第7話 天使の企み(ビアンカside)
ビアンカが初めてセラヒムに出会ったのは、彼が政略結婚の相手である義妹との義務的な茶会を行うため、婚約式後初めてオレリアン邸へやって来た時だった。
「きゃぁ! 大変、魔法でお花が飛び散ってしまったわ!!」
茶会の準備が整った東屋へ歩を進めるセラヒムの前に、ぶわりと色とりどりの花弁が舞い上がる。
幻想的に花弁が舞う中を、ピンクブロンドの髪を揺らし、純白のレースを幾重にも重ねた可憐なドレスを纏った少女が戸惑いも顕わな様子で飛び出してきた。
「君は確かミレリオン嬢の姉君だったかな。この素敵な花の演出は君が?」
震えるビアンカに美しい笑みを向けたセラヒムが、ひらひらと降り落ちる花弁の雨を手に受ける。
「演出だなんてそんな……。お恥ずかしながら、このオレリアン伯爵家に相応しくあろうと魔法の真似事を致しておりました。まさかこのように、プロトコルス様の御前に姿を現わすことになるなんて。何もせずとも、このように素敵なお方の婚約者となれた妹が羨ましくて仕方がありませんわ」
悲し気に眉を垂らして、儚げな微笑みを浮かべれば、彼女の目論見通りセラヒムが微かに目を見張ったのが見て取れた。彼の瞳のなかにチラリと見えたのは情欲の色。思い通りの展開に、ビアンカは辛さを堪えて顔を伏せるふりをしながら、そっと口角を吊り上げた。
この出会いは偶然などではない。この日、この場所で最高の演出の元、セラヒムに自分を見初めさせようと用意周到に計画されたものだった。
(邪魔なミリオン。けど、こんな素敵な婚約者を私のために用意してくれたと思えば、ちょっとは役に立ったのかしらね)
自分との出会いに満更でもなさそうな視線を向けるセラヒム。その様子を隠し見たビアンカは、うっそりとほの暗い笑みを浮かべた。
ビアンカとミリオンの父であるオレリアン伯爵は、貴族の中でも多くの使徒を輩出する事で知られる由緒ある家系の当主だった。そして野心家でもあった彼は、自身の血族から使徒を輩出し、高位貴族と縁付かせることによって権力を手に入れようとした。
妻はオレリアン家と同じく、何人もの使徒を系譜に持つ家門から娶った。そのために、彼女の婚約者であった男を引き離すため、彼の家が没落する様に画策し、また彼女自身の価値も落としてより手に入れ易くする様に、醜聞を作り出すなど並々ならぬ労力を掛けた。
苦労した甲斐あって、目当ての女を妻にすることはできたが、ただ駒になる子さえ出来れば良かった為、そこに愛情はなかった。
それだけでは不充分とばかりに、オレリアン伯爵は、容姿が使徒の伝承に近い女、魔力が強いと噂される女がいれば、身分関係なく子を生ませた。その甲斐あって平民の家系ではあったが、ひとりの女が天使によく似た容貌のビアンカを生み、彼を喜ばせた。反対に、苦労して手にいれた女の生んだ子は、どの使徒とも似ても似つかぬ容姿で、魔力も期待したほど持ってはいないようだった。
だからオレリアン伯爵は、貴族人気の高い「天使」によく似たビアンカを引き取ることにした。魔力は際立って高いわけではなかったが、この風貌ならば正妻の子とは比較にならないほどの、充分な商品価値があると判断したのだった。
そんな伯爵だったから、ミリオンと母が逢った事故は単なる偶然では無かった。
そしてビアンカも、その血を色濃く引き継いでいた。
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