第17話 門倉さんとプールデート
俺は実家に帰った翌日から家族と一緒に思井沢にある別荘へ家族旅行に出かけた。いわゆる避暑というやつだ。でも十分に暑い。毎日二十五度を上回っていて、散歩は朝か夕方位しか出来ない。
後は割り当てられた部屋でゴロゴロしているだけ。近くに有名な思井沢銀座通りやショッピングモールがあるけれど、わざわざここまで来て人混みの中に行く気はしない。
二日目の夜は、別荘の近くにある常設のBBQの出来る所で家族で楽しんだ。別荘の庭でも出来るが火災の危険や後片付けを考えるとこういう所の方が楽でいい。それに毎年同じ時期にやって来る他の家族とも和気あいあいとしながら出来る。
三泊四日の家族旅行も終わり、最後の一日を実家で過ごした後、八月十一日に自分のマンションに戻った。
実家に行っていたはずなのに、自分のマンションの部屋に帰ってくるとホッとするのは気の所為かな。
俺は、今自分の寝室にある机の上の卓上カレンダーを見ながら考え込んでいた。明日は、門倉野乃花さんとまた、あそこのプールに行く。もう三回目だ。流石にちょっと飽きて来た。どうせ同じシチュエーションになる。
門倉さんだって、とっても可愛いし、胸だって普通にある。ウォータースライダーを思いだすと嫌になる。
しかし、約束してしまったし、今からキャンセルは出来ないだろうし、せめて遊園地とか映画とかに変更できないだろうか。
あっ、連絡先知らない。俺のマンションの最寄り駅に明日の午前九時半に約束しているだけだ。はぁ仕方いか。
門倉さんの家の最寄り駅は、俺のマンションのある駅から三つ目。なんと空手の道場がある駅と聞いている。どこかで会っているかもしれないな。
俺は翌日朝、午前九時十五分に俺のマンションのある駅の遊園地方向側のホームの一番後ろの車両が止まる位置で待っていると思ったより早く門倉さんが乗って来た。
彼女が電車の開いたドアから手を振って来た。俺は直ぐに同じドアから電車に乗ると
「門倉さん、おはようございます」
「おはよう工藤君。結構日焼けしているね。何処か言って来たの?」
「うん、ちょっと家族で」
この日焼け本当は先に二回行ったプールで焼けた。思井沢ではどちらかと言うと引き籠っていたから。でもそんな事言えない。
「門倉さん、可愛いね」
「ありがとう」
彼女は、ノースリーブだけど肩にフリルのある白いシャツと黄色のショートパンツ。それにオレンジと茶のチェックのかかと付サンダルを履いている。
肩までの黒髪でやや丸顔、目がぱっちり二重瞼で少し大きい口の可愛い子だ。そんな子がニコッとするとこちらもつい微笑んでしまう。
俺なんか紺のTシャツとネイビーブルーのハーフパンツ、それにかかと付のサンダルだ。流石に暑くてこの格好になってしまった。だから日焼けが目立ったんだ。
ここからだとまだ座る席はある。二人で並んで座ったのはいいが話す内容が無い。なにせ彼女とはカラオケの時、少し話した位でそれ以外接点が全然なかったから。
何とか彼女から話し始めてくれないかと待っていると
「工藤君って、泳げるの?」
「うん、少しは」
「どの位」
「二千メートル位」
「二千メートルって少しとは言わないよ。可笑しな人。私は全然泳げない。優子達とプールって言ったんだけど、実言うとちょっと苦手意識あるんだ。だから工藤君リードお願いね」
えっ、そうなの。ならプール止めるか聞いてみよ。
「門倉さん、じゃあ、プール止める。俺はいいよ」
「ふふっ、それは駄目。優子や里奈に負けるわけにはいかないわ。女の子同士の勝負なの」
「…………」
俺なんて返せばいいんだ。
また少しお互いに無言の時間が流れた。
「あの俺、門倉さんとこうして二人でいるの初めてだから何話せばいいか、ちょっとごめん」
「ふふっ、いいよ。無理しなくて。工藤君とこうして一緒に居れるだけでもなんかいいなあって思っているから」
「そう言ってくれると嬉しい」
門倉さん、橋本さんとも水島さんとも緑川さんとも違う。また新しい人種だ。でも俺にはいいかも。
二人共あまり話さずに十四個目の駅、遊園地の駅に着いた。他の人の後に付いて降りるとそのままチケット売り場に行った。
順番が来て、チケットを買おうとして売り場の中の女性を見ると、良かった前と同じ人じゃない。
俺達は、遊園地のゲートでチケットを見せて、直ぐ右に曲がってプール側の入口に行った。
「工藤君、なんか慣れているね」
「そ、そうかな。気の所為だよ」
ふふふっ、工藤君。ここには心菜、優子に続いて私で三人目でしょ。結構恥ずかしがり屋さんだな。
