第45話 悩む祐樹


 俺は、野乃花を家まで送った後、部屋に戻った。チラッと寝室を見ると先程までの事が思い出される。


 彼女はとても可愛くて性格も優しい。今まで決して俺のプライベートゾーンにも入って来ようとはしなかった。そういう意味では、いい友達なのかも知れない。


 体の関係は出来てしまったけど、それイコール彼女と言う訳でもないと思う。水島さんも俺の事を好きだと言い、策略に乗せられて彼女も抱いてしまったけど、決して彼女面する訳でもなく、俺との距離は、あれをする前と同じように保っている。


 野乃花に対してはどうすればいいんだろう。彼女は俺を好きだ。だから一番大切なものを挙げると言って…そして俺は彼女としてしまった。でもこれって水島さんと同じ?


 ちょっと違う気がする。野乃花は明らかに俺の彼女になりたがっている。俺の心の中にある一つの椅子に座りたいと言っていた。だから心の繋がりを強くしたいとも。


 俺は彼女とどうしたいんだろう。俺は野乃花を彼女にしたいのか。…まだそんな気持ちはない。


 心菜が俺を好きで、してしまって彼女として選んだ。それは俺が彼女を好きというよりしてしまった責任感から来ている。そして結果、簡単に裏切られてしまった。また、同じ事になるんじゃないかという怖さがある。


 俺が野乃花を好きだという確信が俺の心の中に無い限り彼女を恋人として付き合う事は出来ない。


 彼女は俺と心の繋がりを強くしたいというけどどうやってするんだろう。今のままでは今のままだ。


 俺は、直ぐに相手の気持ちに流される。だからこんな事になるんだ。俺だって、正常な男子だ、女の子の体に興味が無い訳ではない。でもこういう形でズルズル行くのは良くない。

 来週の土曜日は緑川さんと会う事になっている。彼女も俺の事を好きだと言っている。また同じ事になるのかな。でもそれって。



 頭が整理出来ないまま、遅くまで起きていたおかげで翌日の稽古で師範代に集中していないと注意された。

 確かに稽古の時集中していないと要らぬけがをする事になる。でも俺に何を決めろというのか。リビングから外の景色を見ていても何も解決しない。


 俺、恋愛とかに向いてないのかな?



 翌朝、未だ収まらない頭の中の疑問を一時、頭の中の机に仕舞い込んで学校に行った。


 教室に入ると小見川と新垣さんが挨拶をして来た。

「工藤、おはよ」

「工藤君、おはよ」

「小見川、新垣さん、おはよ」


 チラッと野乃花の方を見ると緑川さんと何か話をしている。あっ、二人がこっちに気付いた。でもこっちに来ることも無く、ニコッとしただけでまた二人の会話に戻った。水島さんを見ると本を読んでいた。


「工藤、どうしたんだ朝からキョロキョロして」

「あっ、いや何でもない」

「そうか。それなら良いんだが。悩みなら相談乗るぞ」

「ああ、その時になったら」


「工藤君、ちょっと良いかな」

 新垣さんが話しかけて来た。


「今週の当番なんだけど、まだ工藤君一人で受付するの厳しいでしょ」

「うん」

「だから、今週一杯一緒に受付しようか?」

「うん、助かる」


 良かった。これでまた工藤君と放課後は一緒に居れるし、帰りも一緒に帰れる。早くデート出来る関係にならないかな。でも急がば回れだ。確実に行こう。



 予鈴が鳴って担任の桜庭先生が入って来た。いつもながら魅力的な先生だな。あれっ、俺何言っているんだ?



 昼休みになり

「小見川、学食行くぞ」

「おう」


 あっ、小見川君と学食に行っちゃった。今度お昼誘ってみようかな。



 翌日は中間考査の順位発表が有った。朝上履きに履き替えてから掲示板に行くと、あっ七位に落ちている。やっぱり考査前一週間勉強少なかったのが響いたかな。でも今回限りだろう。学期末考査で頑張ればいいさ。


 俺はそのまま教室に向かうと

「工藤おはよ。順位落ちたなと言いたいところだが、俺もお前の事言えない。学期末は頑張ろうぜ」

「おはよ小見川。そうだな。巻き返さないと」


「工藤君、ごめん。私の所為かな?」

「何の事?」

「成績が落ちた事」

「あははっ、全然関係ないよ。普段の勉強が足りないだけだよ。一週間前にちょっとしないからって関係ない。それに新垣さんは、上がったじゃないか」

「そうなんだけど」

「気にしないで」

 実際は響いた。でもそれは彼女には関係ない事。俺自身の問題だ。


「工藤君、あの、昼休み一緒に食べれないかな?」

「えっ、小見川も一緒なら良いけど」

「うん、全然構わない。いいでしょ小見川君?」

「えっ、まあそう言うなら」

「じゃあ、お昼休みね」



「野乃花、理恵。最近新垣さん近過ぎてない?」

「「思う」」

「私達の方にも向けさせないと」

「そうだね」

 せっかく、祐樹と関係を持てたんだ。持ち逃げされてたまりますか。優子との作戦も実行しないと里奈が横取りするかも知れないし。



 授業も終わり、図書室に行こうとすると門倉さんと緑川さんが近付いて来た。

「ねえ、工藤君。今日図書室終わったら一緒に帰らない?」

「えっ?部活あるんじゃないの」

「図書室閉まる頃に今日は終わるんだ。いいでしょ」

 つい、新垣さんの方を見てしまった。


「あっ、工藤君。私は別に良いよ」

「ごめんね、工藤君と話が有ってさ」

「ううん、全然気にしないで下さい。工藤君とは図書委員の関係ですから」

「じゃあ、工藤君。後でね」

「ああ」


 私、水島里奈。優子と野乃花が最近以前より工藤君に積極的だ。たぶん新垣さんが理由。でもここは静かに見守るか。彼女達は自分の武器を使う程勇気はない。



 

 予鈴が鳴り、図書室に居た生徒達がバラバラと帰って行く。

「工藤君、今日返却された本を書棚に戻すから手伝って」

「はい」

「じゃあ、工藤君はこの五冊お願い」


 俺は、新垣さんから渡された本をカテゴライズされている書棚に戻して受付に戻ろうとした時、緑川さんと野乃花が現れた。


「良かった。まだ開いていた」

「あの図書室は…あっそうか。工藤君図書管理システムの閉室処理はやっておくから先に帰っていいよ」

「それ一緒にやります。まだ覚えていないので。後鍵も俺が返します。慣れないといけないから」

「分かった。じゃあ一緒にやろうか」


 五分程で図書室を閉め終わると

「じゃあ、工藤君、鍵お願いね」

「はい、職員室に返しておきます」

「じゃあ、工藤君またね」


 新垣さんが先に帰って行った。

「俺、職員室に鍵返しておくから下駄箱で待っていて」

「「分かった」」



 工藤君が鍵を返しに行った。私と優子で下駄箱に行きながら

「結構、距離感近くなっているね」

「うん、工藤君、新垣さんと話す事に抵抗が無くなっている。私達の時はこうはいかなかった」

「そうだね。何とか私達の方に気持ちを向かせないと」

「うん」


―――――


 工藤君をめぐる女性達の戦いは、まだまだ先が長そうです。

 

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