第6話 恋する街角【方向音痴】

世の中には方向音痴と部類される方がいらっしゃいます。


話題のお店に行くまでの道筋


途中で三カ所曲がる角があるだけなのに迷うのです。

地図があっても迷うのですよ。


初めてのお店ではないのです。友人と一緒によく訪れるのです。

何度も通っていてメニューなんて暗記しているのですよ。

メニューは記憶できても、曲がる角を三カ所記憶できない人がいるのです。


「ぽんこつさんですよねぇ」と後輩からも言われる位ですからね。


でも仕方ない部分もあると思うのです。

どうして道路って直角ではない曲がり角があるのでしょうか。


間違えたかなって不安になった時点で戻ろうとしてみるのですよ。

でも振り返ると違う街並みに見えるのです。ちょっとしたホラーです。

そこの猫さん 先ほどもお会いしませんでしたでしょうか。


並行世界に入り込んでしまったに違いありません。



わっ 私ではありませんよ。

そんな人もいると友人から聞いたのです。

私ではありませんよ。



・・・と言う訳で私は当初の目的にはなかった商店街に来ております。

もう大丈夫です。無事に並行世界から戻ってまいりました。


この商店街まで到達できれば帰り道はわかりま・・・


いえ 何でもありません。





日頃より利用させていただいております。


和菓子屋さんなどこだわりのお店が多く活気のある商店街

幼少より慣れ親しんだ素敵な場所


歩行者が安心して利用できる工夫がされております。嬉しいですね。


小さなお子様連れの方も多くみられるのも頷けます。



あちらでも小さな男の子がよちよちと歩いていますよ。可愛いですね。

後ろから心配そうについてくる女の子


お姉さんでしょうか。 ちょっとだけ年上です。面倒を見たいお年頃なんですよね。



あっ 男の子 転んでしまいましたよ。大泣きです。

小さな頃はよく転びますからね。痛いというよりもびっくりして泣いているご様子


お姉さんが駆け寄ってすぐに起き上がらせます。偉いですね。

さらに頭を優しくナデナデ

でも泣き止みませんよ。どうしましょう。


後ろからお母様と思われる女性がふたり駆け寄ってきました。 ふたり・・・

様子を見ると、男の子と女の子 それぞれのお母様のようです。


お姉さんではなくて年下彼氏とのデートでしたか。 羨ましい限りです。


でも彼氏はまだ泣いたままですよ。彼女はどうするのでしょうか。



泣き止まない男の子をおもむろに引き寄せて抱きしめました。積極的でございます。

見た目は正面から拘束しているだけにしか見えませんが、抱きしめているものと思われます。



私を含め周りの方々 温かな目で見守っております。ほのぼのです。

でも泣き止んでくれないのですが・・・ どうしましょう。



ここで女の子 泣き止まない彼氏に驚きの行動に出ます。


泣いている口を彼女の唇で塞いでしまいました。

それはもう熱い熱い接吻です。その技どこで覚えたのですか。


彼も一瞬で泣き止みましたよ。


・・・泣き止みましたよ。 もういいですよ。 ・・・離れませんね。

さらに抱きしめる力が強くなっているようにも感じます。


いつのまにか彼の手も彼女を抱きしめているではないですかっ



お母様方は目の前の逢瀬に「あらあら まあまあ」と好意的なご様子

ご両家公認の仲のようです。


周りの方々もなんだか嬉しそうに見守っております。

これは大きくなって商店街に来るたびにからかわれる未来が見えますね。



両家公認の上、地元の方々からも祝福されるおふたり

外堀を完全に埋め立てて婚約者と言っても良いのではないでしょうか。


このまま周りに温かく見守られ、からかわれながらも離れることなく成長するのです。

可愛い彼に寄ってくる誘惑を蹴散らして、幼馴染みが負けないラブコメ

最高ではないですかっ


おっと恋愛妄想が暴走いたしました。



熱い抱擁から少しだけ離れて、手をつないで連行・・・仲良く歩き始めるおふたり

そのまま離しちゃだめですよ。


あのふたりにはまた会いたいですね。

どんな物語を見せてくれるのか楽しみにしていましょう。


ふたりの未来に聖女の祝福を贈ります。


きっとふたりを祝福するために私はここに導かれたのですね。

道に迷って焦った挙句、何とか知っている商店街の道に出てほっとしている訳ではないのです。


私の目的地はここにありました。



今日の商店街はなんだか優しいです。

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