勇者、呪われました!~千葬勇者の千年紀行~
奏
第1話 プロローグ
「これでッ……終わりだああぁ――ッ!」
俺は腹の底から叫んだ声とともに……すべての想いを載せた剣を突き出す。
――ここは魔王城、その謁見の間。磨き上げられて黒く艶めく大理石をこれでもかと使用した細長く大きな部屋だ。
巨大な金属製の扉には翼在る獅子が向かい合って彫り込まれ、壁沿いには窓がない代わりに銀の燭台がずらりと並ぶ。
その燭台に立てられた蝋燭は蒼白い魔法の灯火を揺らめかせ、黒い部屋をより冷たく魅せていた。
真っ赤なマントを羽織り金の双眸をギラギラと光らせ、頭の左右に黒い角を生やした『魔王』はその謁見の間で俺たち『勇者一行』を出迎え、数多の魔法を繰り出し苦しめた。
けれど『魔王』は、いま、まさにこの瞬間――勇者である俺の剣によって打ち倒されようとしている。
「グアアァァ――ッ」
断末魔なんてこんなものか……と思うような安っぽい雑音を発し、胸を貫かれた魔王は歯を食い縛りながら俺に腕を伸ばした。
腰まであろうかという長い銀の髪が肩からすべり落ち、零れる血に紅く染まる。
「千の魔物を葬送した勇者よ――喜べ、屠った魂の分だけ呪いをくれて――ぐっ、がふ……」
まだなにか言いかけていたようにも思うけれど、聞く必要はない。
俺は剣の柄をしっかりと握り締め、切っ先を魔王の腹深くに埋める。
数多の魔物を生み出し、人々を混沌の時代に陥れた奴の言葉なんて聞いてやる義理もない。
群れとなった魔物に蹂躙され、壊滅した都市は数知れず。
住む場所をなくしただけでなく、親しい人を――愛する人を失った者も多い。
その想いを背負ってここまで来た以上、俺は情けをかけるつもりなんてなかった。
魔王が言い終わらぬうちに剣を引き抜くと、その体は磨き上げられた石床に倒れ伏し……指先から塵芥ちりあくたとなって溶け消えていく。
「はは、ははは……! 勇者よ、悔いるがいい――」
捨て台詞だまで安っぽいな、と思う。――感動なんて微塵も感じない。
代わりに込み上げるのは……やってやったんだ、これで終わったんだという安堵。
俺たち勇者一行は長いようで短い二年の旅路の果て、ようやくすべてを終えて魔王城をあとにした――。
――だけど。
俺がことの重大さに気付いたのは――それから十年もあとだった。
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