6/24 楽しい悪魔

「もしそこのあなた」

「俺?」

「そうあなた。悪魔に興味ありますか?」

「いやないかな。塾の時間があるので失礼」

「ちょっと待って。お試しで5分だけお話を聞いて頂けませんか? 損はさせないので。あとこれつまらないものですが」

「クオカードじゃん。500円分も、いいの?」

「どうぞどうぞ」

「でもこれちゃんと使えるのかな」

「何ならあちらのコンビニでお買い物してきて下さってもいいですよ。ちゃんと使えますから」

「ああそう、そんじゃ遠慮なく」


10分後。


「ねえあそこ変だよ。セブンイレブンなのにファミチキ売ってる。しかもその横にはからあげ君」

「からあげ君は限定の塩レモン味だったのでは・・・?」

「なんで分かんの? そうそう塩レモン味だったよ。俺が一番好きなやつ。期間限定なのにめったに売ってなくて、困ってたんだよねえ」

「だから500円分買い占めて堪能されたという訳ですな」

「ああ分かる。しかもたまたま半額シール貼られてたから4つも買えたわ」

「それは良かったですね。そしてあなたはそれを偶然と思い込んでおられる」

「え?」

「いや微笑ましいなと思っただけですよ。その無邪気さが子どものように愛らしいというべきですかね。しかしどうでしょう。今は幸運が続いているからそのように能天気にはしゃいでおられるが、明日になると今日の分の不幸があなたの人生に一気に圧し掛かると、あらかじめ決まっているとしたら」

「……」

「理不尽ですよねえ。ええ顔がそう言っておられる。明日になればその顔で一日中過ごすことになるのです。そしてそれが明日も明後日も続くとしたら」

「……」

「しあさってもさきあさってもそのまたあさっても延々と続くとしたら、どうします?」

「……いやわくわくするね」

「は?」

「わくわくするわ。わくわくして心踊るわ。だって俺本質的にMだから」

「……すいません。ちょっと、間違えたようなので、失礼」

「いや全然間違ってないよ。お前もあれだ、同じ趣味なんだろ。だって悪魔に興味ありますかって、最初切り出したじゃん。……今のご時世、そういう切り出し方するのって、雑誌ムーの愛読者かSM愛好家しかいないんだよ。俺の調べだと。そしてどっちに属するかは面構えを見れば如実に分かる訳」

「いや私は……どちらでもないかなと」

「恥ずかしがらなくていいよ。中学生でSMに目覚めてる奴ってめっちゃレアだから。なあ今ヒマ? ヒマだよな。ちょっとならヒマだよな。じゃあちょっとあの公衆トイレで、サクッと一縛りしてこうぜ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る