二人で更衣室の前で待合せる事にして、お互いが更衣室に入った。俺は今日はサポータ一枚だけ。後は海水パンツを履いて、防水バッグに貴重品とキャップを入れて更衣室の外で待つことにした。
私は更衣室の中で着替え始めて、ふと思ってしまった。そう言えば、人前で水着姿見せるなんて家族以外いない。えっ、じゃあ工藤君が初めて。わっどうしよう。
でもここまできて。
ええーい、いいや。行くしかない。他の子に負けるわけにはいかない。
私は、着替えが終わるとタオルと貴重品の入った防水バッグを持って更衣室を出た。勿論、ラッシュガードはきっちりとジッパーを上まで上げている。
あっ、門倉さんが出て来た。ラッシュガードのジッパーをきっちりと閉めているから胸周りは分からないけど、下は黄色にフレアの付いた水着だ。何となく安心。
「工藤君待ったぁ?」
「うん、でも女性は時間かかるから。あっ!」
「ふふっ、もう優子からしっかりと工藤君とここに来た時の様子は聞いているから。隠さなくても良いよ」
なんだ。そういう事か。
「工藤君、何処座ろうか?」
「えーっ、じゃあ、あそこ」
俺はまた監視員の傍のテーブルを指すと、
「うーん、あそこも良いけど。あっちはどう?」
監視員の周りは人が一杯いる。出来ればそういう所は避けたい。
「いいけど」
あそこは橋本さんが危ない目に遇った所。あんまり行きたくないけど仕方ない。
俺達は、門倉さんの言ったテーブルに着くと彼女はラッシュガードを脱いだ。この子着やせするんだ。制服を着ている時は分からなかったけど、結構なボリュームがある。黄色のセパレーツを着ている。
簡単に準備運動していると
「工藤君って、凄いね。腹筋バキバキだし、贅肉とは無縁の体だね。何かやっているの?」
なんかこれ三回目だな。
「うん、父親に言われて空手を小学校三年からやっている」
「空手?どこの道場なの?」
「多分門倉さんの家のある駅から降りて十分位の所」
「えっ!そこってうちの直ぐ側だよ」
「ほんとに!」
なんという偶然だ。会っているかもしれないな。
「へーっ、じゃあ、稽古終わったら、少し位話出来るかもね。声掛けて」
「いいんだけど、稽古終わった後はちょっと」
「ふふっ、汗の匂い気にしているんでしょ。いいよ工藤君だったら」
「…………」
どう返せばいいか分からない。
二人で話をしていると門倉さんが、プールの傍に行って座ると足だけ入れた。足をパチャパチャしながら嬉しそうな顔をしている。やっぱり他の人と違う感じ。
俺も隣に座って足をパチャパチャしていると門倉さんがプールの中に入った。そして俺の方を向いてにやっとすると
「えいっ!」
「うわっ!」
いきなり俺に水を掛けて来た。この子悪戯っ子?俺も負けずにプールに入って彼女に水を掛け始めた。
二人で掛け合いっこしていると流れるプールなので親に連れられて浮輪で遊んでいる男の子に
「ねえ、お母さん。あの二人。子供っぽいね。水かけしているよ」
「「えっ!」」
手を止めて子供の方をジッと見ると
「お母さん、あの二人恋人同士かな?」
「これ、そんな事言ってはいけません」
「はーい」
そのまま、その親子は俺達の傍を離れて行った。
恥ずかしい。子供にあんな事言われてしまった。下を向いていた顔を起こして門倉さんを見ると顔を赤くしながら
「わ、私達、恋人同士に見えるのかな?」
「い、いや子供だから」
「そ、そうだね。ねえ、あれに乗らない?」
彼女が指差したのはウォータースライダーだ。またか、仕方なく
「いいよ」
「行こうか」
十分程並んで俺達の順番が来た。あの時の係員だ。この人ずっとここで仕事しているんだ。何故か俺の顔を見ながらニコニコして
「はい、彼氏さん前に座って彼女さんは後ろね。手を彼氏さんのお腹に回してぎゅーっと握って下さいね」
「はーい」
ほんとは思い切り恥ずかしいのだけど優子もやったって言っていたし、工藤君のお腹に手を回してぎゅーっと握った。私の胸が思い切り彼の背中に押し付けられた。恥ずかしい。
「はい、スタートして下さい」
彼が縁に置いていた手を離すと右に回り左に回り、その度に彼の背中に着けた胸がよじれる。ちょっと変な感じ。
俺の背中に門倉さんの胸が思い切り押し付けられている。不味い。今日はサポータ一枚だけだ。不味い。
サッブーン。
「うわーっ、面白かった。もう一度やろう」
結局三回も滑ってしまった。流石に精神的にくたくただ。ちょっとあそこも元気になっている。仕方なく
「あの門倉さん、俺ちょっとトイレに行きたいんだけど、一緒に来てくれない?」
「えっ?」
彼何言っているの。私を男子トイレに連れ込むの?
