第25話 文化祭 一日目


 私立松ヶ丘高校では九月の第二週末の土日に文化祭が行われる。俺のいる1Aのクラスは、外の模擬店で焼きそばを販売する事になった。

 クラスの中に親がスーパーを経営している男の子がいて、そこから具材を一式仕入れ値で提供してくれることになっている。



 二日間行われるので、一日目は午前と午後二組、二日目は、午前と午後一組で行う事になった。二日目の午後二組に当たる時間は、片付けの時間にする事になっている。


 一クラス四十人なので、一組八人で五組作る事が出来る。俺は、一日目の午後一の組になった。

 メンバは、俺と小見川と緑川さん、一条とあまり話した事のない男女二人ずつだ。残念ながら橋本さんは二日目の午前に回ってしまった。


 後、緑川さんと一条は吹奏楽部の発表時間の調整で、この時間帯になったらしい。門倉さんも演劇部なのでその時間帯は調整して貰ったようだ。

 


 俺は、橋本さんとは二日目の午後一緒に回ろうという事にしている。まあ、緑川さんも門倉さんも一緒に回ろうという事を言っていたが、二人共残念ながら発表の関係で俺と一緒に回る事は出来ない様だ。ちょっと安心。


 と思っていたら、水島さんが、二日目午後一の組なので、二日目の午前中は一緒に回ろうと言って来た。

 彼が居るのだろうけど、学園祭までは来ないし友達としてなら問題ないだろうと思って受ける事にした。


 一日目の午前中、小見川と一緒に教室で駄弁っていると橋本さんがやって来た。


「工藤君、一緒に回るの明日の午後からだけど、今日の午前中は時間開いているよね。一緒に回らない?」

「でも今日は午後一の組だから、十一時位にはお昼食べたいし。今からだとあんまり時間無いよ?」

「一緒にお昼食べるなら今から一時間半はあるよ」


 俺は小見川の顔を見ると

「俺は別に構わないよ。行って来たら」

「でもなあ」

「お願い」


 橋本さんが顔の前で両手を合わせて少しかがんで俺を上目遣いで見て来る。

「行って来いよ工藤。橋本さんがこんなに頼んでいるんだ」

「ねっ!」

「分かった。じゃあ十一時半までね」

「うん」



 俺と橋本さんは、一年生で教室で催し物をしているクラスから回った。1Bに入った時、図書館の受付で俺を睨みつけていた女の子が絵画の説明をしていた。


 俺達が近くに行くと何も言わないまま、俺の顔を見て何故かプイッとされてしまった。俺何かしたっけ?


 1Cは入らなかった。理由は簡単だ。美月と田中がいる。とてもじゃないが顔を合わせる気にならない。


 1Dと1Eは外で模擬店をしているみたいで教室には数人が居ただけだった。その後、2Aと2Bの教室で展示しているクラスを見て回った所で午前十一時になってしまった。

「橋本さん、模擬店で何か食べようか?」

「うん、でもうちのクラスの模擬店は行きたくない。意味分かるよね工藤君」

「そうだな。それ正しいかも」


 1Aが模擬店を出店しているエリアを避けて三年生が模擬店をしているエリアで食べる事にした。


 三年生はまだ一年生を知らない人も多くいる見たいで、模擬店を回る度に調理や盛付けの人、会計の人が男女問わず橋本さんの胸をジッと見て驚いた後、何故か俺の顔を見て睨みつけられた。


