第63話:繋がる点
弓兵隊を二分させた僕は東側に部隊を移動させた。
人数は、約三○人。少ないが、逃げないでいてくれて、かつ、僕の指示に従ってくれる人がいるというだけで御の字だ。
思えば、たった一人で部隊を指揮したのはこれが初めてだ。
実戦も初めてだし、部隊指揮も初めてだ。
忙しすぎて頭が熱っぽさと痛みを訴えているが、それは無視する。
遅まきながらも弓兵たちは、ゴブリンを狙える位置になんとか移動した。
前衛の遊撃兵たちは方陣を敷き、防御に徹している。
包囲された時のことを考えた陣形のようだ。
(ジークフリード様は、たった一人でなんとかするおつもりなのだろうか?)
だとしたら、一応、説明はつく。
まず遊撃兵を使ってゴブリンたちをおびき寄せて、僕らを逃がそうとしていたに違いない。
つまり、実は無策だが、僕を死なせないためになんとかなるというウソをついたということ。
(なんということだ)
ジークフリード様は噂に聞こえるような、冷徹無慈悲ではない。
黙って配下の者どもに道を示してくださるのだ。
誰だ、レッドフォードの人達は、情よりも戦いを欲する荒くれだなんて言った奴は。
根も葉もないうわさを無責任に広めた人物がいると想像するだけで、吐き気がしてくる。
湧き上がってきた怒りを、前方に広がるゴブリンに込める。
「きゅ、弓兵隊!射撃するぞ!用意!」
さっき教えてもらった号令をかける。
弓兵たちは一斉に矢を取り出した。
「構え!」
弓兵たちが、弓に矢を番える。
「狙え!」
上方向に弓の向きを変え、敵を狙う。
「打てぇ!」
約三○本の矢が、ゴブリンたちの群れに飛び込んでいく。
奇怪な悲鳴を上げ、何体かが倒れ、包囲が狭まっていく。
正直、爽快だった。
あれだけ苦しめられたゴブリンを、こちらが攻撃しているのだから――。
だが、そんな薄っぺらな優越感も、次の瞬間には吹き飛んでいた。
怒り狂ったゴブリンたちの一部が、こちらにやってくる。
「よ、用意!」
まだ距離がある。
接近されるまでに倒せば問題はない。
「構え!狙え!……打て!」
「次はもう少し低めだ……打て!」
「だ、大丈夫。大丈夫だ。……打て!」
都合三度の射撃。
だが、猛突進してくるゴブリンには、ほとんど当てられずにいた。
やはり、真っすぐ突っ込んでくる魔物がいるという心理的プレッシャーに、手を震わせない兵士はいなかった。
ゴブリンたちが突っ込んでくる。
あれだけ離れた距離だったのに。
もう距離がない。無尽蔵の体力があるかのように、ゴブリンたちは走り続けてくる。
今から逃げようかとも思ったが、あんな連中から逃げ切れるわけがない。
今度こそ、万策尽きた。
やはり、ジークフリード様の策に従い、余計な事はしない方がよかったのだ。
さよなら皆。
次に生まれてくるときは、せいぜい責任のない平民として生まれ変わって――――
「〈滅閃・走駆〉!」
誰かの声が聞こえた。
何かが斬れるような音がした。
「ジェラールく―――様!奇遇ですね、こんなところで!」
赤髪の騎士が、剣を振りぬいた姿勢のまま、爽やかに言った。
なにが起きているのかわからなかったが、ひとつわかったことがある。
さっきまでいたゴブリンたちが、一匹残らず倒れ伏しているということである。
バカげている。
こんなことが起こりうるのだろうか?
たった一人で、たった一瞬で、一○匹以上は居た筈のゴブリンを倒したというのか?
なんとかなりますから。
ジークフリード様の一言が、頭の中で反響した。
点と点が繋がり、線となる。
そうか。そういうことだったのか。
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