幼馴染の彼女と異世界転移 ~フットサル魔法で異世界攻略~

滝川 海老郎

第1話 幼馴染と異世界転移

 俺は中学一年生。もう小学生じゃないんだ。

 俺には幼馴染がいる。しかしずっとお友達として付き合ってきた。

 今日こそは。覚悟を決めて、放課後すぐに声を掛けた。


「なあ、絵梨奈えりな。今日部活終わったら一緒に帰ろうぜ」

「え、なに、界也かいや。……いいよ、もごもご」


 絵梨奈がもごもごと恥ずかしそうに口を動かす。

 なにか言いたそうだけど飲み込んだようだ。

 彼女はそっと頭を縦に振る。

 答えはYesはいだったので、俺は心の中でガッツポーズを決めた。


 小学生の高学年になってから二人は疎遠気味だった。

 同じクラスだったので必要があれば会話はしていたのだけど、距離が以前よりも広がっていた。

 お互い異性として意識し始めていたから。

 先にそういう目で見るようになったのは彼女の方だった。

 仲のいい男子とも一緒に校庭を走り回っていたのだけど、それをしなくなったのだ。

 そうやって一つ、また一つと俺から距離を取った。

 一緒にいるところを他の人に見られると恥ずかしい、という思いがあったのだろう。

 確かに昔から冷やかされることはそれなりにあったから。


 しかし今はもう中学生だ。

 表立って付き合っている人はあまりいない。

 しかし裏では付き合っているカップルが何組かいることは知っている。

 俺も絵梨奈と、男女としてカップルになるんだ。

 俺たちは大人になる。もう小学生ではない。

 冷やかしとか一緒にいると恥ずかしい、とかは卒業するのだ。


 俺と絵梨奈はフットサル部だった。

 実は超強い男子サッカー部があり、女子サッカー部もそれなりに活動している。

 そうではない楽しくお手軽にサッカーをやりたい人が集まって十年ほど前に新設されたのがフットサル部だった。

 通常、運動部は時間ギリギリまで活動するものだが、フットサル部は「三十分前ルール」があり下校時刻の三十分前には活動を終えるようにしている。


 ほぼ同じ時間に終わって校門へ向かう。

 いた。絵梨奈が脇に立っている。

「よう」

「うん」


 言葉少なに二人でなんとなくを装って合流する。

 今は近くを歩いているただの人だ。

 角を曲がる。


「こうやって帰るのも久しぶりだな」

「そうよね」


 ちょっと女の子らしい言い方で絵梨奈が返事をしてくる。

 ドキッとする。

 昔は男女関係ない友達という枠に入れていたのに、いつの間にか女の子になった。

 ブレザーの制服にプリーツスカート。


 さっと横顔を盗み見ると以前と変わらない優しい笑顔を浮かべていた。


「手、ん」

「もう」


 周りを確認する。同じ学校の人は歩いていないようだ。

 しょうがないなという顔をして絵梨奈が手を差し出してくる。

 それをそっと手に取った。


「あっっ、なんだこれ」

「えっ、なに?」


 つないだ手から魔法陣のようなものが展開されていく。

 ああっと思っているうちにそれは俺たち二人を包む。

 眩しくて周りが見えない。

 ぎゅっと手を握り合う。大丈夫だ、彼女は離さない。なんとしても。



  ◇


 やっと収まったときには俺たちは謎の場所にいた。


「エリナ、大丈夫か?」

「ちょっと、手、痛い、カイヤ」

「ごごごご、ごめん」


 さっと手を離す。周りを見渡す。

 知らない。見たこともない。


「どこここ」

「さあね、なんか城壁が見えるわ」

「うん」


 あたり一面、草木が生えている。

 遠くには城壁に囲まれた都市が見えた。


「とりあえず人がいるみたいだから、あっち行ってみよっか」

「うん」


 俺の案にうなずいてくれる。

 さっと手を取り直して、今度は優しく握る。

 大切な彼女の手だ。


「城壁は黄色いレンガで、ちょっと中東みたいだけど」

「ごめん、俺よく分かんない」

「ちゃんと授業は聞こうよ。もう世界史や世界地理は興味ないんだっていっても」

「ごめんごめん」


 俺は平謝りだった。


「でも中東っていったら砂漠でしょ」

「うん。ここは一面緑。なんというか違うみたいね」


 城壁はなかなか近づいてこない。

 それなりの距離がある。かなりの大きさの都市なのだろう。


 日はまだ高い。

 俺たちは日ごろ運動はしているせいか、それほど疲れなかった。

 なんとか踏破して、城壁の前までたどり着いた。


「着いたね」

「うん」


 つないでいる手に力が入る。

 エリナも緊張しているのだろう。

 俺も気持ちギュッと握ってそれに応える。


「どうみても異世界だよね」

「異世界だね」

「これって『異世界転移』だよね」

「『異世界転移』だね」


 俺の言葉をそのまま返すエリナに俺は苦笑いだ。

 考えることを放棄してしまったようだった。


 門の前にはヨーロッパ系っぽい顔つきの人が三人。

 軽い鎧に槍を装備してこちらを眺めていた。


「行く?」

「うん」


 正直声を掛けることすら怖い。向こうは槍を持っているのだ。

 最悪の場合は殺されてしまうかもしれない。

 そんなことはないとわかっていても、声を掛けるのを戸惑う。


「カイヤ」

「うん、エリナ」


 お互いの顔を見る。

 エリナは美少女だな。とびきり可愛い顔は異世界に飛ばされても変わらない。

 彼女を守らないと。俺のせいでこんなところに飛ばされてきたのかもしれないのに。


「わかった、行こう」

「うん」


 俺たちは門番の前へと進んだ。

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