第48話 放課後の図書室はいつもより賑やかです
優子を家まで送った俺は、ベッドの上で考えていた。まだ彼女の匂いが一杯残っている。
ここで野乃花と優子にしてしまった。いくら向こうからして欲しいと言われたからって。
これで俺は高校に入ってから一年と少してしか経っていないのに心菜、水島さん里奈でいいか、野乃花、優子と関係を持ってしまった。
野乃花も優子も嫌いじゃないけど、こちらからしたいと思う程好きでも無い。あくまで友達だ。
心菜は浮気されて別れた。里奈は彼氏がいる上での遊びなんだろう。この二人はどうでもいい。
でも野乃花は、俺の恋人になりたがっている。
そして優子は…
彼女は言った。俺が好きだから一番目は俺に上げたいと。そして体の関係が有っても俺より野乃花の友情が大事だから野乃花を大切にしてくれと。
ならば、俺は野乃花と付き合えばいいのか。彼女は可愛い。頭も良い。入ってはいけない線もわきまえている。
でも俺の心は彼女に向いていない。友達としてなら最高だと思う。でもそれは優子に対しても同じ。
俺が野乃花を好きになって行けばいいのかな?
でもどうやって。
日曜日は午前中、掃除と買い物を済ませ、午後から稽古に行った。稽古に集中すれば頭が切り替えられると思ったけど出来なかった。
夕食を食べている時もお風呂に入っている時もベッドの上で横になっている時も今更ながら、自分のしてしまった行動に頭の中では、しなければ良かった愚か者という後悔の言葉消えなかった。
明日からあの二人にどう接すればいいんだろう。野乃花と優子を区別なんて出来ない。
いくら考えての答えが出てこない。向こうから言って来ない限り、今までのままでいるのが一番良さそうだ。寄って来たら応じればいい。
翌月曜日、俺はいつもの様に部屋を出て駅のホームに行くと野乃花が待っていた。
「おはよう祐樹」
そうか時間教えていたんだ。
「おはよ野乃花」
「ふふっ、嬉しいな野乃花って呼んでくれるんだ」
「二人だけの時の約束だから」
「うん」
私、水島里奈。野乃花から工藤君の登校時間と乗る車両を聞いているから、あの子達と違う一番後ろの車両に乗っていたら、野乃花が先にホームにいた。
そして二人が会った時、名前呼びをして手を繋いでいる。間違いない、あの二人はしたんだ。だから工藤君は野乃花に簡単に時間を教えた。
これは予想外だわ。いずれはと思っていたけどこんなに早くするなんて。野乃花変ったわ。不味いな。弘樹といつまでも遊んでいる訳には行かないかもしれない。
学校のある駅で改札を出ると優子が待っていた。私も偶々同じ電車という顔をして
「おはよ、工藤君、里奈」
えっ、後ろを振り返ると水島さんがいた。
「えっ、おはよ水島さん」
「おはよ、工藤君」
「あれ、里奈、学級委員の仕事は?」
「今日無かっただけ。明日はあるわ」
「そうか。あっ、工藤君おはよ」
「おはよ緑川さん」
ちょっとだけ抵抗が有ったけど、優子(緑川さん)に挨拶が言えた。これでいい。彼女も平然した対応をしてくれている。
「工藤君、今日図書室の受付担当でしょ。私の部活ほとんど同じ時間に終わるから下駄箱で待っていてくれないかな?」
なんと野乃花積極的な。工藤君なんて答えるんだろう。
「いいよ門倉さん」
「良かったね、野乃花」
「うん」
下を向いて恥じらいながら微笑んでいる。
えっ。優子どういうつもり。まさか野乃花の応援に回るつもりじゃ。不味い。野乃花に優子が味方に付いたら私は厳しい。
「そうかあ、じゃあ私は工藤君が受付している間、図書室に居ても良いかな?」
「水島さん、図書室は全員が利用できるところだから、俺に聞く事はないよ」
ちょっとアピールのつもりだったけど、全く反応なしか。
