第81話:奇襲の魔法弾と懐かしの戦法

「あぶない!」


 声に反応して、サソリから顔を上げる。


 眼前に、多数の白い魔法弾が高速で飛来してきていた。

 距離はすでに間近であり、回避するには気づくのが遅すぎた。


 ロフェリアは俺より判断が早く、既に行動していた。

 両手を突き出し、魔力によるバリアを形成し、守ってくれていた。


 多数のスパーク音が響き渡り、魔法弾はバリアに多少の歪みを生じさせながら消滅した。


「あぶなかったね」


 事も無げにロフェリアは言う。


 魔法使いが共通で使用できる「守護方陣」を発動したのだろう。

 守護方陣は魔法にのみ有効な防御手段だ。


 高位の魔法使いは高度な守護方陣を用いることで、下位の魔法使いは彼らに傷一つつけることができない、とされている。



「……あぶなかったですね」


「うん。どこから飛んできたんだろうね」



 呆然とした俺のコメントは適当に流され、真っ当な疑問を投げかけられる。

 確かに、どこから飛ばしてきたんだろう。


 その疑問に答えるかのように、第二・第三波の魔法弾が飛んできた。


 周期的に、そして一斉に発射されてきているらしい。


 今度は守護方陣に頼らず、〈加速飛翔アクセルウィング〉で急上昇し、回避しながら魔法弾の発生源を確かめた。


 そんな上昇機動をも予見したのか、魔法弾が次々と飛来してくる。

 これでは、発生源を調べるのは無理か。


「これは任せてくれ」


 相変わらず平坦な口調でロフェリアが言い放つと、彼女は守護方陣を展開し、魔法弾を防いでくれた。

 その言葉に甘え、俺は多少の焦りを感じながら周囲を見渡す。


 どこだ。どこから来ている。

 そのとき、確かに見えた。氷雪を思わせるグレイスフェザーの背中に生じた異変が。


 ――グレイスフェザーの背中に数個の穴が開き、そこから白い魔法弾が生成されている。


 あれだ、間違いない。つまりこの魔法弾は、グレイスフェザー本体が発しているのだ。

 でもどういうことだ?


 なんで俺らが攻撃されなきゃいけないんだ?

 どう考えても攻撃されるべきは巨大サソリモンスター達の方だろ。


 などと心中で不平を鳴らしている間にも、魔法弾は次々とこちらに飛んでくる。

 そしてロフェリアが形成したバリアに阻まれ、弾けてスパークする。


 これだけを見ると無視できるようなどうでもいい牽制だが、多少ながらも守護方陣バリアに歪みを生じさせているあたり、彼女のバリアも無限というわけではないのだろう。


 あと、彼女のMP……ゲーム内用語に準拠して言うところの、貯蔵魔素がどれだけ消耗されたのかがわからないところにも不安があった。


 俺の〈竜魔法〉は全て彼女の魔素を使ってるし、さっきデザートスコーピオンの耐性を調べるのに高位魔法を連発してたし、今は守護方陣をほぼ展開させっぱなしになっている。


 ロフェリアが世界有数クラスの高位魔法使いである事は知ってるが、それでも無駄な損耗をさせるべきではない。



「クゥゥゥゥゥウウウオ!」

 魔法弾に気を取られ、巨体のデザートスコーピオン達の接近を許してしまう。


「この―――どけ!」


 焦りはいつしか苛立ちになり、再度急降下し、長剣ロングソードを突き立てる。


 着地して頭部を、胴体を、脚部を斬り刻む。

 どす黒い鮮血が、壮美なるグレイスフェザーの体表を穢していく。


 そして、時間の浪費を考えてはまた焦る。


(いや――落ち着け)


 時間はかかったが、俺は着地したのだ。

 そうなると――空中では出来なかったが、俺が何回も行ったことのある、多対一で有効な戦法が使えるじゃないか。



「クゥゥゥゥゥウウウオ!」


 デザートスコーピオン達は、奇怪な叫び声で威嚇しながら接近してくる。


「〈滅閃――」


 剣を右手で振りかぶり、左手で彼女ロフェリアをしっかりと掴む。


「む?」

 危機を察したのか、ロフェリアも守護方陣の構えを解き、そっと俺につかまる。



「――走駆〉!」


 残影を残して瞬時に駆け抜け、剣を振るう。


 背後では、やはり奇怪な叫び声が鳴り響いた。

 倒せたかどうかはともかく、このまま動力を潰すなり、グレイスフェザーを動かしている人物を見つけるなりしてしまおう。



「きみ……中々の超人だねぇ」


「え?……ロフェリア様に言われたくないんですけど」


 世界一の、とか言われてるお人が一体なにを言っているのか。


 俺はしゃにむに走り続けた。


 もちろん事態を素早く収拾するためであり、密着して感じる女性の香りや感触に惑わされまいと奔走しているわけではない。絶対に。うん。

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