極限レベルだけど全ステータス「1」なのがバレて追放された最弱おっさん剣士ですが、レベル補正装備のおかげで勇者もドン引きするくらいに最強になったので追放者ギルドの局長として気ままに生きることにします

西塔鼎

【1】勇者パーティ

 暗く深いダンジョンの底で、響き渡るは幾重もの剣戟。

 松明のみの明かりが照らし出していたのは、無数のモンスターの蠢く影だった。


 ゴブリンにトロール、死霊に這竜クロウラー――そう広くもないダンジョンの通路にひしめくバラエティに富んだその大群と、相対するのはたった二人の人影。

 一人は、紅蓮の髪に純白の鎧を纏った美しい少女。

 もう一人は、身の丈ほどもある大斧を振るう全身鎧の巨漢である。


「はっはっは、勇者殿、流石にこの数はキツイなぁ!」


「そう思うならそんな楽しそうな声で言わないでほしいわね」


 鎧の巨漢――「重戦士」ゴウライの愉快そうな言葉に、眉間にしわを寄せながら返す少女――「勇者」エレン。

 そんな軽口を叩き合いながらも押し寄せるモンスターたちを切り伏せ続ける二人に、後方からどこか間延びした声が響く。


「できたよー。さーん」


「っちょっ、いきなり3カウント!?」


「にー」


「退きますぞ、勇者殿!」


「いーち、ばーん」


 舌っ足らずな声がカウントを終え、勇者たちがモンスターたちから剣を引き後ろに大きく跳ぶ。

 一拍遅れて膨れ上がる凄まじいまでの轟音と振動とでダンジョンの内壁が震え、そして――そこに密集していた凶悪なモンスターたちもまた焔に包まれて跡形もなく消え失せた。

 その現象……その「魔法」を引き起こしたのは、ダンジョンの通路ど真ん中で無防備に杖を掲げている一人のローブ姿の少女。

 「賢者」ルイン。頭の両脇で結わえた長い銀髪を爆風に委ねながら、彼女はぼんやりとした無表情で爆心地を見つめて――そんな彼女に向かってしかし、土煙をかき分けて飛来したのは一本の矢。


「あ」


 今の魔法で仕留めきったものと油断していた彼女の顔面に、鋭い矢が突き立たんとして。

けれどその寸前で、間に立ちはだかった者がその矢を肩で受けた。


「大丈夫、ルイン!?」


 矢を放った生き残りのゴブリンを斬り捨てながら勇者がそう叫ぶと、ルインはこくりと頷いて、己を庇ったその男を指差した。


「ウォーレスに、ささった」


「庇ってくれた、って言ってくれると嬉しいんだがな」


 苦笑しながらそう返して、その男……こと俺、ウォーレスは肩に刺さった矢を引き抜いて捨てる。

 やたら痛くて泣きそうだったが、年長二番目の意地もあるのでなんとかこらえて――とそこで、不意に暖かな光が俺の肩を包み、瞬間、嘘みたいに痛みと傷が消えてなくなった。


「もう、ウォーレスさんは無茶しすぎです」


 ふくれっ面でそう言ってきたのは、やはり後方に控えていた白いヴェールが印象的な金髪の少女。

 「聖女」ラーイール。この勇者パーティにおける癒やしの要だ。


「ちゃんと致命傷にはならないようにしたさ」


「それでも毒矢とかだったら大変です。死んじゃったらどうするんですか」


「あー、まあ、その時は迷惑かけるな。蘇生魔法は魔力の消耗も激しいって言うし」


「そういう問題ではなく――」


「ま、いいじゃない」


 唇をとがらせるラーイールと俺との間に、そう割って入ったのは「勇者」エレンだった。


「結果的に、ルインが危ない目に遭わずに済んだし。ウォーレスなら死んでも最悪置いていけばいいし」


「お前な」


「っていうかこんな低級ゴブリンの毒なんて、私たちの【抵抗】ステータスならまず罹らないでしょ」


 あっけらかんと言いながら、エレンは踵を返して通路の先――モンスターの大群が塵となって消え失せた先にある、大きな扉を指差し続ける。


「そんなことより、ここがダンジョンの最深部みたいよ。早くここにあるっていうお宝を回収して、街に戻りましょう」


「がはは、そうだな、勇者殿!」


 我が道を行く態度で一方的に宣言して歩いていく彼女に、俺たちもまた、小走りで後を追う。

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