7. Story.1 ~【日向に咲き誇る】~③
7. Story.1 ~【日向に咲き誇る】~③
翌日。土曜日の昼過ぎにあたし達は駅に集合することになった。小鳥遊先パイは白いワンピースを着てきた。とても綺麗だ。あたしは紺色のパンツに白のブラウスを合わせた。
電車に乗って小鳥遊先パイの家に行くまでの間、会話はなかった。ただ黙って座っているだけだ。
小鳥遊先パイの家は高級マンションの一室だった。セキュリティーがしっかりしていて安心できる場所だ。
「もしかして……小鳥遊先パイって1人暮らしなんですか?」
「両親は海外に行っているわ。仕事の都合でね。今は一人暮らしね。」
「なるほど…」
「ここは防音もしっかりしてるから気にせず本能のままに喘ぎ声を出して大丈夫よ凛花。」
「喘ぎ声!?」
小鳥遊先パイはいきなりとんでもない発言をしてくる。本当にこの人は何を考えているのだろうか。あたしが顔を真っ赤にして反論しようとすると小鳥遊先パイがあたしの口に指を当ててきた。そして耳元で囁いてくる。
「まぁそれは明日のお楽しみね。」
そういうと小鳥遊先パイが鍵を開けて家に入る。少しの時間惚けていたが、あたしもそのあとについていく。家の中は綺麗に整理整頓されていた。
リビングのソファーに腰掛けて一息つく。ふぅ……。小鳥遊先パイはキッチンに向かってお茶を用意してくれているようだ。
あたしは手持ち無沙汰だったので、部屋の中を見渡すことにした。まず目に入ったのは本棚だ。色々なジャンルの本が並んでいる。その中にライトノベルのコーナーがあった。かなりの数だ。さすがは小説演劇同好会だけはある。
「はい。お待たせ。」
小鳥遊先パイがお茶を持ってきてくれた。あたしは礼を言う。
「ありがとうございます。いただきます。」
「凛花。聞いてもいいかしら?」
「なんですか?」
「今なら……やめることできるわよ?どうする?これは部活動の一環だけどあなたの気持ちまで強制するつもりはないわ。」
突然の言葉。意味が分からない。一体どういう事だろうか。いつもの小鳥遊先パイならそんな優しい言葉をあたしには言ってくれないのに。あたしは困惑してしまう。今ならまだ引き返せる。そう思ってるのに……。どうしてか、ここで止めたくなかった。もっと知りたい。小鳥遊先パイの事を知りたかった。
「ここまで来て……断る理由がある方が難しいですよ……。それに小鳥遊先パイは笑うかもしれないですけど、あたしは今、【日向に咲き誇る】の日咲凛花になってるんです。」
「……そう。わかったわ。お互いに頑張りましょうね凛花。」
小鳥遊先パイの顔は笑っていた。でもどこか悲しげで、寂しさを感じさせる笑顔だった。それから夕飯を食べ、お風呂に入り寝る準備をする。
小鳥遊先パイの部屋にはベッドはあったけど、小説を演じるための布団が敷かれていた。その布団に二人で寝転ぶ。ふわりとした感触に包まれながら天井を見る。電気が消えていて部屋は薄暗い。
隣を見ると小鳥遊先パイがいる。横顔がとても綺麗に見える。あたしは思わず見とれてしまう。
「凛花。明日目覚めたらあなたは【日向に咲き誇る】の主人公、日咲凛花。私はヒロインのマリア=マルギッドになるの。だから今日はもう眠りなさい。」
「はい……。わかりました。小鳥遊先パイ。お休みなさい。」
「えぇ。おやすみ凛花。寝る前に服は脱いでおいてね?」
「言わなくてもいいですよ!恥ずかしいなぁ……」
あたしは頬を膨らませる。そんなあたしを見てクスリと笑い、小鳥遊先パイは目を瞑った。あたしも言われた通りに服を脱ぐ。裸になると少し寒かったので布団の中に潜り込む。気づくとそのまま眠ってしまったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます