23時に会いましょう

藍沢慧

第1章 集められた独りぼっち

 イヤホンから流れる音楽に思わず鼻歌が漏れる。

 なんてったって前から狙っていた貴重な宝石を盗めたのだ。最高に気分が良くて鼻歌だって漏れてしまうだろう。

 浮足立った私の頬を弾が掠める。こんなにも気分が良い私の邪魔をするのは誰だと振り返れば拳銃を手に持つ30くらいの男。どこかで見た顔だがすっかり忘れてしまった。

組織うちから盗った物を返してもらおうか」

「何の話?てかオッサン誰」

「すっとぼけんな!!」

 突然の怒鳴り声に思わずうるさぁ……と顔を顰める。どこかで見たと思ったが宝石を盗った組織にいた奴らしい。あれだけ時間をかけて資料を集めたが用済みになった瞬間抜けていた。

 そもそも幹部でも何でもなかったしなぁ、と舐めるように男を見る。痺れを切らしたように唇がわなわなと震えてしまっているため仕方なく口を開くことにした。

「そもそもこの宝石、元はアンタんとこのじゃないでしょ?誰が持ってたって盗品には変わりないから」

 そう言って鼻で笑うと引き金にかけられた指が引かれる。やべ、と走り出すと後ろから容赦なく弾が飛んでくる。

 けれど残念ながらこの辺一帯は私の縄張りでもある。右に左、上に下にと知り尽くした裏路地を走り回る。

「クソ猫……!!」

「ひどいなぁ、かわいー猫ちゃんなのに」

 遠くで聞こえた声にククッと笑いながら男を眺める。お望みの宝石越しに。


 適当に放たれた弾は身体のいたるところを掠ってはいたものの、大した傷ではない。だから私ごときに大事な大事な宝石を持って行かれるのだろう、馬鹿な奴。

 拠点に入る前に依頼が来ていないかの確認でポストを覗いた私は取り出した一通の手紙を確認して目を細めた。

藍猫ランマオ様』

 丸っこい綺麗な字で書かれた封筒は普段依頼を受けるときのものとは全然違う綺麗なものだ。おまけに封にはシーリングスタンプが使われていた。肉球の模様が浮き上がる藍色のシーリングスタンプが。

「なにこれ」

 思わず声に出てしまった疑問を抱えたまま拠点の扉を開く。

 椅子に座る間もなく封を切った私は便箋を読んで数分前のことなどなかったかのように同じことを呟いてしまった。

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