第9話
「……夢か」
そう呟きながら体を起こすと、部屋の中を見渡してみた。見慣れた光景が広がっているだけで特に変わった様子はないようだ。そのことにホッとしながら時計を見るとまだ起きる時間までは余裕があったので二度寝をしようと布団に潜り込んだが、どうしても先程の夢のことが気になってしまった。
(あの女の人って誰だったんだろう?)
そんなことを考えながらしばらく考え込んでいたが、結局答えは出なかった。なので、これ以上考えても無駄だと思い考えるのをやめると眠りについたのだった……
その日を境に俺の生活は大きく変化した。まず最初にしたことといえば部屋の模様替えである。今まで使っていた家具を全て処分し新しいものを買い揃えたのでとても広くなった気がする。
次にしたのは身だしなみを整えることだった。髪は短く切りそろえて服装にも気をつけるようにした。おかげで周りからは以前よりも格好良くなったと言われるようになった。
その他にも色々と試してみたが、どれも効果は絶大だったようで皆から褒められるようになったので嬉しかった。
しかし、一番の変化はやはりアレだろう。
ある日のこと、俺はいつものように街を歩いていると、前方を歩く女性に目が釘付けになった。なぜなら、その女性は以前夢の中で出会った女性と瓜二つだったからだ。
最初は他人の空似だと思ったが、あまりにも似ているのでもしかしたら同一人物かもしれないと思った。
そこで思い切って声をかけてみたところ、なんと本人だったのだ。俺は驚きのあまり言葉を失っていたが、彼女は微笑んでくれた。それだけで幸せな気分になれたのだが、せっかく会えたのだから何か話したいと思って話題を探していると、あることを思い出したので聞いてみることにした。
「そういえば、この前絵本を読んだ時に出てきたキャラクターに似ているような気がするんですけど気のせいですか?」
すると、彼女は一瞬驚いた表情を浮かべた後で苦笑いをしながら答えた。
『ええ、そうよ』
それを聞いて嬉しくなった。やはりあれは現実のことだったのだと実感できたからだ。それからしばらく話をしているうちに意気投合したので連絡先を交換することになったのだが、その際に彼女の方から提案があった。
『もしよろしければ、今度一緒に出かけませんか?』
もちろん断る理由などないので快諾した。こうして、俺達は恋人同士となったのだった……
それから数日後、待ち合わせ場所で待っていると彼女がやってきた。その姿は前に会った時と同じ姿だったので思わず見惚れてしまったが、気を取り直して挨拶をすることにした。
「おはようございます」
『おはよう』
お互いに挨拶を交わすと歩き出した。今日はデートをする予定なのだがどこに行くかはまだ決めていないので歩きながら決めることにしようということになっていたのだ。
とりあえず街を散策することにしたのだが、途中で気になる店を発見したので立ち寄ってみることにした。
店内に入ると様々な商品が置かれていたので見ているだけで楽しい気分になってくる。そんな中で一際目を引いたものがあった。それは大きな鏡だった。しかも、全身が映るくらいの大きさがあるもので、値段も高かったのだがそれだけの価値はあるように思えた。
早速購入することに決めた俺は店員さんを呼ぶと、事情を説明して運んでもらうことにした。
それからしばらくして支払いを済ませると店の外に出たのだが、その直後に大きな声が聞こえてきた。何事かと思って振り返ると、そこには数人の男達がいた。どうやら喧嘩をしているようで今にも殴り合いが始まりそうな雰囲気だったので慌てて止めに入った。
「おい! 何やってんだよ!」
そう言って間に割って入ると相手の顔を確認した後で言った。
「あれ? お前確か同じクラスにいたよな?」
すると、向こうも同じようにこちらの顔を見た後で思い出したような表情を浮かべながら言った。
「ああ、お前もいたんだな」
「まあな、それよりこんなところで何してるんだ?」
俺がそう尋ねると相手は笑いながら答えてくれた。
「ちょっと遊んでただけだよ」
「そうなのか? それならいいんだけどさ……」
そこまで言いかけてあることに気づいた俺は咄嗟に謝罪の言葉を口にしていた。
「悪かったな、邪魔しちゃって」
「別にいいよ、そろそろ帰ろうと思ってたところだったからさ」
そう言うと彼は仲間達を引き連れて去って行った。それを見送った後で後ろを振り返るとそこには女性の姿があった。おそらく騒ぎを聞きつけて駆けつけてきたのだろうと思っていると、彼女は微笑みながら話しかけてきた。
『ありがとう、助けてくれて』
お礼を言われて照れているとさらに続けて言ってきた。
『よかったらお礼がしたいんだけどいいかな?』
そう言われて断るのも悪いと思ったので承諾した。それから少し歩いて路地裏までやってくると、彼女は立ち止まって振り返った。そして、おもむろに服を脱ぎ始めたかと思うと下着だけの姿になってこちらを見つめてきた。突然のことに戸惑っていると、ゆっくりと近づいてきたので後ずさりしようとしたところで腕を掴まれた。そのまま引き寄せられると抱きしめられたあとキスをされた。初めてのキスにドキドキしていると今度は舌が口の中に入ってきた。それを受け入れているうちに頭がボーッとしてきたので立っているのも辛くなりその場に座り込んでしまった。そんな俺を見下ろすようにして立っていた彼女は笑みを浮かべながら言った。
「大丈夫?」
その問いかけに頷くと、今度はスカートの中に手を入れてパンツを脱いでいくのが見えた。その様子を黙って見つめているとやがて足から抜いたので驚いて声を上げた。すると、彼女はクスクスと笑ったあとでこう聞いてきた。
『見たい?』
その言葉に迷わず首を縦に振った。それを見た彼女は満足そうに微笑むと再び近づいて来た。そして、そのまましゃがみ込むと今度は直接触れてきた。その瞬間、電流のような刺激が全身を駆け巡っていった。あまりの気持ちよさに声を上げてしまうが、それでもなお彼女は動きを止めなかった。それどころか激しくなっていく一方だ。次第に限界が近づいてきたので我慢できなくなった俺はついに果ててしまった。すると、彼女は満足げな表情を浮かべると立ち上がって言った。
「また会いましょうね」
そう言って立ち去る後ろ姿を見つめながら、俺はしばらくの間その場から動けずにいた……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます