第21話 土曜の朝

「おはようございます。今日は少し遅くなりました」

『おはようございます、王』


 早速コメントが付く。

「何で遅くなったの?」とリンネア。

 土曜日の朝、ダンジョン前で彼女を呼び出し、配信用のカメラを起動、それから配信を開始したところだ。

 言葉の通り、今日はいつもより配信開始が遅くなった。


「昨日、ちょっと外出が長引いて、それで寝るのが遅くなった。寝不足でダンジョンに潜るのは危険だからいつもより遅い時間まで寝た。そのせいだ」

「…………金曜の夜、外出、遅くまで……交尾!」

「なんてことを言うんだ」


 こういう連想をしてのけるくらいには精霊も人間の文化を知っている。


『交尾!』

『マジで?』

『高校生のくせに!』

『まあ年頃だからね』

『彼女いんの?』

『ヨツカ君昨日駅前で女の人と歩いてなかった?』

『高校生でも金曜の夜に彼女とデートしてやることやってるのにオレときたら……』

『私も恋人欲しいー』

『ちゃんと学生としても青春してるっぽくて安心した』

「放課後に遠出したら思ったより時間がかかっただけですよ」


 こちらを目撃したというコメントが流れてドキッとしたが、幸いそれに触れるコメントがその後流れることはなかった。

 本当に見られていたのだろうか。それとも単なる冗談として書き込まれたものが図星を突いただけなのか。

 俺の登録者数は五桁。このくらいだと目撃証言が出てもおかしくはないが、それでもそうそうこちらを知っている人物とすれ違う確率とも思えないので、判断に困るラインだ。

 アザミと一緒に出かけていたと素直に喋っていいものだろうか。過激な反応を示す者も出かねない気がするので、黙っておこう。

 リンネアが俺の首元に寄ってきて匂いをかいでいく。ちょっとくすぐったい。


『リンネアちゃんどうだった?』

『女の匂い!!』

『泥棒猫!』

『オレ達のヨツカ君を取らないで』


 流れるコメントに対してリンネアは、思わせぶりな笑みを浮かべてサムズ・アップした。どういう意味だそれは。

 というかフェアリーの嗅覚ってどうなのだろう。

 今ので何か分かったのだろうか。


『ああー』

『やっぱりセックスしたんだ!!』

「思わせぶりなジェスチャーは止めてくれ」

「もっとはっきり確認していい?」

「どこの匂いを嗅ごうとしてるんだ!」

『ちょ、リンネアちゃんww』

『ヨツカ君そこ変わって』


 リンネアをやんわりと引き離す。ちょっといつもより配信開始が遅れたくらいで随分な騒ぎだ。端を通り抜けてダンジョンへと入っていく他の探索者の視線が痛い。


「馬鹿なこと言ってないで、そろそろダンジョンに入ろう」

「りょーかい!」

「それでは……ああ、その前に一つお知らせが。明日、アザミさんの配信にゲストとしてお邪魔します。下層探索をしながら精霊の紹介をしていく感じになると思います。まだ配信でお見せしたことのない精霊や、一昨日新しく契約した精霊もお見せすることになると思うので興味のある方は是非見に来て下さい」


『未公開精霊!』

『まだ手持ちあったんか』

『無料で見せてくれるの気前良いな』

『新チャンネル開設おめ』

『交信成功おめでとう!』

『高校生にして何種類目の精霊だよ』

『凄すぎ。こちらとら五体目で手こずってるのに』

『ボクも早くテュル呼べるように頑張ろう』


 コメントに祝いの言葉が流れた。


「出来れば他のサモナーの皆さんと相互に情報交換出来る関係が築ければと思っているので、皆さんの中にも未知の精霊や珍しい精霊を呼べる方がいましたら是非コメントや、そうじゃなくてもご自身で配信するとか、SNSに投稿するとかして教えて下さると嬉しいです」

『無理w』

『まあ、そんな凄い精霊が呼べたらね』

『ヨツカ君の言ってるような人材と交流したいんだったら英語字幕付きで精霊の解説動画上げるとか、シャウターも英語で発信していくとか、そういうふうにしていった方が良いと思う』

「ああ、海外向けのコンテンツですか。サモナーも割と希少なジョブですからね。本格的に交流を求めるんだったら確かにそれも視野に入れた方が良いかも」


 英語はあまり得意ではないが、文章だけなら自動翻訳の力でどうとでもなる。


「それでは今日も淡々と探索していくので宜しくお願いします」


 そう言って、俺はスマホをポケットにしまった。

 そして上層、中層を越え下層に到達し少し進んだところで、俺は下層にいないはずの、深層のモンスター、デュラハンと遭遇した。

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