第18話 リヴィオネッタ! リヴぃんあ゛……リヴィ!
ひとしきり、面と向かって笑われたミリオンは、あまりに楽しそうな少年の様子に、怒ることも忘れて屈託の無い笑顔に見惚れていた。
「何度も僕は
「それはちゃんと覚えてるわ! あなたに会いたくって頑張ったもの。忘れるなんてとんでもない! けど、キラキラ木漏れ日の綺麗な森の中で見たら、あなたの
臆面もなく正面切って少年の魅力を力説したミリオンに、少年が「ひゅっ」と息をのむ。頭が良いですねとか、よく似合う服ですね、なんて当然のことを告げるのと同じトーンで『尊い』やら『キラキラ輝く妖精』などと言われては流石に揶揄うことも出来ない。
「参ったなぁ……。君ってたまにとんでもないこと言うよね」
彼女の天然ぶりに、少年はようやく笑いの発作が治まったらしい。
「わたしは大真面目にあなたがキレイだって思ってるわ。それに、わたしらしく生きる力をくれたあなたに感謝だってしてるの」
更に畳み掛けられたミリオンの言葉に、少年は頬を染めつつも、気まずげに目を逸らす。
「僕はそんな大した者じゃないよ」
ポツリと呟くと、ミリオンが否定の声をあげるのを寂し気な笑顔で遮った。
「僕は成るとしたら
「どうして」と言いかけて、ミリオンは口を噤ぐ。自分と同じように、言えなかったり、言いたくない事情は誰にもあるはずだから。それでも推しの心を癒したい。
――だからミリオンは、あることを提案した。
「じゃあ、妖精さんなあなたが森に隠れて見付けられなくならないように、これから毎日一緒に素材採取をさせて! やっと会えたんだもの、一緒に居たいわ!!」
(そうよ! こんなキラキラしていて、全然知らないわたしを助けてくれたこの綺麗な男の子が、自信なさげで、自分のことを嫌っているみたいに言うなんて悲しいわ。だからわたしが何とかするのよ! 綺麗で、かっこよくって、優しくって、凄いっていっぱい伝えるの!)
少年が思わず仰け反る勢いで、ミリオンは真正面からグッと近付きつつ瞳をのぞき込む。真っすぐに憧れと賛美を隠さない視線を受けて、少年はさらに上体を逸らし、ミリオンはぐぐっと接近した。
譲れない思いを伝えるために、
2人の間で無言の攻防が繰り広げられ―――先に折れたのは、頬を染め、緩む口元を必死で引き結ぶ少年だった。
「わかったよ。そんな真っ直ぐな目を向けられたら、僕が負けるしかないじゃん……」
照れた様な、弱々し気なつぶやきに、ミリオンがぱっと表情を輝かせると、受けた少年はさらに頬の紅を濃くして口元を覆ったのだった。
ダメ元な気持ちもあったが、意外にもあっさりと受け入れてくれた少年との素材採取は、これで三度目だ。
(彼も自分の魅力に気付けるし、わたしも推しと過ごせるし、良いこと尽くしねっ)
弾む気持ちを足取りにも表すミリオンは、今日も元気に歌を
「今朝もキレイね! お天気が良いと――えと、
いつもの挨拶代わりの言葉を伝えると、少年は一瞬笑顔を曇らせ、不満げに唇を尖らせる。
「リヴィオネッタ」
「ん?」
「リヴィオネッタ。僕の名だ。今度からそう呼んで欲しい」
照れ臭そうに目を反らしたリヴィオネッタ。ミリオンはその初心な反応に目を奪われ、名前を教えてくれた喜びに目を輝かせる。
(リヴィオネッタ! リヴィオネッタ!! リヴィオネッタ!!! 絶対に忘れないわ、大事に呼ばなきゃ!)
「リヴぃんあ゛!」
「えぇー……」
心の中で何度も繰り返し、満を持して言葉に乗せれば、思いが勝りすぎて大切なところで噛んでしまったミリオンだ。心底残念な子を見る視線が正面のリヴィオネッタから向けられるのを感じて、彼女は半泣きだ。
「リヴィでいいよ。特別だからね?」
「リヴィ……」
今度はしっかりと音に乗せることが出来た。それよりも―――
(特別って!!!)
名前一つで、ぱぁぁっと分かり易く顔を輝かせたミリオンに、リヴィオネッタは心が温かくなるのを感じるのだった。
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