてもらうのですよ。



「んっ・・・・・・」


真っ赤な顔のまま固まってしまいました。

表現がR-じゅうななさいのようです。以後気を付けます。



――――



材料を見ながら考えてもらいました。


百合さんはホワイトチョコ 水玉さんはミルクチョコ

良い選択ですね。

ふたりのイメージに合っていると思いますよ。


今年はミニチョコをたくさん作ることになりました。

シリコン型を用意しましたから簡単に出来ますよ。

デコレーションで差をつけましょう。


丁寧に湯煎してちょっぴり生クリームも入れましょうか

ナッツやクランベリーも用意しましたよ。


デコレーション用品も充実しています。

デコレーションペンやカラフルなスプレー

ハート形のスプレーもありますよ。



「『ぎりちょこ』にハートはつかいません」


変なところで意地になってますね。



「百合ちゃんっ ハートも使うのっ 可愛くするのっ」


「はい・・・」


突然の水玉さんの圧力を受けて百合さん屈しました。


水玉さん 今日は妙に強い子です。



「可愛くしないと負けちゃうよ」


乙女の戦いでもあります。


特に水玉さんの場合、恋敵さん強そうですからね。

戦いに臨む心構えが違います。


お姉さん ちょっと感動しています。

あの大人しい水玉さんが勝負をかけますよ。



「負けちゃう・・・」


百合さんも少し不安に感じることがあるようです。

表情が変わりました。



「負けない『ぎりちょこ』作りたい」


『ぎりちょこ』の定義が揺らいでおりますが、気持ちは伝わってきましたよ。

お姉さん 応援します。



――――



ここからは私の想定したお菓子作りから外れました。

思考錯誤の連続です。


上に乗せるハートの数や方向

くまさんの型を使って胸の位置にハート


最後にはふたりのチョコレートをさっくりとまぜて

マーブル模様の作品まで出来上がりました。


きゃいきゃいと楽しそうにしながらも真剣な横顔


デコレーションの意味合いも考えつつ可愛く箱に並べます。

今年は箱に入れてリボンをかけますよ。


メッセージカードも用意しました。

使いますか



「「使います」」



良いお返事です。


百合さん迷わず書き始めました。



『ぎりちょこです 食べてね ゆり』


「百合ちゃんっ どうして「ぎりちょこ」って言っちゃうのっ

 去年だめだったところでしょ ゆうきを出さないといけないの」


私より先に水玉さんに怒られています。

今日の水玉さん 一味違います。



――――



悩みぬいた結果 水玉さん 攻めました。



『私のきもちです。 食べてください。 みずたま』


おぉ ラノベ系の鈍感主人公さんでないかぎり気が付きますよね。


もう告白ですよね。

しかもメッセージカードと言うお手紙です。

チョコレートは食べてしまってもずっと残る物で告白ですよ。


今年のバレンタインにかけていますね。



「伝えないまま 負けたくないから」


恋敵との雰囲気を肌で感じ取っているのでしょう。

燃える展開でございます。




私も・・・


『心をこめて作りました。 食べてください。 ゆり』



この言の葉をどのように受け止めるのか

ひーくん 見させていただきますよ。



――――



きちんとお片付けして乙女の用意はできました。


今年はラッピングされなかったチョコレートさんもお持ち帰り


残りはないのです・・・ ちぇ



「「雪ねえさま ありがとうございました」」



その笑顔が何よりのご褒美です。

こちらこそありがとうございました。


大丈夫ですよ。胸を張ってその日を迎えましょう。





その日の夜 チームでのオンライン会議

この感動を伝えたいのです。


「水玉ちゃん ついに告白かぁ」


「水玉ちゃん 本当に燃える展開だね」


「わたくしが踏み出せていない勇気を小学生のふたりが成そうとしているのです。

 尊敬致します」


「百合ちゃんも素直になったね。 ひーくんどうするかな」



経験者として助言できないのは残念ですけど



「それはお互い様でしょ」



――――



「もし水玉ちゃんが失恋しちゃったらどうする」


「縁起でもないこと言わないで」


「でも受け止めてあげるのが私たちにできる事じゃないかな」


「そうですね 当日はわたくしもそちらにお邪魔してもよろしいですか」


「最後まで見届けましょう」


きっと上手くいきますよ。笑顔で報告に来ますよ。



「でもうまく言ったら甘さでこちらがまずい状態になりそう」


「それも含めて受け止めましょうよ」


「お祝い用にシュークリーム用意しておきます」



みなさん 叶わなかった恋の夢を水玉さんの恋に重ねている見たいです。


今は願うことしか出来ません。


――――


恋する司書さん 出番ですよ。


実はですね・・・ いえ そこまで気合いを入れずとも・・・

ひとつよろしくお願い致します。


§


ひーくんのお母さま 

この時期わかっていらっしゃるとは存じますが見守ってあげてください。

今年の百合さんは少し違いますよ。


§


水玉さんのお母さまよりお電話も頂きました。

チョコレート作りのお礼と娘さんについて聞きたかったとのこと

まだお母さんにはチョコレートを渡すお相手を打ち明けていないようです。


娘さん頑張っていますから今は黙って見守ってあげてください。

私たちも当日受け止める用意をしております。


――――


恋する乙女たちは何を思ってその瞬間を待つのでしょうか


きっと水玉さんの恋敵さん 

同じように用意をしているのでしょう。

同じように熱い想いを抱いているのでしょう。


自分のことのように胸が締め付けられる夜


この試練 乗り越えたら何が待っているのですか


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る