第二話 いま、逆襲の刻
七章 人類の意地
「一騎当千、前へ! 射撃準備!」
端も見えないほどに長く張り巡らされた防壁。その上から警護騎士団長アステスの指示が下される。
「斉射!」
その指示と共に――。
ドウッ、
ドウッ、
ドウッ!
重く、大きな音が連鎖し、鉄の球が撃ち出される。鉄の球は弓矢をはるかに凌ぐ速度と威力をもって襲い来る
「……すごい!」
そのあまりの威力に撃った方が驚いている。
一騎当千。
『弱虫工房』[注一]の作りあげた新兵器『弱虫ボッツ』を使う兵たちはそう名付けられた。可燃性ガスの力で鉄の球を撃ち出す暴力の筒。この新兵器を使いこなすことが出来れば、ひとりで千の兵に相当する働きも出来るだろう。それぐらい、弱虫ボッツの威力はすさまじいものだった。
「すごい、すごいわ、これ! 弓矢なんか使えないあたしでさえ、こんなすごい攻撃が出来るなんて……」
「戦える! これさえあれば、あたしたちでも
「そうとも! 亭主と息子の仇、とってやるよ!」
弱虫ボッツを使う一騎当千。そのほとんどが女性だった。男たちは
もとより、夫や息子を
しかし、悲しいかな、女性は女性。そのほとんどは剣も槍も使ったことはない。付け焼き刃で訓練したところで
そこへ、突如として現れたのが弱虫工房の新兵器、弱虫ボッツ。
剣や槍のように振りまわす必要もない。弓のように弓弦を引く必要もない。ただ、肩に担いで発射しさえすればいい。それだけで、弓よりもさらに遠くから
もちろん、威力か高い分、鉄球を撃ち出すときの反動も大きいわけだが、それは地面に丈夫な柱を立てて、そこに背を押しつけて撃つことで補える。
戦う手段を手に入れた女たちは恨みと憎しみを糧に
「すごいよ、これ! あんたの友だちはすごいものを発明してくれたねっ!」
一騎当千たちから口々にそう言われ――。
弱虫ボッツの販売員にして指導教官であるジャイボスはふんぞり返った。
「もちろんさ! おれさまの心の友が何年もかけて発明した傑作だからな。
ジャイボスはそう答えながら、ひときわ大きな弱虫ボッツを担いで撃ちまくっている。ジャイボスはまだ一五、六の少年だが、その体格はすでにおとなを越えるほど。力も強く、女たちの三倍もあるような弱虫ボッツを扱える。
「ガスが切れたぞっ! スタム、次!」
「へーいっ!」
ジャイボスの舎弟のスタムが新しい弱虫ボッツを抱えて走ってくる。
「食らえっ! ジャイボスさま専用超大型弱虫ボッツ、名付けて『ガキ大将マーチ』! お前らなんぞ目じゃねえ!」
その叫びと共に――。
肩に担いだ巨大な筒から人の頭ほどもある巨大な鉄球が次々と撃ち出される。通常の弱虫ボッツが撃ち出す鉄球の大きさが拳程度であることを考えるととてつもない大きさだと言える。当然、撃ったときの反動だって桁違いに大きいわけだが、それをものともせずに撃ちまくるジャイボスの体力は特筆に値した。
次々と撃ち出される巨大な鉄球は迫り来る
「やるねえ! あんた、その歳でもう立派な勇者さまだよ」
「もちろんさ! おれさまは天下無敵の男だからな」
「頼もしいねえ。けど、『弱虫ボッツ』って名前はなんとかならなかったのかい?」
「弱虫ボッツでいいんだ。 こいつを作ったおれさまの心の友は村一番の弱虫だからな。弱虫だからこそ、そんな自分でも戦えるようにって考え抜いてこいつを作った。『弱虫ボッツ』ってのは、その誇りを込めた名前なんだ」
「なるほどねえ。その弱虫くんに惚れちまいそうだよ」
「さあ、もう一踏ん張りだ! 勝利の宴ではおれさまが自慢の歌をたっぷり聞かせてやるからな! そいつを楽しみにがんばれ!」
「それはやめて!」
そう叫ぶ一騎当千たちの悲鳴の大きさは――。
激戦の最中だというのに、やけに楽しそうなその雰囲気にアステスの檄が飛ぶ。
「そこ! 無駄口を叩くな。集中しろ、戦いはまだつづいているんだぞ!」
「わかってらあっ!
「図に乗るなっ! 一騎当千、いったん、退け! ガスを充填して次に備えよ!」
一度に充填できるガスの量で発射出る鉄球は一〇発。弱虫ボッツは、ガスが切れてしまえば振りまわして戦うことも出来ない重いだけの筒に過ぎない。そして、
そうなってしまえばしょせん、剣も槍も使えない非力な女の群れ。戦いになどなるわけもなく、一方的な殺戮が繰り広げられるだけ。そうなる前に交代させ、被害を防ぐのが、警護騎士団長たるアステスの責任というものだった。
「重装歩兵、展開! 一騎当千が待避するまでの時間を稼げ!」
門からワラワラと分厚い鎧と大きな盾で身を固めた歩兵たちが現れ、
「よしっ! 全軍待避!」
一騎当千が防壁のなかに待避したのを確認してからアステスが指示をくだす。門から出たときと同様、歩兵たちはワラワラと門のなかへと戻っていく。もちろん、黙って見逃す
壁の一部が突然、伸びた。まるで、ハエを絡め取ろうとするカメレオンの舌のように。
すさまじい勢いで伸びた石の柱が
弱虫工房製の弱虫ボッツ。そして、
[注一] 『弱虫工房』に関しては『自分は戦士じゃないけれど』第五話『弱虫工房』を参照のこと。
[注二] ゴーレムマスターに関しては『自分は戦士じゃないけれど』第三話『ゴーレムが人型って誰が決めた?』を参照のこと。
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