 俺達は、焼きそばとたこ焼き、それに唐揚げを買った後、自販機で水とジュースを買って飲食エリアのスペースに置いてあるテーブルで一緒に食べた。


「結構美味しいね」

「そうだな。俺達のクラスの焼きそばの味はまだ知らないけど、これも中々旨い」


「ねえ、工藤君。月曜日が片付けで、火曜と水曜日が代休でしょ。工藤君の部屋に行っても良いかな?」

「いいけど。何か気にする事有ったっけ?」

「ううん、何も無いよ」


 工藤君、もうあれは受け入れてくれているんだ。嬉しい。もっともっと私の体で工藤君の心を掴むんだ。




 私、渡辺美月。最近、賢二の態度が前と変わって来た。ううん、夏休み前からかも知れない。

 夏休みはずっと一緒になりそうだから嫌だなと思っていたんだけど、週に二度位しか会わなくなった。もっとも会ったらあれしかしない。


 彼は夏休み中バイトをしているので会えないという事だった。そういう事なら仕方ないし、前の様に会えばするだけの状態は嫌いだったので、私の取っては都合が良い。


 でも一人の時間が多くなると思い出すのは祐樹の事ばかり。夏休み中どこかでばったり会ってなんて思ったけど、そんな事は無かった。


 賢二は今日の学園祭も休んでいる。何をしているのか分からない。賢二との関係がクラスの子達に知れ渡る様になってから女の子の友達はみんな離れてしまった。


 だから、この文化祭の催し物の担当の時間以外は一人でいる。私は一人でお昼を外の模擬店で食べようと三年生のエリアに来て見ると、祐樹が可愛い女の子と一緒に楽しそうにお昼を食べていた。


 あれは、確か橋本心菜さん。可愛くて胸が大きいのが有名な女の子。羨ましい。本当はあそこには私が座っていたはず。


 自分の愚かな判断ミスで祐樹が離れて行ってしまった。もう近付くに行くのも無理なのかな。意図的に近くを通ってみたけど、やっぱり無視された。



 美月が俺達の傍を歩いて行った。一人だ。田中とか言う奴と一緒じゃないのか。俺にはどうでもいいけど。

「工藤君、気にしない気にしない。食べよ」

「そうだな」



 俺と橋本さんは教室に一度戻ると、結構教室の中で食べている生徒も多かった。一条と緑川さん、後俺の知らない女の子が三人で楽しそうに食べながら話している。小見川もクラスの男子と楽しそうに食べていた。俺が席に着くと


「工藤、デートはしっかりと出来たか?」

「デートじゃないって」

「否定する事無いだろう。橋本さんとお前が友達だとしても女子と二人で歩いていたんだ。デートだって」

「そんなものか」


 何故か、橋本さんが胸の前で両手を握りこぶしにしてうんうんと顔を縦に振っている。



 交代時間になり、小見川や一条達と一緒に1Aの模擬店に行くと結構な生徒の列になっていた。


「おう、皆待っていたぞ。丁度ピークだ。具材運搬と具材切り担当、盛付け、会計をスライドしながら変わってくれ」

「「「了解」」」


 午前の部のリーダが俺達に言うとそれぞれの担当と個別に擦り合わせしながら入れ替わった。


「工藤、もやしが足らない。キャベツも一緒。あっ、肉も一緒に持って来てくれ」

「分かった、直ぐに持って来る」


 俺は、学食の倉庫の一部を借りて置いてある野菜や肉を取りに行った。勿論肉は冷蔵庫の中だ。


 女の子はフロント、焼きと盛付け、会計を四人で担当して貰っている。裏方が男達だ。

 俺は、言われた具材を持って来た段ボールに入れて急いで模擬店に持って行こうと学食の裏の通路を歩いて行くと美月が前から歩いて来た。

 俺は彼女を無視してすれ違うといきなり


「祐樹、待って」

「誰だか知らないが、俺急いでいるんだ」

「そんな無視するなんて。美月だよ」

「昔そんな名前の可愛い女の子がいた覚えが有るけど、その子は俺の心の中で死んだんだ。だから、君が誰だか知らないよ。急いでいるからじゃあね」


 酷い、でも祐樹を裏切ったのは私。祐樹が模擬店を離れて段ボールを持って校舎に行ったから学食に具材を取りに行ったのだと分かった。だから後を追いかけて来たのに。


 もう私は、彼の心の中で死んだ人になっているんだ。蘇る事は出来ないのかな?



 全く、付いていない。学食の倉庫に具材を取りに来たら美月から声を掛けられるなんて。早くこれを持って行かないと。


 模擬店に戻ると、まだ生徒の列が有った。凄いな。

「おう、来た来た。早く切ってくれ」

「「了解」」

 

 これだけ人気あるなんて、そんなに旨いのかな。後で食べてみるか。その後午後二時半で俺達が午後の二組に交代すると、ちょっとだけ食べさせて貰った。


 凄い。プロ顔負けだ。普通にレストランで出せる。ここにいるのは皆普通の男の子と女の子なのに。後で理由を聞いてみるか。




 一日目は、何の問題も無く、文化祭が終了した。明日は、外部の人も入って来るからもっと混みそうだな。何も無いと良いんだけど。


―――――


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