里奈の奴、今のなに?私が我慢して野乃花を応援しているのに。でも新垣さんの牽制にはなるかも。
下駄箱で履き替えて教室に入ると
「おっ、おはよう工藤、緑川さん、門倉さん、水島さん。美女三人連れて登校とは羨ましいな」
「駅で会っただけだ」
「三人さん、そうなの?」
「「「おはよ小見川君」」」
無視された。
女の子三人が自分の席に行くと
「おはよ工藤君」
「おはよ新垣さん」
あの三人がいる中で声なんて掛けられない。この様子だと朝、改札に待っているのは出来なそう。今日の図書室受付は工藤君。何とかしないと。
昼休みになると
「小見川、学食に行こうぜ」
「おう」
あっ、野乃花が近付いて来た。
「ねえ、工藤君、私も一緒に良いかな?」
「小見川も一緒なら」
「小見川君、良いかな?」
「あっ、俺約束が有ったんだ。悪い工藤」
あっという間に小見川が他の男子の方に行ってしまった。
「ごめん、工藤君」
「いいよ。行こうか」
「うん」
あーぁ、工藤君と門倉さん、仲良く学食に行ってしまった。
門倉さん、先週までとは全然違う。本気出して来たのかな?私も本気を出す?まだ早い感じがするんだけど。でも工藤君を取られる訳にはいかない。
放課後になると
「新垣さん、じゃあ今日は俺がやるから」
「うん、お願い」
工藤君が、スクールバッグを持って職員室に行った。図書室の鍵を取りに行ったんだ。私も図書室に行こう。
私が図書室の入口に行くと常連さんに混じって水島さんがいた。珍しいな。あっ、工藤君が来た。
彼がドアを開けて待っている生徒を先に入れると受付に座った。私も受付の傍の席に座って彼の仕草を見ている。
彼がPCに向っている。多分開室処理をしているんだ。あっ、手が止まった。私が直ぐに席を立とうとすると誰かが肩に手を置いた。
「新垣さん、直ぐに行っては駄目よ。貴方がここにいるのは彼も知っているんだから。彼から声を掛けられるまでは」
振り返ると水島さんだった。
「でも」
「もしあなたが居なければ彼をひとりでやるしかないんだから」
「…………」
どういう事なの。なぜ水島さんがここにいて私の動きを止めるの。まさか。
「ほら、また手が動き始めたわ」
「…………」
何も言えなかった。
この後も、本の貸出処理や返却処理、新しく入った生徒への図書カードの作成とか、つかえながらもなんとかこなしている。
予鈴が鳴った。常連さんが、パラパラと図書室を出て行く。工藤君が戻った本の書棚への戻しをしている。それも何とか終わり閉室処理をしようとして
「水島さん、新垣さん、図書室を閉めるので退室して下さい」
水島さんは工藤君に挨拶して退室して行った。本当は声を掛けたかったのに。
「どうしたんですか。新垣さん?」
「ごめんなさい。直ぐに出ます」
どうしたんだ。新垣さん?
俺は、PCの閉室処理をすると一度図書室の中を見て回った。忘れものとか、ゴミとか無いか確認する為だ。
そして図書室を閉めて職員室に鍵を返すと下駄箱で野乃花を待った。もう生徒は部活生を除いてほとんどいない。十分位して
「ごめん、終わりが少し伸びちゃって」
「いいよ。それより帰ろうか」
「うん」
私は祐樹(工藤君)と一緒に校舎を出た。
「待っていてくれてありがとう」
「約束したからな」
「もう、待って居たかったとか言ってくれると嬉しいんだけど」
「…野乃花と一緒に帰りたかったから」
「ふふっ、私も祐樹」
嬉しい、こんな事からでいいんだ。祐樹の心の中に少しずつ私を染み込ませていく。そうすればいずれ彼は私に告白してくれるはず。
工藤君と門倉さんが名前呼びしている。あの二人付き合っているんだ。何とかしなくちゃ。
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