第27話 後悔《ムツオ》

 宝具の片手剣を腰から引き抜き、長剣へと変化させる。そのまま目の前の敵へと真っ直ぐ突っ込んで、その首を刎ねた。

 モンスターの身体が床へ倒れる。斬り落とされた首がゴロゴロと転がる。

 返り血を嫌って後ろへと下がりながら、ムツオは長剣を元の片手剣へと戻して鞘にしまった。

 場所は中層上部。

 この辺りのモンスター相手ならば最早慣れたものである。


「行こう」


 そう言って仲間達を促し探索を再開した。

 今、ムツオはフォレストのメンバーと一緒にヨツカの遺体を見つけるため、中層をくまなく探索しているところだった。

 遺体があるのはカメラに映った光景からどこかの隠し部屋と判明しており、隠し部屋というのは大体、通路の行き止まりにあることが多いと言われている。

 そのため現在は中層の下部から一層一層、地図にある行き止まりを改めて調査しているところだ。


 ダンジョンの一層というのは広大なため、全体を見ようとするとどうしても時間がかかる。下の階層に下りるだけならそうでもなかったりするのだが。

 遺体が無残に腐敗する前に回収してやりたかったが、正直、それには間に合わないだろうと思っている。

 だが、例え白骨化してからでも必ず発見し、家族の下へ帰してやらなければ。折角、奇跡的に遺体が、モンスターに荒らされることなく無事に保全される環境なのだから。それが今回の一件に対するせめてもの罪滅ぼしだとムツオは思っていた。


 ヨツカの死の責任は全て自分にある。ムツオはそう考えている。

 特に悔やまれるのが、拒絶の意思を見せるヨツカに対し無理にでも加勢すると、自身が独断で決定したこと。あの時は本当に、下層モンスターに苦戦するヨツカが強がっているのだと思ったのだが、そうではなかった。彼の実力ならばそれは有り得ないことだときちんと気が付くべきだった。卓越した実力に見えていた彼でも苦手とするモンスターがいたのだなと、その程度に捉えてしまった。

 まさか深層のモンスターだったとは。


 迂闊に挑んだ結果、危うく仲間を死なせてしまうところでもあった。

 しかも一連の、そもそも下層探索に挑もうと思ったところからヨツカへの加勢に至るまでの行動の裏に、幼稚な対抗心があったことがより一層罪悪感を刺激する。

 最初に彼を意識したのは、配信で危機に陥っていた意中の女性、アザミを救出する姿を見た時だった。

 あの場に居合わせたのが自分達だったなら、そう思わずにいられなかった。

 それに続いて、翌日に視聴したその配信。


 同じ高校生、しかも自分の直ぐ近くに暮らす高校生がこれだけの力を持っているものなのかと嫉妬した。己の中に対抗心を燃やさずにはいられなかった。

 だから偶然、河川敷で彼を見かけた際、声をかけて勝負を挑んだ。

 結果、自分一人での力では決して届かなかったが、仲間達と一緒ならば全く太刀打ち出来ない相手ではないと判断した。

 そして、アザミに自分達も少しはやれるんだというところを見せたくて、下層探索を提案した。フォレストの仲間のうちレンとバクは元より下層探索に乗り気で、パーティ内の慎重派だったムツオ、ヒデタツのうちムツオが意見を変えたことでヒデタツも折れた。ヨツカとの手合わせの結果を説明するとアザミとヒカリも了承してくれた。


 それで実際、下層第一層のモンスターと戦って少しばかり余裕のある勝利を収められた。

 ヨツカに対して力になれるかもしれないと考えたのは、そうした調子付いていた瞬間であったことも影響しているのかもしれない。

 あのヨツカに貸しを作れる。これで個人では敵わなくとも、パーティとしては対等だ。心のどこかでそう思っていた。

 その結果がこの様。


 己の未熟が恥ずかしい。

 大勢から非難の声を浴びせられるのは当然だと思う。同時に、こんな事態に巻き込んでしまった仲間達、それからアザミとヒカリに申し訳がなかった。

 自責の念に耐えながら、ムツオの中層探索は続く。

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