5.Arcadiaと転生オリ主
①Arcadiaの転生オリ主
個人サイトの時代にも、原作毎に二次創作をまとめる中規模の投稿サイト・リンクサイト・ランキングサイト・検索サイトはありました。が、やはり原作を問わず作品を集約する場として2008-10年のArcadiaは頭一つ抜けています。
作品を集めると同時にArcadiaは書き手・読み手を集めました。汎作品的な二次創作のコミュニティが創出され、オーバーグラウンド化したのです。
Arcadia投稿掲示板で伸びていた転生オリ主二次創作を見ていきましょう。
検索ワードは「現実→」「転生」「憑依」等。現在のPV10万以上を最低基準とし、PVが現在100万を超えているものには「★」を付けました(※1)。
・『微妙に憂鬱な日々(現実→ハンター)』(2006年5月-削除済み、No.2208、PV38万、感想280(2011年6月時点))
・『雨迷子(現実→HUNTER×HUNTER)』(2006年10月-2007年4月、No.2117、PV19万、感想170)
・『Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)【完結】』(2007年9月-2008年8月、No.2186、PV52万、感想50)
・『お医者さまの転生日記(現実→HUNTER×HUNTER)』(2007年10月-、No.2207、PV20万、感想30)
『HUNTER×HUNTER』(1998年-)の二次創作。
『微妙に憂鬱な日々』『雨迷子』では複数の転生者が登場しています。これは『ハンタ』二次(特にバトルメインのもの)によく見られる傾向です。オリジナル念能力を持った転生者同士のバトルを書きたくなる気持ちはよく分かります。
他原作と比べると『ハンタ』二次は女主人公/TS主人公率がかなり高いです。夢小説からアイディアを輸入したり作者の流入がわずかにあったのではないか、という疑いを持てます(この話題は次回も取り上げます)。
★『銀凡伝』(2006年10月-、No.2215、PV150万、感想1300)
ウェブ以前から二次創作の蓄積がある『銀河英雄伝説』(1982-89年)で転生オリ主。この時期に投稿を開始した作品としてはかなりPVを伸ばしています。
次はArcadiaが全盛を迎えつつある2008年頃の転生オリ主二次。
★『NARUTO うちはルイ暴走忍法帖』(2008年5月-、No.3089、PV120万、感想700)
・『麻帆良の戦鬼 (ネギま 現実→憑依)』(2008年6月-、No.3299、PV32万、感想250)
★『コレはフィクションです。実際の(ry (リリカルなのは+オリ他、再構成、ネタ)』(2008年7月-、No.3302、PV130万、感想650)
★『リリカル in wonder 無印五話 挿絵追加』(2008年8月-09年3月、No.3690、PV120万、感想1700)
・『デ・ストレンジャー 異邦人の魔法先生 (オリ主 現実→)』(2008年8月-、No.3735、PV40万、感想120)
・『ゼロの使い魔と三ツ星の狩人(オリジナル)』(2008年9月-、No.4075、PV31万、感想190)
一番上は『NARUTO -ナルト-』(1999-2014年)二次。他は『魔法先生ネギま!』『魔法少女リリカルなのは』『ゼロの使い魔』と、2008-12年の二次創作シーンにおける「三大原作」が揃っています。
『ネギま よくある現実→転生系 テストってみた』(2008年8月)というタイトルの作品が登場するように、2008年8月頃には「転生」が「よくある」状況だったと言えそうです。
転生オリ主ではありませんが、憑依ものとして影響が大きかった作品を並べておきます。
★『これはひどいオルタネイティヴ(ぶち壊し注意)』(2008年8月-、No.3960、PV350万、感想2300)
★『然もないと』(2008年8月-、No.3907、PV123万、感想1100)(※2)
★『腕白関白』(2008年10月-11月、No.4384、PV200万、感想1500)
上から順に、『マヴラヴ オルタナティヴ』(2006年)二次、『サモンナイト』(2000年-)二次、歴史改変一次創作。
『マヴラヴ』二次の流行った時期はちょうどArcadia全盛期と重なっていて、次のにじファン全盛期(2010-12年)には持ち越されませんでした。
『サモンナイト』二次はArcadia全盛期でも25件程度とぶっちゃけ多くないです。ただ、Arcadia以前から夢小説の蓄積があったことに注意しておきましょう。
『腕白関白』は『提督たちの憂鬱』に引き続く歴史改変憑依ものです。この流れはなろうの歴史もの・異世界内政ものに影響しています(異世界内政に関しては『ゼロ魔』二次「貴族転生」を経由します)。
第一話で名を挙げた『紐糸日記』のデータは次の通り。
★『紐糸日記(現実→リリなの) A’s編・完』(2008年11月-2009年7月、No.4820、PV250万、感想2600)
★『紐糸日記2 空白期編・完』(2009年7月-2010年9月、No.10409、PV320万、感想3500)
★『紐糸日記 StS』(2011年1月-、No.25664、PV130万、感想1300)
当時SS投稿サイトの王だったArcadiaの王だった『なのは』二次の王なので、要するに王です(冗談です、念のため)。
「オリキャラ憑依」などと呼ばれていたものを「転生オリ主」(作中では『コードギアス』主人公「ルルーシュ」のもじりで「オリーシュ」という言葉をよく使っています)で固定したのも『紐糸日記』だとか。