「あっ、いや勘違いしないで。門倉さん可愛いし、スタイルが良いから、一人でテーブルに居させるのが心配で」
「そ、そうかぁ。工藤君、私の事心配してくれているんだ。じゃあ、側で待っているね」
ふふっ、工藤君、私の事可愛い、スタイルが良いって言ってくれた。嬉しい。
二人で男子トイレの傍に来て門倉さんに外で待っていて貰うと俺は急いでコンパートメントの方に入って、あそこを何とか静かにさせると急いで外にでた…けど。やっぱりここも駄目だった。
「君、可愛いね。俺達と遊ぼうよ」
「連れが居ます。退いて下さい」
「連れも一緒で良いからさ。ねっ」
急いで傍に行くと
「その人は俺の連れです。退いて下さい」
「なんだと」
振り返った男が、
「あっ、お前、この前の…くそ、行くぞ」
「あ、ああ」
なんと橋本さんに声を掛けて来た連中だ。ここのプールでナンパの練習でもしているのかな?
「工藤君、ありがとう。でもあの人達、君の顔見たら逃げて行っちゃったけど、知り合い?」
「いや、あんな知合いいない」
「ふーん。ねえ、波の出るプールが有るって聞いているけど行かない?」
「いいよ」
緑川さんや橋本さんと同じ状況になった。俺の鳩尾辺りに思い切り彼女の胸が押し付けられている。さっきより不味い状況だ。何度か、二人で跳ねている時だった。
「あっ!」
彼女の首に回して結んでいる紐が解けた。目の前にまさかのナマお胸が、
「きゃーっ!」
いきなりそのナマお胸を俺の体に思い切り付けて来ると
「工藤君、動かないでね。絶対に動かないでね」
「う、うん」
鳩尾辺りが何とも言えない感触だ。何だろう、このプチっとした感じ。
彼女は、解けて下がった水着を上に持って来ると器用に俺と彼女の胸の間に入れてそれから首に紐を回して結んだ。そして、少しだけ俺の体から離れておでこを俺の胸に付けながら
「見た?」
「いえ」
「見た?」
「いえ」
「見えたでしょ!」
「はい」
「責任取ってよ。まだ嫁入り前なんだから」
「でも、あれは」
急におでこを離して顔を上げると
「あははっ、工藤君顔が真っ赤だよ」
「だって、その…とても綺麗だったし」
バシッ!
いきなり頬を叩かれた。俺から少し離れてからいきなり思い切り水を俺に掛けながら
「ばっか、ばっか。エッチ、エッチ、工藤君のエッチー!」
俺は仕方なく水を掛けられっぱなしにしていると、今度はいきなり抱き着いて
「工藤君、覚悟あるならいいよ。もう見せちゃったし」
「えっ?!」
何も言えずにそのままにしていると
「ねえ、お腹空いた」
ふう、良かった。
「じゃあ、お昼食べようか」
それから、お昼を買って自分達のテーブルで食べて、少し休んだ後、流れるプールでまた少し遊んでから、遊園地を出た。
ホームで二人で電車を待っていると
「工藤君、スマホの連絡先教えて。また会いたい」
「いいよ」
俺はスマホの連絡先を門倉さんに教えた時、電車がホームに入って来た。電車の中では、三駅位彼女と話をしていたけど、その後、俺の腕に寄りかかる様に寝てしまった。
俺が降りる駅の一つ前の駅に着いた時、彼女を起こすと
「あっ、ごめん。寝ちゃった」
「寝顔可愛かったよ」
「もう、直ぐそんな事言うんだから。…工藤君、また二人で会いたい」
「うん」
俺が降りる駅に着いた時、
「プールで言った事本気だから」
「えっ?!」
「思い出してね」
俺は彼女が乗った電車がホームを離れるのを見ながら、なんだっけ門倉さんが言った事って?
全然思い出さずにいた。聞くしかないか。
―――――
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