お買い物

 リコさんがくれたヘアピンを着けるようになってからとても気持ちが落ち着くようになった。


 接客中も緊張せず話せる。


「え?あれで緊張していたの?全然そうみえなかったわ?ちゃんと接客できていてよかったわよ」


 紬さんに褒められた。 


 ただ、来店するお客様からかわいいと言われ流石に恥ずかしくなってしまう。


 そういえばこういうアクセサリーはどこで売っているんだろう?


「リコさんはそのアクセサリー屋さんなのよ。彼が作っているの」


 てっきりあの巨体なので力仕事かと思っていたけどまさかアクセサリー作りだったとは。


 あの大きな手でどうやって作っているのか気になるところ。


 いつか作業している様子を見に行きたい。


 アクセサリーは着けないけど可愛いものや綺麗なものは見ているだけでいい気持ちになる。


 生活が落ち着いてきたら小物とか部屋に飾ってみたい。


 日本に居たときはそんなこと考える余裕すらなかった。


 学校と家の往復だけの生活だった。


 部活もさせてもらえないし寄り道も駄目だった。


 やれることは図書館で借りた本を読むこととスマホをかまうくらい。


 まぁ今の時代スマホさえあれば十分に過ごすことはできるんだけど。


 あれ?そういえばスマホのお金って払ったことなかったような……。

 

 Wi-Fiも自由に使わさせてくれていたし。


 私の親からお金を貰っていたのかな……?


 今となっては確認することはできない。


「紬さん。小物とか売っている雑貨屋さんってありますか?」


「南の市場の裏通りにあるわよ。お店の買い物もあるから一緒に行く?」


「私もご一緒いたしますわ!」


 学校から帰ってきたミキ様が会話に参加してきた。


「おかえり。ミキちゃん。それならミホちゃんと一緒に行ってもらえるかしら?」


「はい。もちろんですわ。お姉様とデート!あら?ミホちゃん……と?」


「ええ。ミキちゃんとミホちゃんで行ってきてもらえるかしら?これお店のお買い物リストだから。お願いしますね。私はお店のことやっているから」


「そ、そんなぁお姉様ー」


 崩れ落ちるミキ様。しかしすぐ立ち直って


「仕方ありませんわ!ミホ。いくわよ」


「あ、はい。ミキ様」


「そろそろミキ様っての止めてもらえるかしら?ミキでいいわ」


「え、でも王女様ですし」


「王女ではあるけど、あなたとは友達でいたいの。友達に様付けはおかしいでしょ」


「トモダチ……トモダチですか」


「なによイヤなの?」


「いえいえ!だって私は一般人だし身分の差が……」


「そんなのは関係ないわ。私が友達になりたいと言っているの。あなたはどうなの?」


「ええと……ふつつかものですがよろしくお願いします」


「なに。あなたは私に嫁ぐつもりなの?」


「あ、いえ、そういうつもりじゃ」


「私に嫁ぐのイヤなの?」


「えええ……いや、イヤというか会って間もないですし、それに私たちは女同士だし……」


「ごめんごめん。冗談よ。本気にしないの。さぁ買い物へ行きましょう」


 とミキ様は私の手を握り進みだした。


「え、あ、え、手、手が。ミキ様」


「……」


「あのミキ様?」


「……」


 何も言わずどんどん進む。


「ミキちゃん?」


「……」


「ミキ?」


「なに?」


「あ、あの手が」


「ん?つなぐものイヤ?」


「イヤ……じゃないです」


「ならいいじゃない」


 なんなのだろう。これは。本当に嫁がされそうだ。


 手を繋いだまま市場街までやってきた。


「さて、まずはお店の買い物ね」


「ええと、必要なものは。石鹸。だけ。あとは発注ですね」


「わかったわ。ささっと済ませましょう。お店は……ここね」


 市場街の中でもひときわ大きい建物に入る。


 入ってすぐのところには食品が並んている。


 野菜、果物、お肉にお魚。


 鍋や包丁などの調理器具。


 一般的な服もあるし鎧などの装備品もある。


「おや?ミキ様ではありませんか」


 そう言って声をかけてきたのはお店の方。


「こんにちは。今日はちょっとお仕事できたのよ」


「左様でございましたか。そうであればこちらからお伺いいたしましたのに。わざわざありがとうございます。してどのようなご要件だったでしょうか?」


 ミキはささっと注文をすませる。


 手際の良さにびっくりした。例えるなら某コーヒーショップでオーダーをスラスラ注文するあの感じ。


「それじゃあよろしくお願いしますわね。石鹸はすぐ必要なので持っていきますわ」


「はい。ありがとうございました」


「……。」


「さてと。ん?ミホ?どうしたの?」


「いやぁ……なんか……すごいですね。あんな風にスラスラとお話が進めれるなんて」


「当たり前よ。私は王女をやっているのよ?これくらいできないと務まらないわ」


「立場だとしても尊敬しますよ」


「またまた。尊敬だなんて。大げさよ」


「いえ!本当にすごいです!王女様としてではなく一人の女の人として尊敬です!」


 勢い余って手をぎゅっと握ってしまった。


「ん……ありがとう……」


「……」


「……か、買い物いくわよ。ミホが見たいものあるのでしょう?」


「あ、は、はい」


このあと色々とお店を回ったはずだけどなにも覚えていない……。




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