これを以って「転生オリ主」の完成としましょう。
以降、『絶対の運命(オリジナル転生 ドラゴン→人間)』(2008年12月-)のように一次創作にも「転生」が使われ始めます。
2009年3月頃には『【短編】転生トラック (ネタ注意)』という作品が生まれるほど「転生」メタが回っていたようです。
以上で転生オリ主に関する歴史語りはいったん終了となります。
次回は1998年日本、あるいは1970年代アメリカまで遡り、夢小説の系譜について考えましょう。
②転生オリ主の魅力
これまでジャンルが形成される経緯など外的な分析が比較的多かったため、ここで内的な分析を試みたいと思います。
テーマはずばり、「転生オリ主はなぜ2008年以来人々を惹きつけ続けているのか? どこに魅力がある/あったのか?」です。
第一に、「死のあとに生が来る」という生死の転倒のおかしさがあると思います。
関連して、異世界転生ものの魅力について「浄土信仰」の観点から語られることがしばしばあります(※3)。
ただし、これらを転生オリ主の場合にそのまま当てはめることはできません。
まず、2008-12年の転生オリ主は遊びの感覚に強く駆動されています。そのため現実逃避ではあっても、厭世観が前面に押し出されることはありません。特定原作世界は楽園かもしれませんが、死後の楽園としては具体的すぎます。ユートピアの原義が「どこにもない場所」であるように。
12年以降も、前世が「引きこもりニート」とか「アラフォーワーキングプア」みたいな世知辛いなろうテンプレは(特に後者は)二次創作だと見かけません。
生死の転倒のおかしさは、「転移オリ主」よりも「転生オリ主」が優位になった理由の一つだと思います。が、「神様転生」等のミームが整備される08年末までは死なない場合も半分くらいあったことに注意しましょう。例えば『腕白関白』(08年10-11月)は「朝起きたら俺は」パターンです。
そして10年代中盤からは転生周りのシーケンスが省略され、各種ミームも排除され、死がきっかけなのか分からない場合が多くなります(なろうも同様)。死のおかしさは消費され尽くし、転生の魔力的な部分は消失しました。
それでも二次創作のメジャージャンルとして今日まで生き残っています。
第二に、小学生でも書けるくらい書きやすいことです。参入障壁の低さは大事。
第三に、欲望を思う存分ぶつけられることです。あるいは欲望を受け入れ続ける拡張性=ゲーム性があること。
「能力だけクロス」で好きな作品からチート能力を引っ張ってきて、原作知識も活かしながら活躍し、ヒロインにチヤホヤされる理想の自分を造形できます。
過度に理想化していない「オタクの自分」を転生者仲間/ヒロインに承認させることもできます。
最近の傾向で言えば、TS百合や原作キャラ曇らせもできます(第七話参照)。
作家性が強い人(一次創作より二次創作の方がPV数が伸びやすいので二次創作をやっているタイプの人)は、テンプレの調理法やメタの張り方でスキルを見せつけることができます。
欲望の在り方というか若干まとめになるのですが、加熱した二次創作シーンでは「二次創作シーンへの参加」自体が目的として大きくなります。そしてコミュニケーション手段として転生オリ主は非常に有用です。
第一話で原作未読系二次創作の出現を「二次創作風テキストの自己目的化」と結びつけましたが、むしろ「二次創作シーンへの参加」と結びつける方が自然でしょう。
本当に二次創作風テキストを書きたい人は架空ゲーム転生ものを書いてそうです。
ともかく、「欲望の受け皿」「スターターキット」としての転生オリ主の優秀さは2008年以来ずっと変わっていません。時代と欲望の変化に対応できる懐の深さがあります。
第四に、「こんな安直なものがジャンルとして定着している」という状況の異様さを楽しんでいたように思います。これは筆者が転生オリ主初見時に覚えた興奮のおぼろげな記憶です。
転生オリ主というメタ的存在は、メタ的に面白い。
筆者は転生オリ主初見時から、あるいは原作未読系二次創作初見時から、「二次創作/パロディが映し出す、作品を書くこと/読むことの現代的意味」というテーマをずっと意識している気がします。
そして、二次創作に関わる人は多かれ少なかれ皆そうなんじゃないか、と勝手に思っています。
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※1:作品の選択はやや恣意的です。重要な作品が検索に引っかからなかったり、削除されている可能性もあります。
「No.2117」等の作品通し番号は投稿日時を推測する材料として付記しました。しかし旧URLから今のURLに変わるとき(2007年末)に番号を付け直しているので、それ以前の作品に対しては無意味です。
※2:『然もないと』は『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』(2011-12年にArcadiaで連載、削除後2013年出版)の作者による作品です。
※3:異世界転生と浄土信仰については例えば次を参照。
『異世界転生系コンテンツと21世紀の「浄土信仰」』
https://p-shirokuma.hatenadiary.com/entry/20160212/1455256800
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